三洋電機の創業の地は、兵庫県加西市にある。北条工場と呼ばれた創業の地は、現在では閉鎖されているが、この地域には、加西事業所、加西第二工場、東高室工場、播磨三洋工業といったように多くの三洋電機の拠点が残っている。

とくに三洋電機加西事業所は、現在、「加西グリーンエナジーパーク(GEP)」として、エネルギーの効率的な活用を実証する実験場であるとともに、顧客への最適な省エネシステムを提案するショールームとして位置づけら、大きな変貌を遂げている段階にある。パナソニックグループが目指す「環境革新企業ナンバーワン」を実現する象徴的な拠点となっている。

三洋電機の創業地に立つ記念碑。北条工場の跡地はイオンショッピングセンターになっている

三洋電機の加西事業所。加西グリーンエナジーパークとして、環境戦略の象徴的存在となっている

三洋電機加西地区の様子

この加西事業所を中核とする加西地区は、三洋電機のさまざまな製品が生まれてきた土地である。1947年に三洋電機製作所として創業した三洋電機の「創業製品」である発電ランプをはじめ、扇風機、掃除機、ミキサー、電子レンジ、空気清浄機、家庭用コピー機、エネループバイクなど、回転機事業や家電事業、健康・レジャー事業、エナジー事業など多岐に渡る事業範囲から、幅広い製品が生まれているのだ。

三洋電機コンシューマエレクトロニクス家電事業部製造統括部の小林利造統括部長

現在も加西事業所に拠点を置いている三洋電機コンシューマエレクトロニクスの家電事業部製造統括部 小林利造統括部長は、「三洋電機の家電事業の歴史においても、新たな製品にトライし、数々の製品を創出してきたのが加西地区となる。その精神はいまでも脈々と続いている」と語る。

現在の加西事業所は、1985年に鎮岩工場として稼働。創業の地である北条工場を2006年に閉鎖したのに伴い、加西事業所へと名称変更し、三洋電機が推進するエナジーソリューションの戦略拠点としても位置づけられている。屋根や壁面などに太陽電池を配備し、その電力を活用するほか、環境製品であるHEV用二次電池の生産が同拠点で行われている。「三洋電機において最先端の環境対応工場が加西事業所」(小林統括部長)というわけだ。

家電事業を担当する三洋電機コンシューマエレクトロニクスも、加西事業所を拠点として事業を展開している。同拠点で担当しているのは、掃除機の「エアシス」、空気清浄機の「ミストリーム」、電動ハイブリッド自転車の「エネループバイク」、オーブントースターの「スチーブン」のほか、シェーバーおよび健康器具の6製品分野だ。

三洋電機コンシューマエレクトロニクス 佐藤敬一主任企画員

エアシスでは、「空気までお掃除する排気がキレイなクリーナー」をキーワードに、「床を掃除するだけでなく、空間すべてを清浄する」(三洋電機コンシューマエレクトロニクス 佐藤敬一主任企画員)というコンセプトで製品づくりを行っているのが特徴だ。現行モデルでは、0.08μmの微粒子をほぼ100%キャッチし、ダニの死骸やフンだけでなく、インフルエンザウイルスもキャッチできる能力を備えた。

また、空気清浄機では、同社独自のウイルスウォッシャー機能を採用することで、「空気を洗う」というコンセプトを実現。除菌電解ミストで空気中の浮遊菌などを除去するとともに、除菌電解エレメントにより吸い込んだ空気を除菌し、きれいな水によって清潔な加湿を行う「デュアル空間清浄システム」としているのが特徴。「いつもキレイな空気の質にこだわった、快適、安心の空間づくりを目指している」と、三洋電機コンシューマエレクトロニクスの永井敏夫担当課長は語る。

一方、エネループの派生製品であるエネループバイクは、同社の蓄電池技術を生かしたものだ。「長い距離を走りたい、充電回数を減らしたいというのが電動自転車に求められる要素。そこで、前輪につけたモーターが発電機に変わり、バッテリーに補充電するループチャージを実現。ブレーキをした際のブレーキ充電システムと、自動充電を行うオートモード、さらに平地走行中でも補充電が可能なエコ充電モードを搭載した。補充電機能を効率的に活用すれば、平地では500kmの走行が可能という試験結果もある」(三洋電機コンシューマエレクトロニクス 山本達明課長)という。

前輪モーターを利用した両輪駆動で、直進安定性を高めているのもエネループバイクの特徴だ。オフロードタイプを意識した20型の折りたたみモデルも用意しており、同モデルでは、よりスポーティーな走行を可能にする電動アシストを実現している。

三洋電機コンシューマエレクトロニクス 永井敏夫担当課長

三洋電機コンシューマエレクトロニクス 山本達明課長

2010年10月から発売したスチーブンは、水蒸気による加熱とヒーターとの組み合わせにより、焼くという機能に加えて、蒸すといった機能を実現。さらに過熱水蒸気を利用することで健康にも配慮した「減脂・減塩」調理や、ヒーターとスチームとの組み合わせによって「煮る」といった調理も可能にした。

「三洋電機はオーブントースターで50%前後のシェアを持っている。そのノウハウを生かしながら、新たな分野の製品を創出した。オーブントースターとほぼ同等サイズながら、過熱水蒸気による調理も可能としている。食事の量が少なく、大きな機器は不要という、高齢者世帯や単身赴任世帯、一人暮らしの女性などが、もっと手軽に調理を楽しむことができる製品として投入した」と、三洋電機コンシューマエレクトロニクスの花岡由美氏は語る。スチーブンのコンセプトは、これまでにないものだ。そうした意味で新たな市場を創出する製品が、またひとつ加西事業所から誕生したともいえる。

実は、三洋電機の大ヒット製品である米からパンを作る「GOPAN(ごぱん)」にも、加西事業所で蓄積したモーター技術が採用されている。この技術がなかったら、GOPANは製品化できなかったかもしれない。

三洋電機の創業の地の流れを汲む加西事業所からは、ユニークな製品と技術が目白押しである。

掃除機の「エアシス」

空気清浄機の「ミストリーム」

電動ハイブリッド自転車の「エネループバイク」

前輪に搭載されているモーター部

右がオーブントースターの「スチーブン」。左は一般的なオーブントースター。ほぼサイズは同じだ

こうした料理がすべてスチーブンで作ることができる

三洋電機の大ヒット商品「GOPAN」にも加西事業所で蓄積したモーター技術が採用されている