Googleが携帯市場へ参入することは、同社が携帯OSプラットフォームを開発する小さなベンチャー企業「Android」を買収したときから既定路線だった。同社が初のAndroid搭載携帯電話を発表する数年前、まだAndroid自体が具体的形になっていなかった段階だが、AppleとGoogleの両幹部は互いに話し合いの場を持ち、その可能性や懸念について説明を続けていたという。

同件に詳しい人物によれば、こうした話し合いはたいてい議論がヒートアップし、Jobs氏が「GoogleはiPhoneの機能を盗んでいる」と非難する一方で、Google側は「Androidの機能は業界で培われた長年のアイデアを基にしており、いくつかのプロトタイプはiPhoneより先行して作られている」と返す状態だったようだ。

最もひどかったといわれるのが2008年にGoogleキャンパスで開かれたミーティングの席で、Jobs氏は激怒しながらGoogle幹部らに対して「マルチタッチを使った端末を広めたら訴える」と宣言したという。Google側はAppleの意見に真摯に耳を傾けているようでいて、ほとんど意に介さなかったようだ。会議に参加したある元Google幹部によれば、「GoogleがAppleに対して便宜を図っていたようには見えず、GoogleはAppleを含むいかなる相手をも恐れない状態だった」とその様子を表現している。

実際、GoogleはこのJobs氏の宣言を試すかのような行為に出ており(「Nexus Oneが正式にマルチタッチ対応へ - 米Google」)、多くがご存知のようについに訴訟は現実のものとなった(「なぜAppleはHTCをターゲットにしたのか? - 特許訴訟に隠された本当の狙い」)。

療養生活から復活したJobs氏が見たもの

Google側も用意周到にAndroid計画を進めている。2008年に最初のバージョンのソフトウェアを搭載して登場した端末はマルチタッチにそもそも対応しておらず、動作も緩慢で非常に使いづらいものだった。Google内部ではこの「T-Mobile G1」をちゃかすように「積み木のおもちゃ」と表現していたという(「世界初のAndroid端末「T-Mobile G1」を体験 - 構想5年が結実したNY発表会」)。だが、時とともにAndroid端末は進化し、Jobs氏が2009年に健康問題での療養生活から復活したときに見たものは、明らかに当時とは異なる優れたデザインで強力なパフォーマンスを持つMotorola Droidのような端末だった。またこの端末では、iPhoneにはない特徴であるマルチタスクへの対応も行われていた。

さらには、米国でiPhoneを独占契約で抱える米AT&Tに対し、Droidを独占契約でリリースするライバル米Verizon Wirelessが、「Everything iDon’t ... Droid Does. 」(iPhoneでできないことは全部、Droidで実現できる)という明らかにAppleを挑発する広告キャンペーンを展開した(「iPhoneを狙い撃ち - Android 2.0搭載「DROID」11月6日に米国発売」)。これがJobs氏の神経をさらに逆撫でしたのかもしれない。