モータースポーツの躍動感を表現したメタルウォッチの「EDIFICE(エディフィス)」。独創的なデザインや、機能性の高さでヨーロッパを中心に大ブレイクし、2009年からは日本でも本格展開を開始した人気のシリーズだ。2010年の8月には、アナログウォッチでは前代未聞の"1/1000秒"計測を可能にした「EQW-M1100」を発売。多針クロノグラフの限界にチャレンジした、カシオの開発者らに、東京・羽村にある技術センターでインタビューを行った。

1/1000秒専用の回路が必要

今回、お話をうかがったのは、商品企画部の荒井秀介さんと、モジュール開発部の青木信裕さん。ひとつの時計の開発には、さまざまな部署が集まりブレインストーミングを行うが、今回のEQW-M1100もそんな部署間の話し合いのなかで原型が生まれたという。

モータースポーツなどでも使用される1/1000秒計測を採り入れたクロノグラフ「EQW-M1100」

「エディフィスでは2009年5月に、1/20秒クロノグラフを、2010年2月には3連メーターを採用した1/100秒クロノグラフを発売しました。"じゃあ、今度は1/1000秒をやろうか"という話になって、正直これは大変なことになったぞって思いましたね(笑)。でも、面白そうな話ではありました」(青木さん)

「カシオはエレクトロニクスに立脚しながら、これまで独自の時計作りを行ってきました。そのなかでもアナログ時計の分野では『マルチミッションドライブ』、つまりモーターを使った形で、針の動きだけで多機能を表現できるという部分で強みを発揮してきました。

商品企画部の荒井秀介さん

エディフィスは、モータースポーツの世界観を持つシリーズなので、やはりサーキットで実用的に使える"ストップウォッチ機能"を念頭において開発を進めています。ならばその機能を、どこまで針の動きで表現できるか。果たして1/1000秒という高精度計測は、アナログ式のクロノグラフで可能なのか。われわれとしてはぜひチャレンジしてみたかったテーマなのです」(荒井さん)

「1/1000秒という非常に細かい計測においては、たとえばストップボタンを押してから、実際に針が停止するまでのタイムラグさえも、微細な数値として計測結果に反映されてしまいます。このようないわば"誤差"をなくすためには、1/1000秒専用の回路を、通常のソフトウェアとは別個に設けなくてはなりませんでした。

すでにG-SHOCKのデジタルモデルにおいては、このような1/1000秒計測が可能なモジュールが開発されておりましたが、今回のエディフィスではこれをアナログ表示で実現しようと考えたわけですから、既存のモジュールを転用するわけにもいきません。まず針を動かすためのモーターを実装しなければなりませんし、そのドライブ方法を制御するための新規のソフト設計が必要でした」(青木さん)

1/1000秒計測の場合は、まず専用の回路でタイムをカウントし、その出力結果を針の動きに変換して表示しているという。つまり、1/100秒計測までとは表示のメカニズムが決定的に異なっているのだ。荒井さんいわく「1/1000秒クロノグラフの開発は、1/100秒に比べて、そのままズバリ10倍は大変でした」とのこと。その苦心の末に実現されたユニークな1/1000秒のアナログ表示を、次ページでは詳しく見ていくことにしたい。……針を総動員して計測結果を表示する独自のテクノロジー