宇宙に行くと"生きてる地球"が感じられる - 野口宇宙飛行士の報告会が開催

映像紹介とQ&Aの後は2部構成のトークショーが行われた。第1部は「宇宙とふれあう子供たち」と題し、野口宇宙飛行士がISS滞在時に交信イベントを行った生徒やISS無線交信イベントなどに参加した生徒など、5名の子供たちと、彼らが野口宇宙飛行士とどのように触れ合ったのかを振り返った。

トークショー第1部は小学生たちとISS滞在時の野口宇宙飛行士との触れ合いを振り返り、思い出話が語られた

野口宇宙飛行士は小学生の製作した映画に出演したが、それを作製した2名の小学生もトークショーに出席、実際の撮影シーンを映像で振り返り、「恥ずかしい」と苦笑交じりに語り、「よく出来てはいたでしょう。でも、次に宇宙に行ったとしても、僕には映画のオファーは来ないでしょう」と会場の笑いを誘った。

その他、各種交信イベントなどに参加した子供たちの様子も振り返りながら、「みんな良く下調べをして勉強をしてきている」と関心していた。

トークショー第2部は、東海大学情報技術センター次長、宇宙情報センター長の下田陽久氏、アラスカ大学国際北極圏研究センター客員教授の福田正己氏、日本航空インターナショナル 777運航乗員部 機長の松並孝次氏の3名をゲストに迎え、司会にテレビ東京の大江麻理子アナウンサーを加えた形で「人が見た宙・空から見た地球」と題して行われた。

左から、野口宇宙飛行士、松並孝次氏、福田正己氏、下田陽久氏

まずは2010年4月5日(アラスカ時間)に地上とISSから撮影したオーロラの写真に触れ、「地上と宇宙という 別々の視点から多角的に地球を見ることができるようになった」としISSによる地上撮影がどのようなものかを紹介した。

左が地上から撮影したオーロラ、右がISSから撮影したオーロラ

また、松並機長が2005年と2008年に撮影したグリーンランドの様子の写真を紹介。「グリーンランドには地球の9~10%の氷があると言われているが、それが明らかに減っている」とし、高度1万mを飛行する飛行機から見ても温暖化の様子が分かることを説明。航空機のパイロットとしてシベリア上空やアラスカ上空での森林火災の様子を報告するなどの活動を行っていることを紹介した。

飛行機から撮影されたグリーンランドの様子。2005年と2008年の写真を比べると時期は同じにも関わらず、明らかに様相が異なっている

こうした森林火災について福田氏が、「普通の森林はCO2を吸い取ってくれる存在だが、森林火災になると逆にCO2を大量に排出する存在となる」とし、森林火災の発生は特に近年、「アフリカ、アマゾン、東南アジアに集中している」との観測結果を報告、「この火災によるCO2発生量を計算すると年間で60~150億tと推測される。人間が化石燃料を燃やして発生させるCO2が年間270億tと言われているので、その半分くらいが森林火災で発生していることとなる」とし、それを減らすための活動としてアジア太平洋域の自然災害の監視を目的とした国際協力プロジェクト「センチネル・アジア」を紹介。「まずは監視、それでも発生してしまうので、それを衛星などから早急に感知する。このためにJAXAなどと連携して研究を進めており、より高い解像度(分解能115m)を有する赤外線カメラを開発し、ISSに搭載することを検討している」ということを明らかにした。

宇宙からの観測について下田氏がさらに、「宇宙から観測できれば、グローバルにかつ定期的に同じセンサを活用して均一の品質で長期的に計測することができる」とした。また、何を図るかについては「さまざまあるが、最近は環境の変化がトレンド、それも宇宙からなら大気、陸域、海域、雪氷域すべてを観測できる。しかし、衛星に搭載できるのは精度がそれほど高くない」とし、センサ性能の向上が必要とした。

センサ性能でいうと、福田氏の試算では「野口さんが撮影した地上の写真の分解能は100m程度。実際に野口さんがメキシコ湾原油流出事故の発生直後に付近の海域の写真を撮影したように、機械ではなく、人間の眼と感覚でおかしいと異変を感じられると災害を調べるという意味では非常に意味がある」とし、「機械の眼と人間の眼の2つを活用することで地上の異変を宇宙から見つけられるように地上側もサポートしていきたい」と抱負を述べると、野口宇宙飛行士も「宇宙が地球の火の見やぐら的な役割を担うことは重要。地上と連携を図ることで、そうしたことも行っていければ」と同調した。

最近の森林火災発生の中心はアフリカ、アマゾン、東南アジア。左写真のオレンジのところが森林火災が発生した地域

さらに、ISSの活用については下田氏が「人工衛星にセンサを積むよりも、ISSに搭載できればプラットフォームを開発する必要なく、センサだけを開発すれば良いという開発の簡素化も可能になる」と地球観測衛星的な役割も可能と指摘、「ISSはさまざまなリソースが揃っており、電力や冷却でも有利なため、すでに何かそういったものを打ち上げようという話を進めている。最低でも2010年中に何を打ち上げるか1つは決めて、2015年には実際に打ち上げる計画」ということを公表した。

地球観測という意味ではGOSAT(いぶき)が現在、CO2の状況把握のために活用されているが、搭載されている「雲エアロソルセンサ(TANSO-CAI)」を活用し、火山噴火の噴煙の移流の様子などの観測も行われ、実際にアイスランドで起きた噴火では、その噴煙の動きの観測に欧州にて活用された実績もある

最後に野口宇宙飛行士が、「地球観測はみんなが興味あると思っている。自分達が住んでいる地球に、どう関わっていけるのか、そしてISSがどう役立てるのか、松並機長も宇宙飛行士も長く飛行を続けることで気付くことがある。長く飛んで地球を見る。これが有人宇宙飛行の醍醐味だと思う」と宇宙飛行士に対する想いを語り、報告会は終了した。

なお、8月9日には野口宇宙飛行士ゆかりの神奈川県茅ヶ崎市にて午前9時より野口宇宙飛行士の歓迎パレードの開催が予定されているほか、同10時からは市民文化会館にて帰国報告会が開催される予定だが、残念ながらこちらはすでに観覧申し込み受付は終了してしまっているが、同報告会を記念して野口宇宙飛行士がTwitter上で公開した写真を中心に「宇宙と地球と野口さん」をテーマにした写真展が8月末まで神奈川県藤沢土木事務所汐見台庁舎「なぎさギャラリー」内にて開催される予定となっている。