日本における帳票開発の現場では、PDFはもはや不可欠な存在となっている。そして、グレープシティの帳票開発コンポーネントル「ActiveReports (アクティブレポート)」も、もちろん例外なくPDFの出力に対応している。ただ、同製品の場合は単に「対応している」のではなく、フォントの埋め込み指定や電子署名の付加など、きめ細かな対応を行っているのが特徴だ。ここでは、長らく同製品のサポートを担当し、ユーザーの声を聞く立場にあった八巻雄哉氏に、この"日本仕様"の象徴とも言える機能の実装にまつわる「特別な思い入れ」を語っていただいた。

知られざる"外字"機能実装までの苦労

八巻雄哉――グレープシティ ツール事業部 テクニカルエバンジェリスト。Microsoft MVP for Development Platforms - Client App Dev Jan 2009 - Dec 2010。PowerToolsシリーズのテクニカル・サポートを担当する傍ら、製品開発やマーケティングにも従事。現在はWPF/SilverlightとPowerToolsシリーズ普及のために活動中。冬はスキー、夏は自転車と乗り物系スポーツが好き

PDFは基本的には専用のツールを使わないと編集ができない。そのため「編集する場合はExcel」、逆に「編集してほしくない場合はPDF」といった具合に、Excelと肩を並べるほど頻繁に利用される帳票出力フォーマットとなっている。

そのような市場背景を踏まえ、国内ではすでにほとんどの帳票開発ツールがPDFでの帳票出力に対応している。しかしながら、PDF出力に対応しているツールのすべてが「外字出力」に対応しているわけではない。

ActiveReportsはこの外字出力に対応。この機能の実装に、日本の製品担当者として深く関わったのが八巻氏である。

同氏は立場上、セミナーやイベントで講演者として参加する機会が多いのだが、「訪問先に行くと、必ずと言っていいほど『(ActiveReportsは)外字出力に対応しないのか?』という声がユーザーから寄せられていた」という。時には、「個別契約してでもいいから、PDFの外字出力機能をツールに実装してほしい」という話まであったそうだ。

米国(当時はData Dynamics社)の開発サイドに「ユーザーが強く求めている」ということはなんとか理解してもらえたものの、外字は漢字文化圏特有の問題であることから実装の難易度が高いとされ実現されていなかった。

外字はWindowsの機能としてシステム的にサポートされているが、英語圏の人でこのあたりのことを理解している人はまずほとんどいない。英語はどう間違っても普通に表示/入力ができてしまうため、文字コードやフォントの処理に詳しい英語圏の開発者は非常に少ない。これは、「いまどきはUnicodeだから2バイト文字も問題なく取り扱える」という単純な話ではない。事実、この時のPDF外字対応についてもほぼ全面的に処理が書き直され、生成されるPDFの内部的な構造もまったく異なるものになっている。

結局この機能は、そのような事情もあって日本で実装することとなった(グレープシティは2008年10月にActiveReportsの所有権を取得したため、現在は同社が製品開発を行っている)。

デザイナ機能のブラッシュアップは"終わり"のないテーマ

同社に寄せられるユーザーの要望について、件数の多さで常に上位にランクインしているのはデザイナ機能に関するものだという。

「これまでに機能追加された部分が最も多いのがデザイナであり、おそらくこの傾向は今後も変わらないでしょう」と八巻氏は述べているが、いくらワークフローが電子化され、帳票がPDF形式で出力されるようになっても、最終的に"紙"になるということに変わりはない。

紙は完成された"デバイス"。そうである以上、この(デザインするという)部分が時代やテクノロジーによって左右されることはなく、同氏は「ActiveReportsのデザイナ機能ブラッシュアップは"終わり"のないテーマ」だと語る。

八巻氏の出発点も「帳票まわりの仕事」だった

今でこそIT業界の最前線で活躍中の八巻氏も、エンジニアとしてのスタートラインは、業務システムの開発業務における「帳票まわりの仕事」だったという。

グレープシティはソフトウェアメーカーだが、実は同氏のようにSIerなどで受託開発を経験した社員が多数いるという。つまりこれは、「開発者にとっていかに使いやすいか」というユーザー目線での製品開発を、自然と行える環境が整っていることを意味する。