インテルは2000年から、世界規模の教員研修・教員養成支援活動を行ってきた。この10年の間に起きた、パソコンや携帯電話、インターネットなどにおける技術革新の流れは、社会や経済に大きな影響を与え変化をもたらしてきた。そして教育現場においてもまた、子どもたちに求められるスキルが大きく変わってきた。そこでインテルは、今後必要とされる「21世紀型スキル」を掲げ、このスキル育成を推進する各国の教育関係機関の支援に取り組んでいる。

「21世紀型スキル」とは何か? 教員に求められる力とは? 評価制度はどうなる? そして、電子教科書の動きは? といった話を、同社教育プログラム担当のペイジ・ジョンソン氏にお聞きした。

Paige Johnson(ペイジ・ジョンソン)氏。インテルコーポレーションのコーポレート・アフェア・グループの初等中等教育グローバル・マネージャー、インテル教育プログラムを担当。2012年度のNAEP(全米学力調査)およびNAGB on Technological Literacy(科学技術知識に関する全米統一学力テスト委員会)の運営委員。米国の学校で使われている学習目標標準を作成する委員会ISTE(国際科学教育学会)のNETS(教員のICT指導力の基準)に関する諮問委員会の役員を3年務めた経験を持つ

インテル教育プログラム

インテルは、学校へのICT導入の促進を目的として、60か国以上で600万人を超える教員の研修を行ってきた。インテル基金とインテルコーポレーションは、教育振興を目的に、日本を含む50カ国以上で、年間1億ドルを超える投資を行っている。教員研修・教員養成支援プログラムや、生産的かつ思考力を養うツールなど、21世紀の教育ニーズを満たすカリキュラムを提供している。日本語資料は、こちらから無料で入手できる。

「21世紀型スキル」が求められる背景とは?


──教育の場への「21世紀型スキル」を推進するに至った背景と、その重要性についてお聞かせ下さい。

これからの時代を担う子どもたちに対して、世界各国がより良い教育制度に取り組んでいますが、その中で、子どもたちがこれから身に付けていくべき「必要なスキルは何か」という定義付けが非常に困難であるという大きな課題に直面しています。

現在、大学3年生になる私の娘の例でお話ししましょう。彼女は数年後に就職し、2060年に退職を迎えます。経済学者は、これから退職までの約50年間、「15種類以上」の仕事に就くだろうが、それらの仕事は「現在存在しない職種」であると述べています。同様に、現在米国で需要のある職種のうちトップ10に入っているものはどれも、2004年には存在しなかった仕事でした。

経済の革新が進む中で、仕事の内容や職種も常に変化してきている、今後、どのような種類の仕事が生まれるのか、そしてどのようなスキルが必要とされるのかを予測するのは、なかなか難しいことです。

ただし「反復的な作業」「基礎知識のみが必要な作業」「肉体労働系の作業」等の労働は、機械の利用や開発途上国へのアウトソースといった形で、急速に低コスト化が進んでいくだろうと、産業界も経済学者たちも同一の見解を示しています。

このような背景を踏まえて、今後の社会がより良く繁栄するために、子どもたちは新しい「21世紀型スキル」を身に付けなければならないと考えています。インテルは、世界中の教育担当の省庁に対して、このようなスキルを身に付けるための活動支援を、さまざまな方法で行っています。

ジョンソン氏は、以下に示す「21世紀型スキル」を挙げ、数学や科学、言語といった"コンテンツ型の知識"に対してはより深い理解を、そして、批判的思考や問題解決能力、コミュニケーション力といった“スキル"が兼ね備わっていかなければならないと説明する。

21世紀型スキル

  • 批判的思考力(批評精神を持って考える力)と問題解決能力
  • コミュニケーションとコラボレーションの能力
  • 自立的に学習する力
  • ICT(情報通信テクノロジー)を確実に扱うことのできる能力・スキル
  • グローバルな認識と社会市民としての意識
  • 金融・経済に対する教養
  • 数学、科学、工学、言語や芸術といった分野への理解を深めること
  • 創造性

──各国の政府が「21世紀型スキル」の重要性を受け止め、教育改革へ取り組む理由、また、インテルがそれを支援する理由はどこにあるのでしょうか?

それは、教育が経済へ及ぼすインパクトが非常に大きいと感じているからです。最近のマッキンゼーグループの調査によれば、「米国内の学業成績の平均レベルが、フィンランドや韓国の子どもたちと同じレベルに達していたならば、(米国の2008年の)GDPは、1.3~2.3兆ドル高くなっていたであろうし、このような経済不況の状態には陥らなかっただろう」という報告がされています。

変化に対応していく能力


──これからの変化に対応していくために、重要なものは何でしょうか?

「新しいものを学ぶ」という能力だと思います。変化する中で新しいものを学ぶこと、そして時には、既成概念に捉われず以前に学んだ事を解き放つということも必要になってくるでしょう。

これからは誰もが、"コンテンツ型の知識"と"スキル"の両方を身に付けていく必要があります。コンテンツなしでは、批判的思考やコラボレーションするといったスキルも育くむことができない。これまで、世界の多くの学校では、"物事を記憶する"学習指導が行われてきました。しかし、技術を基盤とした経済革新の状況下では、「暗記よりも、大きなアイディアとして物事をみること」「どのように情報を収集し判断するか」といった能力が問われ、必要とされています。

──ICTを用いた教育環境はすでに普及も進んでいますが、これからはICT活用において何が違うのでしょうか?

ICTを教室に導入することで、生徒たちの思考過程や認知行動が低下してしまっては意味がありません。例えば、反復的な作業や調べるといった作業に対して、以前は、読み書きをしながら考える作業を行っていたものが、グーグルで探してきて、コピー&ペーストするだけという作業になってしまわないように、先ほど述べたスキルを身に付け、その中でICTを活用していくといった作業と能力が必要になります。