富士通研究所は5月29日、無線センサネットワーク向けに、各センサが自律的に送信電力を最適に制御することで最大データ収集量が従来の2.6倍になる技術を開発したと発表した。

近年、散在するセンサが無線を用いて自律的にネットワークを形成し、様々なな情報を収集する無線センサネットワークが注目を集めている。特に、東日本大震災の発生以降、人が介在しない物同士の通信であるM2Mネットワークの必要性が高まっている。すでに、各家庭の電力検針の自動化(スマートメータ)をはじめとしたM2Mネットワークが商用化されており、今後もオフィスや工場だけでなく、橋梁や高架から人体に至るまであらゆる場所にセンサが配置されることが予想される。このような中、センサが高密度に遍在するような環境において、より安定したネットワークを形成することが求められている。

図1 M2Mネットワークの例

無線センサネットワークに使用されるセンサは、他のセンサがパケットを送信していないことを確認してパケットを送信する。ところが、互いに送信パケットが届かない関係にあるセンサ同士は、パケットを同時に送信してパケット衝突を引き起こすことがあった。

従来、各センサは通信距離をできるだけ確保するため、最大送信電力でパケットを送信してきたが、互いに送信パケットが届かないセンサの存在する領域が増大するため、パケット衝突が発生しやすくなってしまう。特に、各センサのデータを収集するデータ集約装置では、全センサの情報が集まるためパケット衝突が頻繁に発生し、通信の性能が著しく劣化してしまうという課題があった。

図2 パケット衝突の例

そこで今回、開発したのが、各センサが自律的に最適な送信電力に制御することで、最大データ収集量が従来の2.6倍になる技術だ。無線センサネットワークでは、全センサがデータ集約装置に向かってデータを送信するため、データ集約装置の周囲にパケットが集中し、それ以外の場所ではパケットがほとんど発生しないという特徴がある。そこで、データ集約装置におけるパケット衝突を最小化すれば、性能が大幅に向上できることに着目した。

同技術では、データ集約装置との距離が、最大通信距離Rの半分であるR/2をセンサがデータ集約装置と直接通信する領域と定義した。こうすることで、その領域に存在するセンサが互いにパケット検知することが可能となるため、データ集約装置が同時にパケットを送信することがなくなり、センサ同士のパケット衝突が無くなるという。

図3 データ集約装置と直接通信する領域

データ集約装置との距離がR/2以上のセンサが最大送信電力でパケットを送信すると、データ集約装置にパケットが届いてしまうためパケット衝突が発生する。そこで、データ集約装置と直接通信しないセンサは、データ集約装置にパケットが届かないように送信電力を絞り込むことで、データ集約装置でのパケット衝突が無くなる。

図4 データ集約装置と直接通信しないセンサの送信電力

データ集約装置と直接通信を行うセンサの送信電力を必要最低限にすることにより、データ集約装置と直接通信するセンサと、データ集約装置と直接通信しないセンサとのパケット衝突頻度を最小化する。つまり、データ集約装置と直接通信する領域のセンサは、領域内の最も遠いセンサにパケットがぎりぎり届く程度にまで送信電力を絞り込むことで、領域内のセンサ同士がパケット検知することが可能でありながら、データ集約装置と直接通信しないセンサとのパケット衝突頻度を削減することができる。

図5 データ集約装置と直接通信するセンサの送信電力

同技術を用いることで、最大データ収集量が従来の2.6倍に向上した。これにより、最もパケットが集中するデータ集約装置でのパケット衝突を大幅に削減することができ、安定した無線センサネットワークを形成することが可能となる。また、最大データ収集量が増加することで、少ないデータ集約装置数でネットワークを形成することができる。

図6 性能評価結果

今後、センサが高密度に遍在するような環境においても低コスト・高品質な無線センサネットワークを提供することができ、各家庭のスマートメータをはじめとした、人が介在しない物同士の通信であるM2Mネットワーク社会の実現へ向けて大きな貢献が期待できるとコメントしている。

同社では、自律分散型送信電力制御のさらなる高性能化、実環境での適用を図り、2014年度中の実用化を目指すという。