フィンランドNokiaが2008年に買収したTrolltechのクロスプラットフォーム/UI開発フレームワークのQtは、Nokiaの支援の下、急速に技術革新を進めている。Qtは先に、モバイルアプリケーション向けに高度なUIを容易に開発できる「Qt Quick」を初めて統合した「Qt 4.7」を発表、これまでのC++開発者からターゲットを大きく拡大する。

10月にドイツ・ミュンヘンで開催された年次カンファレンス「Qt Developer Days 2010」にて、同社のマーケティングディレクター Daniel Kihlberg氏に話を聞いた。

Daniel Kihlberg氏

--昨年発表されたQMLを含む「Qt Quick」が今年のカンファレンスの大きな目玉になりました。Qt Quickについて教えてください。

Qt Quickは、Nokiaの将来にとって非常に重要なステップとなります。Qt向け宣言的言語拡張であるQMLを含むもので、IDEの「Qt Creator」と組み合わせて、迅速(Quick)にモバイルアプリケーションやUIの開発を行うことができます。風船の色を変える、風船の代わりに自動車にする、などの変化を迅速に加え、反映できます。驚くようなエフェクトが可能となるため、最初の利用企業となったNokia社内で人気が高く、社外の利用者からもポジティブなフィードバックをもらっています。

Qt Quickは、Nokiaが素晴らしいUIを構築/提供できるだけではなく、Qt利用者の拡大という点でも重要です。これまでQt開発者というとC++の開発者が中心でしたが、Qt QuickではJavaScript、デザイナーなども潜在利用者となります。

ユーザーエクスペリエンスの重要性が高まっており、開発者もデザイナーも、ユーザーが必要としていることをきちんと理解する必要があります。Qt Quickは、ビジョンやアイデアを具現化するのを容易にしてくれます。

Qt Quickは「Qt 4.7.1」に含まれ、IDEの「Qt Creator 2.1」と「Mobility API 1.1」で完成します。Qt Creator 2.1は10月初めにベータをリリースしました。正式版は、2010年中を目指しており、Qt Quickを積極的にプッシュできる環境が整いつつあります。

--Qtを使っていない潜在開発者やデザイナーにどうやってアピールするのですか。

これまでC++開発者をターゲットとしたマーケティングを展開してきました。今後これを拡大し、デザイナーやグラフィック関連の人にもアピールしていきます。広告、検索エンジンマーケティングなどを展開します。

--Qtのキャッチフレーズは「Qt Everywhere」で、モバイルにフォーカスしているとしていますが、多くのモバイルアプリ開発者がターゲットとする「Android」や「iPhone」に対応していません。今後、対応予定はありますか?

Qtはオープンソースなので、コミュニティレベルでAndroidポートプロジェクトが生まれています。Qtが、Androidにポートする予定は現時点ではありません。

--ユーザーからAndroid対応の需要はないのですか?

確かにAndroidに対応してほしいという声は聞いています。ですが、Nokiaの競合状況を考える必要があります。NokiaはQtを使ってUIを作成しており、Qtは戦略的に重要になってきています。方針としては、「Eating your own dog food(自社技術を自分たちが使う)」ですが、シャンパンのような自社技術であれば、他者もわれわれのシャンパン(技術)を使うようになると見ています。

--Rhomobileの「Rhodes」など、モバイル向けのクロスプラットフォームが登場しています。モバイル開発でのQtの強みは?

Qtの中核となる強みは、ネイティブのパフォーマンス、さまざまなプラットフォーム間でのコード再利用、大規模かつ成熟したAPIライブラリ、柔軟なライセンス体系、そして大規模な開発者コミュニティにあります。

モバイル分野では現在、Qtが動く携帯電話は市場に1億7,500万台あり、そのうちの4,500万台がタッチ画面機種です。これに加え、「Nokia N8」など最新の「Symbian ^3」端末が今後登場し、推定である5,000万台程度が出荷されると予想しています。

Qtはまた、MeeGoのネイティブフレームワークでもあり、Qtを使うモバイル開発者はタブレットなど他のフォームファクタ向けにも既存のコードを再利用できます。