東京大学は6月26日、シロイヌナズナを用いた解析により、子葉が子葉になるためには、2つの遺伝子の働きが必須であること、これらの機能が失われると、子葉が形成されるべき場所から、代わりに根が形成されてしまうということを明らかにしたと発表した。

成果は、東大大学院 理学系研究科 生物科学専攻 博士課程4年の兼井麻利氏、同塚谷裕一教授、立教大学 理学部生命理学科の堀口吾朗准教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、6月5日付けで「Development」誌オンライン版に掲載された。

一般的に生物の体作りにおいて、どこに何の器官を作るのかは、厳密に決められている。植物の場合、地上部に茎と葉を、地下部に根を作り、これは種子植物全体にあてはまる大原則だ。

種子植物の体は根・茎・葉の3種類の器官のみから構成されている。葉は地上部の主要な構成要素で、花弁や雄しべなどの花器官も葉が変形したものだ。しかし、葉がそもそも葉らしくなるアイデンティティ確立の仕組みは、これまで明らかになっていなかった。

研究グループは今回、その仕組みにひょんなことから手がかりを得たという。モデル植物であるシロイヌナズナを実験材料に用い、「ANGUSTIFOLIA3(AN3)」と「HANABA TARANU(HAN)」の2つの遺伝子の機能を欠損させた「an3han二重変異体」を作成したところ、芽生えの、子葉が形成されるべき領域に、根や、葉と根の中間的な特徴を示す構造ができることに気づいたのだ。

そこで、AN3とよく似た配列を持つ「GRF-INTERACTING FACTOR2(GIF2)」遺伝子の機能も失われた「an3gif2han三重変異体」を作ったところ、子葉がほぼ完全に根に転換することもわかった。

子葉は植物が最初に形成する葉であり、胚発生過程で形成される。従って、AN3、GIF2を含むGIFファミリーとHAN遺伝子とは、胚で、子葉のアイデンティティを安定的に確立する役割を果たしていることが明らかとなった。

次に、子葉の位置で根ができてしまう原因を明らかにするため、根の形成にスイッチを入れる「PLETHORA1(PLT1)」遺伝子の発現を解析。その結果、an3han二重変異体の種子の中で発達中の胚を観察すると、PLT1の発現領域が、本来発現しないはずの頂端部(子葉ができる側)にまで拡大していることが明らかとなった。

そこで、このPLT1遺伝子の発現領域の過剰な広がりが子葉の位置に根ができる原因ではないかと考え、PLT1の機能を失わせたan3han plt1三重変異体を作成したところ、異常な位置での根の形成が完全に抑圧され、正常に子葉が作られたのである。従って、an3hanの地上部に根を形成させた原因は、胚頂端部でのPLT1の発現であることが判明した。

以上のことから、AN3とHANは、PLT1の発現抑制を介し、子葉のアイデンティティーを制御していることが明らかとなった形だ。今回、子葉形成の柱となる因子を特定できたことで、葉の形成機構全体の解明を加速させることにつながると予想される。

これは、子葉が正常に形成されるためには、根の形成プログラムを抑制する必要があるということを示した初めての成果というわけだ。

野生型の芽生え(左)とan3han変異体の芽生え(右)。an3han変異体では、本来ならば子葉が生えるべきところから、根が形成されてしまう(図中の矢尻)。スケールバーは1mm