北海道大学(北大)は10月27日、生体関連物質「コリン」の分子形状を模倣したイオン液体を合成し、水に高濃度まで溶け合い、さらに水中でほぼすべてのイオン液体分子は「アニオン」(陽イオン)と「カチオン」(陰イオン)に電離していることを発見したと報告した。発見は北海道大学大学院工学研究院米澤徹教授らの手によるもので、成果は米化学会の学術誌「Langmuir」に掲載された。

イオン液体は常温で液体である有機物の塩のことをいい、広い意味では融点が100℃以下の塩を指す。常温溶融塩とも呼ばれている物質だ。一般に有機物の塩で、陽イオンも陰イオンも比較的大きな分子構造を採っているのが特徴だ。

研究グループでは水溶性イオン液体に興味を持ち、新しい生体関連物質であり、比較的小さなイオン性有機分子であるコリンの分子構造をチューニングし、アニオン種の変更により、画像1に示すイオン液体を合成することに成功した。

画像1。コリンの分子構造と今回の研究で合成したイオン液体の分子構造。左がコリンで、右が今回のイオン液体

そして得られたイオン液体が生体に対して非常に親和性が高いと考え、さらにイオン液体が溶融塩であって真空中でも液体のまま蒸発せず、かつ導電性を有するといった特長を活かし、今回、走査型電子顕微鏡用可視化剤への応用検討を実施したというわけである。

柔軟な構造、小さな分子サイズ、高親水性をキーワードに、さまざまなカチオン、アニオン種を組み合わせた四級アンモニウム塩を種々合成した結果、生体関連物質の1つでビタミン様作用物質であるコリンに似た分子構造を持ち、水に対し自由に溶解する高親水性のイオン液体がいくつか得られた。

これらのイオン液体の物性を確認したところ、浸透圧が高く、電離度が約1(=強電解質)であり、界面活性剤と同様な構造を持つ有機塩でありながら、高濃度かでもほぼすべて電離していることが確認されたのである。

同イオン液体の電子顕微鏡可視化剤への応用として、含水性の模擬サンプルにワカメを用いて試してみた。特別な機器、有毒な物質を用いることなく、同イオン液体への1~2時間の浸透後、減圧脱水する非常にシンプルな調理方法を用いたが、ワカメは硬化せず、湿潤性が高く、柔軟性がある観察サンプルとして調製できたのである。

また、一般的な親水性のイミダゾリウム系のイオン液体と比較して、重量、サイズの計測および走査型電子顕微鏡の観察から、サンプル中の水分とイオン液体が良好に置換し、形状維持に優れていることを確認した(画像2)。

画像2。コリン様イオン液体で処理したサンプルのワカメの外観と、走査型電子顕微鏡による画像

研究グループでは、今回の液体は特別な技能も必要なければ、非常にシンプルな前処理で観察サンプルの作成を作れるため、ハイスペックからロースペックまでのあらゆる走査型電子顕微鏡ユーザーが恩恵を得られるとする。

さらに、含水サンプルに対しても損傷が少なく、形状維持に優れた観察サンプルの作成が可能となり、バイオ分野を初めとする技術開発~教育分野まで、あらゆる産業の発展に寄与できるとした。