レノボ・ジャパンは2月7日、CES 2012などで公開され、近日登場が見込まれている次世代ThinkPadノート「ThinkPad X1 Hybrid」の説明会を開催した。2種類の特性の異なるOSを、同一ハードウェアで切り替えて利用できるX1 Hybridの技術詳細について、横浜みなとみらいの大和研究所のX1 Hybrid開発陣らが直接、解説したものだ。

「ThinkPad X1 Hybrid」

X1 Hybridの最大の特徴であるOSの切り替え技術だが、これは、既存ノートPCであるThinkPad X1相当のPCハードウェアの内部に、物理的にARM SoCのハードウェアプラットフォームを追加し、1台のノートPCでありながら、それぞれのプラットフォーム上でWindows 7とLinux(ベースの独自OS、オープンソースのAndroidを利用)を使い分けることができるというものだ。

同技術の開発は、レノボの「基礎研究・先端技術」部門が担当した。同部門は、大和のほか、北米ラーレイや中国の同社拠点をまたぐ組織で、レノボの製品全体を対象とした部門だ。ThinkPadやIdeaPadなどの製品開発部隊も未経験の技術や、新たな製品分野の開拓といった、将来のイノベーションの実現を見据えた研究開発を行っている。これまでの成果としては、ThinkPadのActive Protection、冷却ユニットのフクロウFAN、OSブート短縮のEnhanced Experience 2.0、直近では、Smart TVなどの開発を担当したのも、この部門であったという。

基礎研究・先端技術の組織概要と、これまでの主な成果

その大和研究所の基礎研究・先端技術 主管研究員である河野誠一氏によると、ThinkPad X1 Hybridで最も達成したかったコンセプト、価値は、バッテリ駆動時間の延長だ。X1 Hybridでは、従来のX1の約2倍となる、最大10時間以上のバッテリ駆動時間を実現している。

大和研究所の基礎研究・先端技術 主管研究員である河野誠一氏

バッテリ駆動時間の延長が、X1 Hybridの大きな目標

ハードウェアについて

このX1 Hybridの、ハードウェア面でのチャレンジを、大和研究所の基礎研究・先端技術 専任研究員である山崎充弘氏が解説した。X1 HybridのAndroid側システムは、IMM(Instant Media Mode)の名称で総称される。このIMMを実現するARM SoCを搭載するメインハードウェアが、Mini PCI Expressカード状のIMMサブカードだ。見た目上は、WindowsシステムのマザーボードのMini PCIeスロットに、Mini PCIe拡張カードが挿さっているかたちで実装されている。

大和研究所の基礎研究・先端技術 専任研究員である山崎充弘氏

IMMサブカードの実物

ブロック図は下の写真で示されたとおりで、Mini PCIeのバスを通してUSBマスストレージで接続され、大きなデータのやりとりや、給電といったあたりは、主にPCIeバスを通して行われている。ほか、PCIeバスの予備配線や、別途専用線を数本接続することで、ディスプレイやオーディオといったデバイスをスイッチ共有している。また、キーボード等は、X1の既存のエンデベットコントローラのファームを拡張して利用している。つまり、X1 HybridのIMMサブカードを外して、別のThinkPadに接続、ドライバをいじったくらいでは動くことはない。

ハードウェアのブロック図

IMMサブカードの実装写真(ストレージと通信カードに隣接しているカードがIMM)。よく見るとIMMカードから、無線ケーブルだけでなく専用線のフレキが出ている。Mini PCIeポン付けでは動かない

IMMサブカード上でIMMが動作中は、Windowsのシステムは、ハードウェア毎サスペンドモードに入る。これがバッテリ駆動時間が2倍になるという理由で、IMM中に消費する電力は、主に液晶ディスプレイとサスペンド中のWindowsシステム、そしてIMMカードの3点となり、合計してもWindowsシステム動作中のおよそ半分の消費電力になるのだそうだ。さらにIMM中の消費電力は液晶ディスプレイがその多くを占めるため、液晶輝度を下げるなどの設定をすれば、2倍以上にバッテリ駆動時間が延長できるという実測データも示されていた。

IMMでの消費電力のうちわけ。LCDが大部分を占めるので、輝度を下げればバッテリ駆動2倍以上にも

実際に輝度を下げてみた場合のバッテリ駆動時間比較も示された

ソフトウェアについて

ソフトウェア面でのチャレンジについては、前出の河野氏が解説した。設計にあたっては、「WindowsシステムをベースとしたIMM」という前提があり、ThinkPad X1+Windowsの使い勝手を阻害しない、Windowsアプリの感覚でIMMを使えるように工夫したという。OSの切り替えはワンクリックのみ、タイムラグも殆ど無く一瞬で、再起動などはもちろん必要としないシームレスなものだ。カジュアルなユーセージはアプリ感覚で利用できるIMMに割り当て、既存のWindowsシステムとの一貫性を持ちながら、バッテリ駆動時間は延びている、というのがX1 Hybridの理想的な姿だとされる。

こちらはソフトウェアブロックの概要で、薄く色がついている項目が、既存のX1と異なる部分。ハード的には、スイッチなどの追加ハードウェアがあったが、ソフトウェアも細かく手が入っている

そのため、Windows時と、IMM時で、ユーザーから見た使い勝手の違和感がなくなるような仕掛けが、X1 Hybridには盛り込まれている。代表的な例は、まずタッチアンドフィーリングのチューニングで、ポインティングデバイスの設定などは、Windowsの設定をそのままIMMでも利用でき、ホットキーや本体のLED表示も共通化されている。カーソルの移動速度などは、何もしなければWindowsとIMMで違ってしまうが、これが違和感なく、同じように動くようにチューニングされている。IMM時の日本語入力の環境についても、インタフェース部分をWindows IMEに準拠し、OSの切り替えで使い勝手が変わらないように工夫されている。

また、セキュリティ関連はWindows側をベースにしており、IMMからWindowsへのアクセスは制限されているほか、IMMへのアクセスにはWindows認証を利用している。IMM利用中にサスペンドに入った際、復帰にはWindowsの認証が必要となる。さらに、例えばIMMカードを外して、他のシステムに接続したとしても、IMMカード上のデータにアクセスすることはできないようになっている。

X1 Hybridの発売はいつ?

では具体的に、X1 HybridのOS切り替えがどういった場面で活躍することを想定しているのかについて、レノボ・ジャパンの製品事業部 プロダクトマネージャーである土居憲太郎氏は、企業内ユーザーのPC利用形態の変化が、ThinkPad X1 Hybridに存在理由を与えると説明している

製品事業部 プロダクトマネージャーである土居憲太郎氏

企業内ユーザーのPC利用形態の変化が、X1 Hybridの価値に

過去の企業内でのPC利用では、基幹業務のアプリケーションが動作することが全てであったが、近年はこれに変化が見られる。SaaS型のアプリケーションが企業内でも活用されており、オンラインメールや、SNSを業務内で活用する場面も増えている。さらに、デスクにかじりついて働く場面だけでなく、外出先からGmailで……といった、利用場所の変化もある。

そういった、新たなPC利用の場面では、フルWindowsシステムではなく、IMMでも業務がことたりてしまう。シームレスにIMMが利用できるのであれば、同じ使い勝手で同一業務をこなしていても、バッテリ駆動時間を伸ばすことができるというのが、X1 Hybridの価値となる。

X1 Hybridの発売時期や価格などはまだ未定だが、土居氏によれば、「暖かくなる前には国内発売できる」とされており、恐らく今月来月といったあたりの発売を示唆していた。価格については、現行のX1に"IMM代"を追加したものになるだろう。購入はWeb直販のみになる予定で、X1のCTOオプションとして、IMMが選択できるようになる計画のようだ。