2011年12月14日に国立情報学研究所は、「ロボットは東大に入れるか」と題するシンポジウムを開催し、東京大学(東大)の入試を突破する人工知能を研究開発するプロジェクトをキックオフした。

開会の挨拶をする国立情報学研究所の坂内正夫所長

基調講演を行った公立はこだて未来大学の松原教授は人工知能の歴史を概観し、この東大入試プロジェクトの意義を説明した。人工知能の研究は1950年代に開始され、初期の時代にはチェスの研究が行われ、1985年にはプロレベルに達し、1997年にIBMのDeep Blueが人間のチャンピオンのカスパロフ氏に勝って、チェスのグランドチャレンジは完結した。将棋は松原教授開発の「あから2010」が女流プロを破り、世界チャンピオンに勝つレベルまであと数年という。また、囲碁は現在アマ4段程度で、世界チャンピオンレベルまで十数年ではないかという。しかし、これらのゲームはルールが固定されており、コンピュータが解きやすい問題である。

そして、2011年にはより広い知識を要求されるJeopardy!という米国の人気クイズ番組で、IBMのWatsonシステムが過去最高の成績を挙げた人間の2人のチャンピオンと対戦し、これを破るという成果を挙げた。

松原教授の挙げたプロジェクトの分析と、成功した場合の成果

今回キックオフされたプロジェクトは人工頭脳が東大の入試で合格点を取るというのがターゲットで、これはJeopardy!で必要とされた自然言語処理に加えて物理モデルや推論などを必要とし、クイズよりかなり難しいという。

プロジェクトディレクタを務める国立情報学研究所の新井紀子教授

東大の入試はレベルは高いのであるが、難問奇問が無く、素直な問題が多い。そして、入試問題は、誤解が生じないようなはっきりとした日本語で書かれており、教科書+日常の常識の範囲で正解がある。この点では人工知能にとっては扱い易いという。

このプロジェクトを発案したのは国立情報学研究所の新井紀子教授である。人工知能の研究は細分化されてきており、お互いの交流も少ない状況になってきているが、実際の問題を解こうとすると、その隙間に入る部分が抜けていて繋がらないという事態が見られる。これを東大入試に合格するというグランドチャレンジを掲げて、各分野の研究を融合させて人工知能の研究を推進するのが、このプロジェクトの大きな目的であるという。

ディレクタとしてこのプロジェクトの指揮を執る新井教授は、はっきりしたグランドチャレンジの目標がないと、力の結集がうまく行かないので、5年後の2016年にはセンター試験で好成績を取り、10年後の2021年には東大の入試に合格するシステムの開発を目指すという。

なお、受験は、ロボットが歩いて東大の入試会場に行って、問題用紙を見て、鉛筆で答案を記入するというわけではない。これは同室の受験生に迷惑がかかるし、第一、東大が受験させてくれるかどうかも疑問である。

そして、このプロジェクトはオープンプロジェクトであり、国立情報学研究所は各種の自然言語理解や推論などの各種の要素技術を繋ぎ込めるオープンプラットフォームを提供し、このプロジェクトに参加する世界中の研究者の要素技術を融合していくという。このような仕組みをとることにより、一部の要素技術の研究者も全体システムの中で、自分の要素技術を評価することが可能になる。