"Mobile First"を強調するShmidt氏。これからのコンピューティングは"はじめにモバイルありき"になるのか

Schmidt氏はモバイル業界に対し、新しいルールとしてMobile Firstを提案する。「ユーザーも(モバイルを)望んでいる。われわれの役割は、魔法(マジック)を作り出すことだ」とSchmidt氏。「そのために、ソフトウェアとネットワークが共同作業をする、新しいアイデアにyesということ」などを提案した。

デモには拍手した会場だが、Googleの"Mobile First"が自分たちのビジネスにどのような影響を与えるのかをいぶかしがる人が少なからずいたようだ。

まず会場前列に座っていたITU TelecomのボードメンバーのReza Jafari氏が「モバイル業界とGoogleの関係は?」と質問をした。Schmidt氏は、「われわれはエンドユーザーが何を必要としているのかで合意する必要がある」と答える。「Google Voice」への批判を予期したのか、「オペレータにとって、データ利用の爆発はすばらしい兆候だ。LTEなどインフラ投資は膨大だが、さまざまな方法で投資を回収できると確約できる」とSchmidt氏(それでも、最後の方で会場から、Google Voiceは「オペレータから通話時間を盗んでいる」と批判が出た)。

Schmidt氏は、「最高のパートナーシップとは、全員が利益を上げることだ」と述べ、ユーザーのニーズを土台にパートナーシップを築きたいとした。

Schmidt氏のあたりさわりのない回答に、突っ込みを入れたのはその次の質問だ。「Googleはオペレータを"Dumb data pipe(単なるパイプ)"に変えようとしているように見える -- 自分たちのサービスを配信するためのサプライヤにしようとしているようだ」とこの人物。「オペレータがただのパイプなら、将来、インフラの投資は誰がするのか?」と続けた。途中、Schmidt氏が「違う」と口を挟む場面もあったが、質問者が最後まで話すと、会場からは拍手が起こった。

Schmidt氏は落ち着いた表情で、「まったく同意しない」と述べた。「Googleはオペレータをただのパイプにするつもりはまったくない」と繰り返しながら、「われわれはオペレータの成功に依存している。高度で洗練されたネットワークが必要だ」と続けた。たとえばセキュリティやダイナミックシグナリングなどだ。

"オペレータ vs. Google"は、合計約30分あった質疑応答の間、何度も出たテーマだ。Google Voiceはもちろん、Googleは過去に、米国での700MHz帯オークションに入札し、落札したことがある。WiMAXオペレータのClearwireに投資しているし、つい先日には米国での1GbpsのFTTHサービス実験を発表している。Googleの真意が見えないとして、Googleの行為を正面から批判する意見もあった。

Schmidt氏はインフラ投資についての質問には、「しない」で統一。「オペレータのように幅広いスケールでインフラに投資することはない」と言い切った。現在展開しているインフラ側のアクティビティについての具体的な意図や計画には触れず、「ブロードバンドが普及することで、Googleはメリットを得られる。モバイルでも固定でも同じだ」とした。

主に米国で議論されているネット中立性について、「オペレータにとって、膨大なキャパシティに対応したり、ネットワークの不正利用に対応することは重要だと理解している。無線網が制約を受けていることを土台レベルで理解している」とSchmidt氏は理解を見せる。「われわれが問題としている点は、たとえばビデオなど、同じカテゴリのコンテンツを提供する事業者間を差別する(オペレータが選択できる)ことを望んでいないということ」と述べ、ユーザーが求めるコンテンツに公平にキャパシティを供給するよう求めた。

ときどき投げられる非難めいた質問に対しても冷静に応じたSchmidt氏。既存オペレータたちの不安はよけいに増したようだ

「5年後、顧客はGoogleの顧客なのか? オペレータの顧客なのか?」という質問には、「両方だ」と答えた。その理由として、「オペレータが顧客のデータを持つように、Googleも顧客のデータを持つようになる」と説明する。「違いは、オペレータの場合は(データ提供が)必須だが、Googleはオプションという点だ」とSchmidt氏。Googleにデータを提供することで利便性が増すため、「将来的には多くの顧客が(自社に)データを提供するようになるだろう」と述べた。

プラットフォームとアプリケーションストアが乱立した状態については、「競争があることは最終的にエンドユーザーにメリットをもたらす」と述べた。

モバイル広告については、今後広告がモバイルに移行するのは必至と見る。「広告とはターゲットすること。携帯電話はユーザーの場所などさまざまな情報があるため、ターゲットをしやすい」とSchmidt氏。「すべてのトランザクションに、ほんの少しでもかかわりたい」とSchmidt氏は述べ、ローカル広告にも意欲を見せた。モバイル広告は数年前からMWCなどでテーマの1つに挙がっているが、業界の懸念はGoogleがすべてをもっていくのではないか、だ。

会場からの質問は多岐にわたったが、Schmidt氏が「怖れの質問」と形容したように、モバイル業界は着実にモバイルに進出してきたGoogleに対し、歓迎というよりも怖れを感じているといってよさそうだ。