デジタルハリウッド大学は、スタジオジブリの最新作『コクリコ坂から』のCGメイキングセミナーを開催。スタジオジブリのアニメーション作品はCGと縁遠い手描きのイメージがある。そうした作品のどの部分にCGが活用されたのかなどを本作でCG制作を担当した三好紀彦氏が紹介した。

CGクリエイター・三好紀彦氏

三好氏は、デジタルハリウッド本科クリエイティブ専攻の卒業生。2004年にスタジオジブリに入社し、映画『ハウルの動く城』よりアニメーションCGの制作に従事している。

セミナーは、映画『コクリコ坂から』予告編の上映からスタートし、アニメーション制作におけるCGの位置付け、スタジオジブリでのデジタルの役割、そして映画『コクリコ坂から』で制作したCGの紹介の順で進行した。

スタジオジブリでのデジタル処理やCGの役割

スタジオジブリでは、絵コンテや作画を除く各工程でデジタル化が導入されている。具体的には、スキャンした線画を着色するデジタルペイントであったり、動画と背景の合成を行う撮影処理(コンポジット)などの工程だ。それらは2Dの作業だが、三好氏が携わっているのは主に3DCGを使用する部分となる。

スタジオジブリでのアニメーション制作の流れ。赤い枠線で囲まれた部分にデジタル化が導入されている

ただし、スタジオジブリでは手描きによる世界観を大切にしており、作品全体の統一感を持たせるためにも、"CGは必要なところに目的を持って使用する"、"CGの質感は極力さける"という方針を定めている。一般的なアニメ作品は効率を求めて3DCGを利用する場合も多いが、スタジオジブリでは手間が掛かる作業でも、手描きで表現できるカットには3DCGを使用しないとのこと。また、作成した3Dオブジェクトを使い回すこともしないため、3DCGを使用した方が効率が悪い場合もあるそうだ。

CG制作の姿勢

三好氏は「美術ではどのように筆を置くか、作画ではどのように線を引くか、という従来の手法を、デジタルで違和感無く表現する方法を日々考えています」と語り、スタジオジブリのCGクリエイターにとっては、「(作品内の)どこにCGが使われていたのか、気が付かれなかったら成功」なのだという。

手描きの背景画を分解して元の絵に戻す?

上記のような理由で、スタジオジブリで3DCGを利用するのは手描きで表現しにくいカットなどに限られ、セミナーでは、カメラマップという手法を使ってカメラ(視点)が坂道を上りながらコクリコ荘を見上げる場面や、今回初めて使われた工場の煙突から出る煙と揺れる水面の表現などが紹介された。

例えば、坂道を上りながらコクリコ荘を見上げる場面では、元となった背景画に含まれる要素をバラす作業から始まる。それは物体だけではなく、光の情報や、遠近、色の違いなどにも行われるとのこと。そして、バラしたパーツを1つ1つ作成して立体的な配置を行い、最終的には元の背景画に戻して行くという。遠回りな作業のように思えるが、こうする事でアニメーションの世界観に統一感が出るそうだ。

元となった背景画

背景画に含まれる各パーツを作成

このカットで170ほどのパーツを作成したそうだが、あまり作り込みすぎるとイメージと合わなくなってしまうので、カメラに近い物体は細かく、遠い物体は大雑把に作る必要があり、そのバランスにも苦労したそうだ。また、絵に動きを与える際にも、すべてを3次元的に動かすとパースが付きすぎて歩いている感じが出ないため、2次元と3次元の動きを掛け合わせて欲しい、との注文があったという。

作成したパーツを3D空間に配置

作成した3D空間を上から見た場合

こうした、3DCGによるカット作成の工程説明は、制作したソフトのキャプチャ画面、元となった美術ボードや背景画、背景画を動かしただけの動画、それを3DCG化した動画、実際に使われたカットとは別の角度から見た場合の動画なども一緒に紹介された。あまり目にすることが無い映像だけに、クリエイターを目指す受講者には貴重な体験となったことだろう。

Q&Aではクリエイターの卵らしい質問も

最後に設けられたQ&Aの時間では、手描きとCGとのコストの違いや、素材管理の方法、どうしたらスタジオジブリで働けるのか、また三好氏がスタジオジブリで働くようになった経緯など、クリエイターの卵らしい質問が飛び交った。アニメーション制作現場の実情を知ろうとする積極的な受講者と、それに対して丁寧に応える三好氏の対話は予定時間を過ぎても続き、活気あふれるセミナーとなった。

受講者の質問に耳を傾ける三好氏