地デジもゲームもiPhoneもカジュアルに高音質を楽しみたい

このところ薄型テレビでは、狭額タイプと呼ばれる縁の狭いスタイルが流行している。狭額タイプは、見た目のスマートさだけでなく、コンテンツを視聴しているときにテレビ自体が視野に入りにくい、さらに、一般的な薄型テレビの37V型を置けるスペースには40V型を、40V型を置けるスペースには42V型を置けるといったように、一般的なスタイルよりも、さらに設置スペースを有効に利用できるといったメリットも持っている。ところが、この狭額タイプにも問題がないわけではない。それがサウンド面だ。縁の部分は、テレビのスピーカーが配置されるスペースでもある。狭額スタイルでは、スピーカー自体のサイズも小さくなるうえ、スピーカーのキャビネットに十分な容積を確保できないケースが多く、せっかく迫力のある大画面でも、テレビから出るサウンドは、そのサイズに見合った臨場感や表現力を持っていないというケースが少なくない。

薄型テレビの前に自然にセッティングできるシアターパッケージ「YHT-S401」

そういったテレビのサウンドの不満を解消するのに最も手軽なのは、外付けのスピーカーを利用するという方法だ。たいていのテレビにはスピーカー端子は搭載されていないので、イヤホン端子に接続するアンプ内蔵スピーカー(アクティブスピーカー)を利用することになるだろう。もちろん、PC用に1セット数百円程度で販売されているようなものではなく、それなりにしっかりとしたアクティブスピーカーを利用すれば、テレビ本体で直接聞くのよりも、ずっと快適なサウンドを楽しめるはずだ。ところが、ここにはひとつ考えなければならない点がある。テレビの放送で使用されている音声チャンネルは、普通はステレオだが、BSなどの一部の番組は5.1chで放送されている。また、DVDタイトルは最大5.1ch。BDのタイトルでは、最大7.1chのサウンドが使用されている。イヤホン端子から出力される音声は2chなので、残念ながら、こうしたコンテンツが本来持っているマルチチャンネルの臨場感を楽しむことはできない。

普通にステレオで放送されているテレビの音質を向上させ、さらにマルチチャンネルのコンテンツも高い臨場感で再生する、それを実現するのがシアターシステムということになる。シアターシステムには、単品のAVアンプとスピーカーを組み合わせた本格的なものから、簡易的なものまで、さまざまな種類の製品が存在する。純粋にサウンドのクォリティのみを考えれば、高品位なAVアンプとスピーカーを組み合わせたほうが優れているのは間違いないが、導入コストや住宅事情、運用面などで、必ずしもそれがベストとは言い切れないというのが実際の所だろう。本格的なホームシアターを目指すのではなく、薄型テレビの音質を向上させ、マルチチャンネルコンテンツの再生能力をプラスするというのならば、より簡易的なシアターパッケージのほうが、その目的には合っているだろう。

薄型テレビのサウンドの不満を解消するホームシアターパッケージ「YHT-S401」

この一台をテレビの前に置くだけで、左右や後方にもスピーカーを設置したかのような、バーチャル7.1chサラウンド環境を再現

ヤマハがこの秋発売するホームシアターパッケージ「YHT-S401」は、薄型テレビの音質を向上させ、マルチチャンネルコンテンツの再生も行うといった目的にマッチした製品だ。アンプ内蔵サブウーファーと、3.1chのバースタイルスピーカーを組み合わせたパッケージで、AIR SURROUND XTREMEにより、フロントスピーカーのみで、7.1ch相当のサラウンド再生を実現している。対応している音声フォーマットは、デジタル放送が使用しているMPEG-2 AAC、DVDビデオなどで使用される「ドルビーデジタル」「DTS」「DTS 96/24」、ブルーレイディスクで採用されている「ドルビーデジタルプラス」「ドルビーTrueHD」「DTS-HD Master Audio」「DTS-HDハイレゾリューションオーディオ」「DTS Express」。ステレオ音声をマルチチャンネル化する「ドルビープロロジック」「ドルビープロロジックII」も搭載している。また、サブウーファーは、縦置き/横置きが可能で、横置き時にはテレビラックなどにも収納できるように、AV機器とサイズが揃えられている(幅435mm×高さ135mm×奥行き361mm)。アンプの実用最大出力は50W×3+100Wと、普通に家庭で使用するには十分すぎるパワーだ。

YHT-S401と同時に、YHT-S351、YAS-101の2モデルも発売される。YHT-S351は、YHT-S401と同タイプのサブウーファーに、左右別体式のスピーカーを組み合わせた2.1chシステム。YAS-101は、バースタイルのボディにサブウーファーも組み込んだ2.1chシステムだ。

左右セパレートのコンパクトスピーカーに、センターユニットをパッケージした2.1chシステム「YHT-S351」

サブウーファーもアンプも内蔵した一体型のバータイプスピーカー「YAS-101」

バースタイルフロントスピーカーだから邪魔にならないセンタースピーカー

単品のAVアンプを使用したシアターシステムでは、左右のフロントスピーカー、センタースピーカー、左右のサラウンドスピーカー、サブウーファーという5.1chの構成が基本だが、リスナーの背後にサラウンドスピーカーを設置するスペースが採りにくい、配線が邪魔などの理由で、簡易的なシステムでは、サラウンドスピーカーを使用せずに、バーチャルサラウンドによって、サラウンド再生を行うフロントサラウンドシステムがよく使用されてきた。しかし、設置性に問題があるのはサラウンドスピーカーだけではない。センタースピーカーは、左右のフロントスピーカーの中間に設置する必要があるが、そこにはテレビが既に置かれている。そこでテレビの前に置くということになるのだが、邪魔にならないかというと、やはり邪魔ではある。一般的なスタイルのスピーカーを利用したフロントサラウンドでは、センタースピーカーを省いた2.1chシステムのほうが、インテリア的にはしっくりくる。

「TVリモコン受光器」で、リモコン受光部がテレビの下側にあっても、バースピーカーを設置できる

YAS-101の「IRフラッシャー」発光部

サウンドバーは、ここ1年ほどで増えてきたスタイルだ。テレビの前に設置することを前提にデザインした背の低いスタイルは、違和感の少ない自然なセッティングを実現する。ただし、サウンドバースタイルには、クリアしなければならない問題がある。それがテレビのリモコンの赤外線受光部をどうするのかという問題だ。テレビの機種によっては、リモコンの受光部が下側にあり、その前にサウンドバーを設置すると、リモコンでの操作ができなくなるという問題が発生するケースがある。そこでYHT-S401には、「TVリモコン受光器」というパーツが付属している。透明な樹脂で作られたTVリモコン受光器を、YHT-S401のフロントスピーカーの上、テレビのリモコン受光部の前に設置する。このパーツで、赤外線リモコンからの信号を受光部に導くという仕組みだ。簡単な構造だが、こういった仕組みを持たないサウンドバーでは、使えないテレビもあることを覚えておいた方がよいだろう。なお、YAS-101には、リモコンからの赤外線を受信して背面から発信する「IRフラッシャー」機能が搭載されている。

ワンボディタイプのサウンドバーは、配線も簡単

背面パネルの入出力端子部。AVアンプに比べるとシンプルだ

YHT-S401では、サブウーファー側に入出力端子が装備されている。背面パネルの入出力関係は右の写真のように、HDMIが3系統に、デジタル×2(光×1/同軸×1)/アナログ×1の音声入力、FMチューナー用のアンテナ端子だ。出力端子は、HDMI×1と、バースピーカーに接続するためのスピーカー端子、リアル5.1ch化するためのサラウンドスピーカー端子も用意されている。また、フロントパネルには、USBポートを1基とヘッドホン端子を1系統装備する。USBポートは、iPod/iPhoneのデジタル接続にも対応。ヘッドホン端子は、バーチャルサラウンドヘッドホン機能も搭載。深夜などでも臨場感のあるサウンドを楽しむことが可能だ。

実際に接続を行ってみたのが次の写真だ。HDMI入力にはBDレコーダーとPS3、HDMI出力には液晶テレビを接続している。また、YHT-S401のHDMI端子はARC(オーディオリターンチャンネル)に対応しているのだが、今回はテレビからの音声を、光デジタルケーブルで入力している。このクラスの製品だと、スピーカー端子は独自形状のコネクタが使用されているケースが多いのだが、YHT-S401では汎用的なスナップタイプのコネクタが採用されている。また、スピーカーケーブルにはフロントのL/Rとセンターの3本分がまとめられたパラレルケーブルが使用されているが、それぞれのラインと端子が色分けされており、同じ色同士を接続していくだけでOKという簡単さだ。

テレビとレコーダー、プレーヤーを接続しても、それほどごちゃごちゃした感じにはならない

スピーカー端子とケーブルは色分けされていて分かりやすい

手軽さと高い臨場感を両立 - YHT-S401を聴く

接続が終わったYHT-S401で、実際にテレビ番組のサウンドを体験してみた。テレビ側のリモコンで、音声をYHT-S401とテレビとで切り換えてみると、その効果はかなりはっきりと現われる。巨大な滝を映しているシーンだったのだが、YHT-S401では、地の底から響くような轟きであるのに対して、テレビのスピーカーのほうは、「ザー」といった感じのホワイトノイズにしか聞こえない。サブウーファーの存在により、低域の再生能力が向上したことで、まったく違った音として聞こえてくる。テレビからの音は、情報としての音は伝えているが、あくまでもそのレベルであって、シーンの背景の一部としてのサウンドを再生するというところまではいっていない。

テレビのスピーカーと切り換えて聴いてみると、その差は歴然

サラウンド再生時には、使用しているモードが表示される

続いて試聴したのは、BSで行われていたプロ野球中継。ここでも、YHT-S401では、スタジアムにいるかのような臨場感を発揮する。ここで、ちょっと違った比較も行ってみた。3.1chのシステムであるYHT-S401と、2.1chのシステムであるYHT-S351とで、同じ野球中継を流してみたのだ。センターチャンネルがあるYHT-S401のほうが、解説やアナウンスの声が聞き取りやすくなるといった違いがあるのかと予想していたのだが、実際にはそれよりも、サラウンド効果の出方の違いのほうが大きく感じられた。若干難しい話になるが、2.1chのシステムでは、フロントのスピーカーからセンターチャンネルの音も出力している。これはL/Rともに同相の信号だ。これと本来L/Rのフロントスピーカーが出力するべき音と、サラウンドスピーカーが出力するべき音が出力されている。これらは異相の信号だ。この両方を1つのスピーカーから同時に出力しなければならない2.1chシステムと、それぞれを別のスピーカーから出力できる3.1chシステムとでは、サラウンド効果に大きな違いが現われるということらしい。フロントスピーカーは、YHT-S401はフルレンジ、YHT-S351は2wayで、音質自体はYHT-S351のフロントスピーカーのほうが上とのことだが、標準状態の臨場感は、YHT-S401のほうが明らかに強く感じられる。なお、YHT-S351にも、センタースピーカーを接続することは可能で、その場合には、YHT-S401と同様の臨場感を得ることができた。

電子番組表のジャンルコードにあわせて自動でサラウンドモードを設定してくれる「おまかせサラウンド」

YHT-S401は、標準状態で「MOVIE」「MUSIC」「SPORTS」「GAME」「TV PROGRAM」の5種類のサラウンドモードを利用できる(サラウンドスピーカーを接続した場合にはSTANDARDモードも利用できる)。HDMIからの入力の場合、デフォルトはTV PROGRAM。コンテンツによって、モードを切り換えて使用する。今回はSPORTSモードで試聴したのだが、電子番組表(EPG)情報と連動して、番組内容にあったサラウンドモードに自動で切り替わるおまかせサラウンドに対応したテレビを使用している場合は自動的にモードを切り替えることも可能だ。

テレビのオプションとしてだけでなくホームAVシステムのコアとしても十分な機能と拡張性

バースタイルならではの邪魔にならないセンタースピーカーの存在により、高い臨場感を実現しているYHT-S401。テレビの音声機能の向上のためのオプションとしての使い方でも、十分に満足できるだろう。サラウンド再生などだけでなく、人の話し声の音声帯域のみを持ち上げることで、台詞などを聞きやすくする「クリアボイス」機能や、テレビ放送のCM時に、音量が急激に変化するのを抑える「ユニボリューム」機能など、テレビを快適に使うための装備も搭載している。

バースタイルのサラウンドパッケージには、2系統の製品が存在する。1つはテレビの外付けスピーカーとしてスタートした製品で、もう1つはシアターパッケージからスタートした製品だ。どちらも、手軽にテレビのサウンド機能をグレードアップできる製品だが、前者は基本システムのままで使用することを前提としており、拡張性などは持たされていないことが多い。また、HDMI端子も1~2系統で、テレビやレコーダー、プレーヤーといった基本的な機器以外を接続することは考えられていないケースが多いようだ。後者はある程度の拡張性を持つ製品が多く、さらにテレビやレコーダープレーヤー以外のAV機器との接続にも対応している場合が多い。YHT-S401は後者の製品で、デジタル/アナログの音声入力端子を装備するなど、一般的なミニコンポと同程度の接続性は備えている。iPod/iPhoneのダイレクト接続が可能なUSBポートも装備しており、AACやMP3などの非可逆圧縮された音楽ファイルに対して、圧縮時に失われた音楽成分を補間する、ミュージックエンハンサーも搭載しているなど、1台でリビングのAV機器の機能をカバーすることが実際に可能だ。また、リアル5.1chシステムへの拡張性を持つことは、将来的な安心感にもつながるだろう。