北海道大学 低温科学研究所は4月16日、宇宙における水素分子生成過程を解明したと発表した。天文学と天体物理学を扱う学術雑誌「The Astrophysical Journal Letters」に論文が掲載された。

水素分子は宇宙でもっとも大量に存在する分子で、宇宙に存在する分子のおよそ9割を占めるといわれている。星の形成や宇宙における物質進化に重要な役割を果たすと考えられているが、宇宙の真空中(気相)で2つの水素原子(H)が結びつく反応は極めて起こりにくく、宇宙に存在する塵(星間塵)表面でH原子同士が結合する反応が不可欠であると考えられていたが、その生成過程の全容は謎となっていた。

同研究所では、極低温の暗黒星雲を再現できる超高真空実験装置を開発、その中に擬似的な氷星間塵表面(アモルファス氷表面)を作製。同表面に低温に冷却したごく微量のH原子を照射し、H原子の表面への吸着からH2分子生成までの、すべての振る舞いをレーザーを用いた共鳴多光子イオン化法によりモニタした。

同研究所が開発した実験装置「RASCAL」

結果、H原子の一部は氷表面にトラップされる一方、多くのH原子は10Kの極低温にもかかわらず、表面を動き回って他のH原子と結合してH2分子を生成することが判明した。

同実験によるH2の生成効率は宇宙に暗黒星雲に存在するH2分子の量を説明するのに十分なもので、これによりH2生成にいたる道筋とその生成効率の導出が解明されたこととなる。

アモルファス氷表面での水素分子生成過程の模式図

なお、氷星間塵上では水素分子だけではなく、有機分子を含む多くの分子が水素原子との反応で生成しており、同研究所では今回の研究で得られたデータを用いることで、それらの分子の生成効率をより正確に見積もることが可能になるとしており、これまでの研究成果と合わせることで、宇宙における分子進化がより詳細に描けるようになるものとしている。