iTunes Storeの楽曲は違法な音楽よりも歓迎されるものでなければならない
これまで日本の携帯電話サービスでは、楽曲まるまるダウンロードできるサービスがiTunes Storeよりも売上高が多く注目を集めていたが、最近はこうしたサービスの売れ行きが横ばいになっている。その原因は1つではないかもしれないが、このところ携帯電話からスマートフォンへの移行が進み、キャリア間の乗り換えも激しくなったことで、買い替え・乗り換えをしたユーザーの多くが過去に携帯で買った楽曲が端末やキャリアの乗り換えによって聞けなくなって困るという事態に直面し、使い勝手の悪さが明るみになってきたことも一因なのではないか。
これに対して、iTunesで提供している楽曲は、今回からすべてiTunes Plus、つまりDRMなしで提供されるようになっている。つまり何らかの理由でアップル製品から他社のスマートフォンなどに乗り換えても、そのままこれまでの音楽ライブラリーが聞けるのだ。ロウ氏に、実際にユーザーがどれくらいiTunes PlusのDRMフリーによる恩恵を受けているかを聞いてみた。
「実際のところは、ほとんどの人が『DRM』と聞いても、それがなんだかわからないのが実情ではないか、と思っています。ただ、色々な人から『DRMというのは怖いものだ』という話を聞いていて、漠然と『ない方がいいもの』と思い込んでいる。アップルのiTunes Storeというサービスは、そもそも音楽の違法コピーへの対抗手段として始めたものです。サービスを成功させ、合法的な音楽の購買習慣を促進させるには、iTunes Storeで提供する楽曲は、あらゆる点で、違法に流通する音楽よりも、ユーザーに歓迎されるものでなければなりません。DRMがない方がいいと信じているユーザーが多いからには、DRMなしで音楽を提供することが重要であり、そのためにiTunes PlusはDRMフリーで楽曲を提供しています。では、実際にどれだけの人が、これを活用して他のデバイスで曲を聞いているか、というと実態はわかりませんが、それほど多くはないと思っています」
ユーザーの利便性を何よりも最優先するアップル社らしい答えだ。利便性で考えると、購入した楽曲をハードディスクから消してしまっても、また料金を支払うことなく再ダウンロードできるiTunes in the Cloudはその最たる例と言えそうだが、同機能の規約には「事後のダウンロードができない場合に、一切の責任を負いません」という気になる文言が書かれている。これはどういうことか。Twitter上では、実際に過去に購入した曲の中に再ダウンロードできないものがある……という人がいる。
ロウ氏はこう説明する。
「基本的にすべての曲は再ダウンロード可能なのですが、ごく稀に、音楽レーベル側で、これまで取り扱っていた曲の権利が他に移ってしまったなどの理由で、曲を提供しようにも提供できなくなっていることがあります。ただ、これはそれほど多くあることではありません」
「あらゆる方向からユーザーの音楽体験の向上に取り組みたい」
今後、iOS機器の成功にあわせて日本でも、さらに成長しそうなiTunes Storeだが、ロウ氏は今後も機能、質の両面で同サービスが成長し続けるという。
「我々は今後も、音楽をより管理しやすくする便利な機能の追加から、好きな音楽をいつでもどこでも聞けるような体験の向上、さらにはiTunes Plusに見られるような高音質化やMastered for iTuensに見られる楽曲の準備の仕方による音質の向上まで、あらゆる方向からユーザーの方々の音楽体験の向上に、全音楽業界と共に協力して取り組んでいきたいと思っています」