2010年2月、iidaブランドの新機種である「lotta」の発売に合わせて登場したiida calling ver.3。5・7・5のメッセージを打ち込むと瞬時に着うたが完成し、今回からはTwitterとの連携も取り入れている。アーティストの起用経緯にも込められたキャンペーンの想いや仕組みづくりについて、前回に引き続き、田中耕一郎氏にお伺いする。

iida calling ver. 3と音楽の新たな文脈を作るアーティストのメロディ

クリエイター・田中耕一郎


「口ロロ(クチロロ)は、『everyday is a symphony』というアルバムでフィールドレコーディングして集めた日常の音で楽曲を作っていました。環境を取り込んで、ポップミュージックを作るそのスタンスがiida callingに合うなと感じました。音楽が音楽なだけで完結するのではなく、生活と音楽が混ざって音楽の新たな文脈へと広がっているように感じたんです。しかも、TwitterとUstreamを使った2009年12月のお披露目会では、Twitterのつぶやきをリアルタイムで取り込んでいました。そこで、プロモーションの仕方も含めて、新たな流れを作っている彼らはどうだろうかと考えたわけです」

日常と音楽の幸せな融合、そんな関係を形にしてみせるアーティストが現れた。新技術のもたらすワクワク感やリアルタイムならではの驚き。ネットで中継される彼らのライブには、田中氏の関心を惹く要素が散りばめられていた。

「新しい音楽の文脈やセンスを作るアーティストと、今までの携帯とは違うセンスを持つiidaが組むことが重要でしたから。彼らも本当に楽しんでやってくれました、正月返上で(苦笑)」

iida calling ver.3のトラックには、レアトラック1種を含む10種類のバリエーションが用意された。5・7・5のメッセージを入力すると、Webサーバ上でA・B・Cのメロディとなり、3つのベーストラックD・E・Fとランダムで繋がり10秒以内に着うたが生成される。すべてが偶然性に基づくリアルタイムサウンドミックスだ。

「メッセージが色々な聞こえ方で再生されるとなれば、何度も聴きたくなるじゃないですか。完成した曲同士も繋がるような構造の曲をいくつもお願いしましたから、楽曲制作は相当難しかったと思います。きっと数学を解きながら、同時に音楽を作る感じなんでしょうね。実際、彼らも作っていて頭がこんがらがったそうです(笑)。オンラインのWebサーバ上でしか成立しない曲の作り方なので、そういう意味でも3はかなり進化しています」

「iida calling ver. 3」ミーツ「Twitter」

あたかも「iida calling ver. 3」は、何食わぬ顔でフレーズを繋ぎあわせ、まったく新しい曲を作りあげるDJのような仕組みだ。また、今回からはTwitterとも連携させ、ツール特性をうまく組み込んでいる。

「自分がブラウザに言葉を打ち込んだすぐ後に、音楽がジェネレートされて聴こえるわけですよね。人ってそういう部分に『なにこれ!?』と思い、感動すると思うんです。今までそういった音楽には出会ったことがないと思いますし、そういう驚きや感覚が大事なんだと思うんです。また、その"わっ!"と思った気持ちですぐTwitterに投稿できるようにもしました。5・7・5のフォーマットにも影響が見えると思うんですが、これは最初から確信犯的に決めていたわけではありません。"Twitterにどうやったらハマるんだろう"というぼんやりした課題から生まれたものなので。Twitterがなければこの形にはならなかったでしょうね。昔からある最もミニマルな言葉のフォーマットに、音楽のミニマルなフォーマットが重なった感じです」

プリミティブな感情が生む行動を、いかにWebやモバイルの最先端サービスへ関連づけるかを考える。だが、このインタラクティブキャンペーンのポイントは、単なるサービスとの連携ではない。

「ビジュアル面だけでなくポストのされ方やUIの部分でもかなり意識しました。今回は"曲を作るプラットフォーム"としてミニマルに、とにかく簡単そうに見えるようにしたんです。ブログだと煩わしさがあるけど、『枠内に打ち込むだけ』と思えばすぐに書けますよね。これはTwitterをやる人なら持っているはずの感覚で、重要なのはTwitterの延長線上にあるものとして、どれだけ同じ感覚で使ってもらえるかなんです。Twitterを使うことで身についた行動習慣を生かすための工夫ということです」

状況の変化を活かして、時代にハマるアイデアを

シンプルなUIに、ユーザーにストレスを感じさせずさらりと行われるギミック。だが、その裏には楽曲のリアルタイム生成など、多くの最先端技術が詰まっている。システムの実現は並大抵ではなく、開発チームは公開当日まで制作をしていたそうだ。田中氏も「よく人生最大の修羅場だった、と言われる」と語った。こうした表現や技術の側面からも、iida callingはVer. 3で新たな段階に進んだと言えるだろう。

「そうですね。難しくはありますが、常に新しい視点を入れることでiida callingを進化させていければと思います。といっても何が進化かわからないのですが(笑)。今後に関しては、スタッフでいろんな方向性を試し算しています。それにアイディアは自分たちの中だけにあるわけではなく、Webやモバイルの状況との兼ね合いもありますから。例えば、Ver. 2の頃は一般的ではなかったTwitterが、Ver. 3のタイミングでキャズムを越えたからこそiida callingのフォーマットも変わったんです。でも、時代にハマるというのはそういう感覚だと思うんですよね」

社会のさまざまな状況や新たな技術を取り込んで進化し続けるiida calling。次のバージョンでは、一体どんなワクワク感を感じさせてくれるのだろうか。今後の展開が楽しみだ。

田中耕一郎

Projector代表・クリエイティブディレクター。1973年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、広告制作会社TYOを経て、2004年にProjectorを設立。日産ウェブシネマ「TRUNK」、NIKEケータイフットボール 「蹴メ」、ダンスミュージック時計「UNIQLOCK」、ケータイミュージックジェネレーター「iida calling」など、数々のインタラクティブ広告キャンペーンを手掛ける。Projectorとしては、設立から4年間で、世界3大広告祭(カンヌ広告祭、NYワンショウ、クリオ賞)全てにおいてグランプリを獲得するなど、50以上の広告賞を受賞。また、2008年のカンヌ広告祭にて、インタラクティブエージェンシー世界ランキングで3位を獲得する。2009年カンヌ広告祭審査員、NYADC会員

インタビュー撮影:岩松喜平