5日より、幕張メッセにて日本最大級の展示会CEATEC 2010が開催された。家電、半導体やデバイスなど、最新の技術・情報を集めた展示会である。ハードに眼が行きがちだが、ソフトウェアも多数展示されていた。本稿では、CEATEC 2010で展示されたソフトウェアたちのいくつかを紹介する。

トレンドマイクロ:Trend Micro NAS Securityなどのセキュリティ製品

トレンドマイクロのブースでは、ホームユースでのセキュリティ製品を中心に展示を行っていた。今回の展示では、この8月にリリースされたばかりのTrend Micro NAS Securityが紹介されていた。NASといえば、ハイエンドユースが想像されるが、最近はホームユースでもビデオ録画、さらにはそのデータの保存・共有などでNASが使われることも少なくない。Trend Micro NAS SecurityではNASにあらかじめインストールされるので、特にインストール作業は不要で、また特に専門的な知識も不要である。NASを導入した時点でウイルス対策が可能となる。複数PCとLAN経由で接続するNASがウイルスに感染すると、一気に感染が拡大してしまう。そんな脅威から守ることができる。

図1 Trend Micro NAS Security

これ以外にもオフライン端末向けのTrend Micro Portble Security、USBメモリにあらかじめインストール済みのTrend Micro USB Security for Bizなども展示されていた。また、iPhoneとともにSmart Surfing for iPhone and iPod touchなども注目を集めていた。

ゼンリン:Pegasus eye Map

ゼンリンブースでは、これまでの地図情報をベースにさまざまコンテンツが紹介されていた。その中でも目を引いたのは、グループ会社ジオ技術研究所のPegasus eye Mapであった。これまでの2次元地図をベースにして作成された3Dマップである。

図2 Pegasus eye Map

図2を見てみればそれがよくわかるであろう。地図上の実際の建築物も現実に近い形状や色で描かれている。このように表現されることで、より現実に近い認識を得ることができる。デフォルトでは俯瞰だが、人間の目線に近い表示も行う(図2の左下のウィンドウ)。Pegasus eye Mapは、各種ナビゲーションシステム、検索システムなどでの利用が考えられる。そして、もう1つの特徴は、デバイスを選ばない点にある。これまでの3D地図には、3D専用のハードウェアとソフトウェア技術が必要であった。Pegasus eye Mapでは、この3Dのレンダリング機能をPegasus eye Map側に内蔵することで、ロースペックなデバイスでも利用可能となった。したがって、スマートフォンのようなデバイスでも利用可能となっている。今後、多くのデバイスで3Dマップが利用になると思われる。

プランニングヴィレッジ:Interstage Information Quality

データクレンジングという言葉をご存知であろうか?実例で説明しよう。住所などを含む名簿を考えてみていただきたい。番号、氏名、よみ、住所などで構成されているとしよう。これらの表記については、必ずといっていいほど表記のゆれがある。具体的には、

  • 住所の欠落(群馬県草津町草津→群馬県吾妻郡草津町大字草津)
  • 氏名や読みの分かち書き(スズキイチロウ→すずき いちろう)
  • 丁目番地のゆれ(四丁目一番一号、4-1-1→4丁目1-1)
  • 住所表示の変更(神奈川県高座郡海老名町→神奈川県海老名市)

名簿などは入力者によって、微妙なゆれが発生しやすい。ここではあげなかったが、半角と全角文字の混在、ひらがなとカタカナ、空白の有無、誤字などもあるだろう。住所・氏名クレンジングでは、これらのゆれを解消してくれるものである。実際にデータクレンジングを行った例が図3である。

図3 氏名・住所データクレンジング

半角・全角、空白などはフィルタツールでも不可能ではない。しかし、Interstage Information Qualityでは、過去40年分の住所データを収録し、市町村合併などがあっても、最新の住所データに修正してくれる。これは、フィルタツールなどでは決してできないものだ。また「常磐町」と「常盤町」といった誤字は人間では、見逃され続ける可能性が高い。このようなデータは放置することで使えないデータとなっていく。また、データクレンジングを行うことで、同一であるはずのデータが複数発見されるといったこともある。Interstage Information Qualityは、データの正確性を高め、いつまでも使えるデータに維持してくれる。

ウルトラエックス:MVPen

気軽に絵や文字をPCに入力したい、そんな要求に応えるのが、MVPenである。MVPenはUSB接続する受信ユニット、専用デジタルペン、さらにそれらを管理するソフトウェアから構成される。

図4 MVPen

図4の右下にあるノートに専用の受信ユニットを取り付ける。あとは電子ペンで自由に文字や図を書いていく。それが、そのままにPCに取り込まれるというものだ。手書きの入力デバイスとしては、すぐ思い浮かぶのはペンタブレットがある。MVPenの強みは、価格面でペンタブレットよりも安価であり、簡易的に扱えることにあるといってもよいだろう。ウルトラエックスでは、MVPenを使った事例などをMVPenオフィシャルサイトで公開している。開発者のブログでは、手書きの日記による「心のリセット」という事例を紹介している。使い方と工夫次第で可能性が広がるのでは、という印象を受けた。

シンプレックス:カルキングPro

PCで数式を処理することはいろいろな意味で敷居が高い。まずは、数学記号などが標準のワープロなどでは貧弱であったりすることが少なくない。また、数式処理に関しては、高価なソフトウェアが多く、一般的には手が届きにくい。シンプレックスのカルキングProは、その両面からの解決策となるソフトウェアである。

図5 カルキングPro

ワープロのような気軽さで数式を入力でき、入力した数式を実際に計算させることもできる。同時にグラフ作成(2D、3D)機能などもある。さらに、表組や図版作成も可能である。数式用には、独自のイタリック体のフォントなども搭載されており、直感的な操作が可能となっている。さらにカルキングPro上で作成したすべてのデータは、HTMLやLaTeX形式で出力することも可能である。この点はおおいに評価したい。シンプレックスによれば、現在では、土木・建築分野での利用が多いとのことである。しかし、その機能などから、理系の論文作成、教育分野などでの利用が期待できる。カルキングProの出力例はPDFで、シンプレックスのWebサイトにて確認できる。

dts Japan:dts

dtsは、Digital Theater Systemsの略称(小文字で表記されるのが一般的)で、映画館、Blu-rayディスク、PS3などの音声トラック用に用いられる仕様である。特に最近ではBlu-rayディスクでのシェアを高めている。ロスレス方式を使い、劣化のない高品位のサウンドを楽しむことができる。そのdtsをPCで利用するソフトウェアがDTS Premium Suiteである。現時点では、メーカー製PCなどにバンドルされており、市販はされていない。PCでは充分に堪能することができなかったサウンドを、より臨場感あふれるものすることができる。

図6 dtsの設定画面

同システムは、複数のプログラムで構成されている。ステレオスピーカーやヘッドホンで高品位の温室をサラウンドサウンドを再生するDTS Surround Sensation UltraPC、ばらつきのあるインターネットコンテンツの音量を均一化するDTS Symmetry、PCの音声出力を最大限にし、音圧レベルを向上させるDTS Boostなどがある。PCでも、これまでにないサウンド再生環境提供するものとして、注目したい

ArcSoft:Sim3D関連製品など

ArcSoftでは独自技術のSim3Dを使い、2Dの写真や2D動画を3Dにして再生するデモなどが行われていた。

図7 ArcSoftのブース

ArcSoftではこれまで、デジカメやムービーの組み込みソフトなども数多く手がけてきた。それらをベースにさまざまな映像関連のソフトウェアを提供している。今回のデモで、もう1つ興味を引いたのはアンドロイド端末で動画の再生、さらにDLNAクライアントとして動作させ、PCと動画データを共有するデモなどを行っていた。今後、アンドロイドを搭載するスマートフォンの普及はさらに進むだろう。スマートフォンにおいて、有力なマルチメディアソリューションの1つであろう。

クラウド・ビジネスア・ライアンス:クラウドコンピューティングプラザ

コンピューティングプラザでは、アライアンスに加盟する各社のブースによる展示や講演が行われていた。

図8 クラウドコンピューティングプラザ

最近、流行のクラウドであるが、これまではハイエンドを指向するものが多かった。各ブースを回った印象では、非常にコンパクトなレベルから、日割、月割といった単位での課金システムや1万円未満のサーバサービスなども登場していた。さらにKVMを使い、低価格をウリにするサービスなどもあった。これまで個人では、レンタルサーバが主な選択肢であったが、クラウドもまた選択肢の範囲に入りつつあるという印象がした。

CEATECでは、大学や研究団体からの参加も多い。以下ではそれらを見ていく。

NICT:概念辞書

まずは、NICT(情報通信研究機構)の概念辞書である。質問文を解析し、Webデータから回答を含みそうな質問文を推定する。この例では「デフレを引き起こすのは何ですか」という質問文である。実際には「Xはデフレを引き起こす」というパターンが検索される。さらに「Xはデフレの原因となる」のようにパターン拡張が数十行われる。その検索結果が、図9である。

図9 概念辞書の検索結果

「X」に該当する言葉が表示される。中心から離れるほど、関連が薄くなる。ここではデフレの原因として「ネット」が含まれる文を表示した。さらに、該当のページにもリンクする。このようにして、これまでにない方法で、有益な情報を得る可能性がある。

奈良先端科学技術大学院大学:フライスルーAR平城京

奈良先端科学技術大学院大学のブースでは、フライスルーAR平城京がデモを行った。無人飛行船を使い、全方位カメラによる映像、GPS位置などを記録。そのデータを死角や飛行船を自動で補完・消去する。さらに1300年前の平城京の3Dモデル合成したものである。

図10 フライスルーAR平城京

見る向きによって、映像も変化する。最近の建築設計では、3Dモデルなどが同時に作成されることが多い。実写映像と組み合わせ、事前のアセスメントやプレゼンなどに応用される可能性がある。

立命館大学:職業推薦システム

立命館大学では、小中学生向けに適した職業を提示する職業推薦システムをデモしていた。まずは、希望の職業を選び、PC内の仮想空間で活動をしてもらう。その結果から、適した職業領域の分析を行い、適した職業を推薦する。

図11 職業推薦システム

もし向いていなければ、今後どのような努力をすればよいかもわかる。現状は実験段階であり、実用化はされていないとのことだ。将来、どのようなシステムになるか興味深い。

産総研・RCIS:フィッシング詐欺対策

フィッシング詐欺は、インターネットの大きな脅威となっている。産総研では、新たなフィッシング対策のデモを行った。その仕組みを大雑把に説明すると、サーバとクライアントの両方でパスワードに関する情報を相互に認証する。サーバ側からクライアントへもユーザ情報を元に認証を行うため、ユーザにも正しいサーバであるかがわかる。逆にフィッシングサイトなどは、ユーザ情報を知り得ないために、認証が成立しないのである。また、パスワードそのものを通信しないため、攻撃者にパスワードを盗まれる心配がない。

図12 HTTP相互認証プロトコルの実行例

図12はその実行例である。URLボックスの右にアカウントを入力し、さらにパスワードを入力する。偽サイトはサーバから正しい認証情報が届かないので、鍵が繋がらない。正規サイトでは、アカウント部分が緑色になる。産総研では、ITFTへ標準化提案、オープンソース実装の公開などを行い、普及に努めている。

ゴビ:ツイネージ

最後に会場で見つけたTwitterと連携したサービス、ツイネージを紹介しよう。会場におかれたPCから、つぶやきを入力する(図13)。

図13 会場におかれたPC

ここで入力されたつぶやきは自動的にツイートされインターネットにも公開される。実際には、図14のようになる。

図14 ツイネージ端末

このようにイベント会場でのニュースや案内を表示できる。参加者は意見や感想をつぶやくことができる。Twitterの可能性は、まだまだありそうである。