PCベースの最新3Dゲームを想定した業界標準のベンチマークソフト「3DMark」シリーズの最新版である「3DMark 11」が、12月7日より公開された。同社のサイトなどで配布が始まっている。

今回の3DMark 11は、グラフィックスエンジン部分がDirectX 11に完全対応しており、DirectX 11のリリースが2009年10月のWindows7の発売と同時期だったことを考えると、DirectX 11時代が開始されてから1年後のリリースと言うことになる。

また、DirectX 10ベースの「3DMark Vantage」がリリースされたのは2008年4月のことだったので、その意味では、2年半以上の時間を要しての「3DMarkのフルモデルチェンジ」ということになる。

用意されるEditionは3つ。無料版、有料版、そしてプロ版

3DMark 11は利用できる機能の種類によって3つのエディションに分かれている。

無料で利用できる「Basic Edition」は、ベンチマークテストモードを「Performance Preset」モードでしか実行できない。

Performance Presetモードではレンダリング解像度が1280×720ドットに限定され、影の品質、ボリュメトリック・イルミネーション表現の品質、各種ポストプロセスの品質がミドルクラスに押さえられる。また、Basic Editionでも、3DMark 11のグラフィックスシーンを音響付きの映像デモとして楽しめる「Audio Visual Demo」は利用できるが、このモードの解像度も1280×720ドットに固定化される。

そして、一般ユーザー向けの有料版にあたるのが価格はUS$19.95の「Advanced Edition」だ。こちらはテストモードやデモモードにおける解像度制限が全て撤廃され、Performance Presetモードで制限されていた表現の品質が全て最高位に設定された「Extreme Preset」モードも利用できるようになる。また、テストの繰り返し(ループ)制御も可能になり、より高負荷で徹底したベンチマークテストが行えるようになる。

商用利用までを視野に入れた価格US$995.00の業務用バージョンが「Professional Edition」になる。こちらのバージョンではAdvanced Editionの機能を全て包括しつつ、映像品質比較ツールやコマンドラインによるオプション設定制御なども可能になる。PCショップなどが店頭デモに利用する際に便利なデモモードを無限ループさせるモードもProfessional Editionに限定されている。

テッセレーションステージに完全対応~レンダリングエンジンはDeferred Renderingベースに

グラフィックスレンダリングエンジンは3DMark Vantageの時から大幅に改良され、ライティングエンジンは最近流行のDeferred Renderingベースに変更されている。

Deferred Renderingでは、先にジオメトリをレンダリングして後段のライティング計算に必要な中間値群をG-Bufferと呼ばれる中間バッファに出力し、高度なシェーダーはそのG-Buffer内の中間値群を取り出して行う。ライティングを後回しにすることから「Deferred」(遅らせた)Renderingと呼ばれるのだが、この手法を活用すると、「高度なシェーダーを無駄に実行しないで済む」「動的光源を理論上、無制限における」と言ったメリットがあることから採用例が増えてきている。

また、DirectX 11のグラフィックスパイプラインにおいて最も注目度の高い「テッセレーションステージ」も、3DMark11のレンダリングエンジンのコアな部分に統合された。

なお、3DMark11では、2つの目的でテッセレーションステージが活用されている。

1つは視点からの距離に応じたジオメトリレベルの微細凹凸(ディテール)を負荷するためのディスプレースメントマッピングを実現するためだ。2つ目は、少ないポリゴン数で構成された3Dモデルを、なめらかな自然な形状に変換するための目的だ。

なお、実際のレンダリングエンジンでは、この2つのフィーチャーを両方同時に活用することもあるとのことで、ある意味、LOD(Level of Detail:視点からの距離に応じて適切なジオメトリ負荷とリーズナブルなディテール表現を両立させる仕組み。これまではこの部分をCPU側が担当していた)システムを、GPU側が担当する設計になっていると言える。

3DMark11に含まれるテスト群

3DMark11は、ベンチマークテストを実行すると以下の6つのテストが実行され、その結果となる平均フレームレートなどから3DMarkスコアが算出される。

以下に、6つのテスト概要を紹介しておこう。

Graphics Test1

複数の海底探査艇が海底を潜っていくシーンが描かれる。膨大な数の影、スポットライト(影無し)、点光源(影無し)が描かれるがテッセレーションステージは活用しない。ポストプロセスとしてレンズエフェクト、ノイズエフェクトなどが適用される。テッセレーション以外のグラフィックスパイプラインに負荷を掛けるテストになる。

Graphics Test1

Graphics Test2

珊瑚などが付着した沈没船の様子が描かれる。数の影、スポットライト(影無し)、点光源(影無し)はGraphics Test1よりも少なくなるが、テッセレーションステージが活用される。ポストプロセスはGraphics Test1とほぼ変わらないが、Graphics Test1では被写界深度のシミュレーションが付加される。テッセレーションステージの性能がパフォーマンスを大きく左右するテストになる。

Graphics Test2

Graphics Test3

陽光の眩しい、ジャングル内の神殿が描かれる。影を生成する光源は太陽だけで、それ以外の光源は影を落とさない。HDRレンダリング表現が美しいシーンで、光筋表現や空気遠近表現には光散乱シミュレーションが応用されている。柱、石像、植物のディテール表現には、テッセレーションステージが活用されている。

Graphics Test3

Graphics Test4

Graphics Test3の夜版といえるシーン。シーンを薄明るく車のヘッドライトが影を生成する唯一の光源となっている。このシーンでも柱、石像、植物のディテール表現に、テッセレーションステージが活用されており、このシーンのレンダリング負荷のほとんどは、テッセレーションステージを経て多ポリゴン化された柱、石像、植物の影生成のためのシャドウマップへの書き込みと、G-Bufferの書き込みに費やされる。負荷的には全テスト中、一番重い。

Graphics Test4

Physics Test

球体が落下することで積み上げられたブロックを崩していく様が観察できるシーン。膨大な数の剛体の衝突と破壊の物理シミュレーションを実行する。いくつかのオブジェクトは剛体パーツ同士が仮想的な接着剤で接合されており、ダメージによって構成パーツ単位に分解するところまでがシミュレートされる。使用物理シミュレーションエンジンはオープンソースの「Bullet」。このテストのグラフィックスは、わざと限定的な表現にしており、負荷は主にCPUに掛かる。なお、物理シミュレーション部分はマルチスレッドに対応している。

Physics Test

Combined Test

Physics Testのビジュアルクオリティを上げたようなテスト。なお、テスト名の「複合(Combined)テスト」には2つの意味が込められており、1つは「3Dグラフィックスと物理シミュレーションの複合テスト」を意味し、もう1つは「GPUとCPUの複合テスト」を意味している。このことから、グラフィックスの負荷はそれなりに高めとなっており、テッセレーションステージの活用までが行われている。剛体物理シミュレーションはBulletベースなのでCPUで実行されるが、旗などの柔体物理シミュレーションはDirectComputeベースでの実装となっているため、GPUで実行される。

Combined Test

DirectX 11対応GPUが必須に~DirectX 10対応GPUでは動作不可

これまで長きにわたって搭載されてきた、GPUのフィルレート性能やテクスチャパフォーマンスを計測するのに用いられてきた「Feature Test」モードは3DMark11には搭載されなくなった。

3DMark 11を動作させるにはDirectX 11世代プログラマブルシェーダ5.0仕様(SM5.0:Shader Model5.0)のGPUが必要になる。DirectX 10世代以前のGPUでは動作できない。対応OSはWindows Vista、あるいはWindows 7になる。

ついに、3DMarkにおいても、DirectX 10世代GPUの足切りが始まったと言うことであり、これまでも、業界標準の3DMarkが動かせるかどうかでゲーミングPCの価値が決まってきた歴史になぞれば、今後、DirectX 11世代GPUの普及が一気に加速する可能性が高い。

(トライゼット西川善司)