石川県金沢市を舞台に、メディアアートとクリエイターの祭典「eAT KANAZAWA 2012」(以下、イート金沢)が1月27、28日に開催された。本レポートでは同イベントの様子を数回にわたってレポートする。

デジタルクリエイターの祭典「eAT KANAZAWA 2012」密着レポート【1】
デジタルクリエイターの祭典「eAT KANAZAWA 2012」密着レポート【2】
デジタルクリエイターの祭典「eAT KANAZAWA 2012」密着レポート【3】
デジタルクリエイターの祭典「eAT KANAZAWA 2012」密着レポート【4】
デジタルクリエイターの祭典「eAT KANAZAWA 2012」密着レポート【5】

eatの"e"、セミナーC「earth」

最後のセミナーは「アース(地球)」がテーマ。イート金沢2012プロデューサーの菱川勢一氏がモデレーターを務め、これまた多彩な顔ぶれのゲストが登壇した。コミュニティデザイナーの山崎亮(やまざきりょう)氏、写真家でありWebサイト「X51.ORG」主宰者の佐藤健寿(さとうけんじ)氏、そして歌手の坂本美雨(さかもとみう)氏である。

コミュニティデザイナーという職業が世の中にあることを皆さんはご存じだろうか。山崎氏のプロフィールにある言葉を借りれば、「地域の課題を地域に住む人たちが解決するため」にコミュニティをデザインし、そのコミュニティのケアサポートをしていく仕事だそうだ。具体的にはまちづくりのワークショップを計画したり、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、市民参加型のパークマネジメントプロジェクトなど。ハードではなく、そこに住む人と地域が永続的に活性するための仕組みづくりをデザインしている。

佐藤氏は自然と珍奇、奇習やタブーといった視点で世界を旅し、その奇なるものを取材する活動を続ける写真家。世界60カ国以上を巡った取材記事は、自身が主宰するWebサイト「X51.ORG」にまとめられているほか、写真集『奇界遺産 THE WONDERLAND'S』(エクスナレッジ)として上梓された。とにかく、世界中を旅する彼の写真には、文化や風習の違いでこんなにも奇妙に思えるものや生活があるのかと驚くばかりである。

坂本氏は、父に坂本龍一、母に矢野顕子を持つ音楽一家生まれの歌手。現在は音楽活動に加えて舞台、執筆、ナレーションなどその活動内容は多岐にわたっているが、その一方で、動物愛護団体「Freepets」の立ち上げに関わり、一員として動物愛護のボランティア活動を行っている。「2012年は動物保護法の改正の年。それに向けて2年ほど前からペットショップを減らす、法律を改正する面でも署名活動をしています」(坂本氏)。今回彼女が話す内容は、そのボランティア活動からみた「アース」だった。

コミュニティとアース

三者の活動内容は、過疎化した地域が舞台だったり、世界中にある一般には変わってみられる、でもそこに住む人からすれば当たり前の世界だったり、天災や人災で見捨てられた動物の介護から新たな里親探し、飼い主探しだったりと三様だが、ひとつ共通項を見い出すとすれば、それは地に足がついたコミュニティ活動といえる。

ひとりの人間ができることには限りがあるし、だからといって大きな理想論を掲げてもそこに住む人にとっては現実味が持てないことも多い。地域住民の多少が地域の活性化を左右するわけでもない。ただ、鈍感になりがちな日常の中で、少しのきっかけ(アクション)と意識さえ持てれば、そこに住む人がそこで「豊かなくらし」をするためにやらなければいけない課題を正面から捉えていけることは可能だ。

「コミュニティデザインは地域を束ねていくのが仕事ですが、その地域にアクションをもたらすためには、コミュニティを大きくするとか広げていくことを目的とせず、いかにコミュニティを実感できるような仕組みを作り上げるのかが重要。そこにはつながりが大切で、コミュニティに関わる人たちが責任を持って耕し続けられれば、やがて文化として根づくと考えています」(山崎氏)

「中国・貴州省には世界で唯一、巨大洞窟の中にある村が存在します。年間水量が多いこの地域にとっては、快適なくらしができる場所が昔から洞窟の中だったわけです。しかし、みっともないという理由で近年、政府が作った外の村に出されてしまいました。ところがその後、政府は認めていませんが、村人は元の洞窟の中へ生活の場所を戻して暮らしています。学校もその中にある。一般的には変わって見られることでも、住民にとってはちゃんと理由のある当たり前の光景が世界にはたくさんあります。そこに行かなければわからない文化をこれからも伝えていきたいと考えています」(佐藤氏)

「年間で28万匹以上のペットが殺処分されている現実がある一方で、東日本大震災以降、被災動物の問題が起きました。Frrepetsではその後スグに福島で被災動物のレスキュー活動を始めました。地域住民の方々は、震災当初、(原発による)避難生活が何カ月にも渡るとは誰も想像しておらず、一時避難だと理解していた。つまり被災動物はやむなくな存在であり、飼い主は誰も見捨てる気なんて毛頭なかったわけです。愛護活動をしているコミュニティは、職業も年齢も関係ない人たちが集まっています。今ある現実を少しでもよくしたい、ただそれだけのためです」(坂本氏)

地球上にはあらゆるコミュニティが存在する。しかし、ただ外からそれを見るだけではなぜそれがコミュニティとして存在しているのかは理解できないだろう。「なにも日本をどうしようとか、そんな大きなレベルではなく、普段の生活から一歩前に出るだけで、自分に新しい目線が生まれることは多い。それが好奇心であり、豊かな暮らしにつながるセンス・オブ・ワンダー。来場者の皆さんは、今日の話からなにかひとつでも自分の日常の気づきにつながるものを持ち帰ってもらえれば、幸いだ」(菱川氏)

金沢という地で開催されるこのイベントもまた、人と人とのつながりで続くコミュニティといえる。本レポートでイート金沢を知った方は、ぜひ来年、足を運んで参加してみてはいかがだろうか。