日本アイ・ビー・エムは10月7日・8日にかけて、同社のRational製品に関する最新情報を提供するカンファレンス「Innovate 2010」を開催した。今回、同カンファレンスの開催に伴い、米IBM Rational Software Chief Software Economistのウォーカー・ロイス氏が来日した。

「Chief Software Economist」という職に就いている人はIBM内で同氏だけである。その役目は「いかにビジネスに貢献するソフトウェア開発を行うか」というものだ。

米IBM Rational Software Chief Software Economist ウォーカー・ロイス氏

具体的には、アジャイル手法によって測定を行うことを同氏は推奨している。90年代に注目を浴びたアジャイル手法だが、ここにきてまたブームが再燃している。その理由を尋ねたところ、「90年代は、従来の開発手法のウォーターフォールモデルに比べて近代的な手法ということで、アジャイル手法は注目を集めた。しかし、思ったよりも成果が上がらなかったので停滞してしまった。しかし近年、ソフトウェアの生産性を向上することが強く求められるようになり、その解としてアジャイル手法に再投資する動きが出てきた」と答えた。

前回のブームと異なり、今回の再ブームが安定している背景には、ここ5年ほど、IBMは「なぜアジャイル手法による測定が必要なのか」「何をもって成功とするのか」「どのような手法を用いるのか」ということを具体的に落とし込めるようになっていることがあるという。

以下、同氏が語る「企業がアジャイル手法の導入に成功し、それによってソフトウェア開発のムダをなくすための方法」を紹介しよう。

これからのソフトウェアは測定・予測できることが不可欠

同氏は、「ソフトウェアの弱点は測定・計量化できないこと。これらを行わないと、ソフトウェアがビジネスにどのような価値を与えるのか把握することができない」と話した。そこで、同氏は具体的な数値を伴う効果を計測する指標を設定・算出する手法の開発を行っている。

ソフトウェアの予測という観点から見ると、従来のウォーターフォール開発とアジャイル開発は異なるという。ウォーターフォール開発では単体テストを行ってから総合テストを行うが、アジャイル開発では総合テストを行ってから単体テストを行う。

単体テストよりも先に総合テストを行うことで、「変更の数とそれにかかるコストを予測できる」と同氏。これにより、ウォーターフォール開発は予測が行えないために開発のライフサイクルの後半で予定よりもコストがかかることが判明することがあるが、アジャイル開発ではそういうことはなくなる。また、アジャイル開発ではライフサイクルの初期で変更が見つかって修正が行えるので、作業も簡単に済ませられる。

映画製作とよく似ているソフトウェア開発

同氏は、「知的財産の集合」「大規模なチームによる作業」という共通項を持つ映画製作とソフトウェア開発を比べると、「ソフトウェアの測定をどのように行うのか」「測定結果をどのように評価するのか」についてよく理解できると話す。

映画は俳優やロケーションなどを総合してよい作品ができ、また、ソフトウェアはスクリプト/ユーザーインタフェース/モデリングなどを統合してよいものができる。また、「映画とソフトウェアの成果物に対する評価は、ユーザーの満足度によって決まる点で似ている」と同氏は説明する。そこで、ユーザーに提供する価値を測定することが重要になってくる。

「ソフトウェアの場合、大型コンポーネントの組み合わせによって提供される経済的な価値をできるだけ早い段階で測定することが大切。これを実現するのがアジャイル開発だ」

アジャイル開発において「変更が容易にできるかどうか」を測定し、もし可能な場合は不確定な要因の予測も行えるということになるという。