秘密主義の要塞ともいうべきスパイ映画の世界がそこにある。米Apple製品の製造工場に関する英Reutersの最新の現地レポートでは、そうした企業のスパイ戦争とでもいうべき世界を垣間見ることができる。

以前第4世代iPhoneのプロトタイプ紛失の"かど"で凄惨な尋問を受けて自殺した中国人従業員の話を紹介したが、香港にほど近い中国は広東省深セン市郊外のFoxconn工場では、非常に厳しいセキュリティ体制の下、未発表のApple製品の秘密を守りつつ、日夜新製品の開発と製造に明け暮れている。Reutersが17日(中国時間)に公開した現地レポート「For Apple suppliers, loose lips can sink contracts」は、その工場の1つを訪問……いや、通過したときに経験した出来事をつづったものだ。

Appleの徹底した秘密主義

台湾企業である、鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry: HHPI)は、Foxconn(富士康)ブランドで多くのメーカーらの依頼によるPCや周辺機器の開発製造を請け負っている。本社は台湾だが、実際の開発や製造の多くは中国内の工場で行われている。例えば、香港に隣接する広東省深セン市を抜けて、さらに郊外へ1時間程度の距離の場所にFoxconnの複数の拠点が点在する。広東省深セン市宝安区観瀾街道や同区竜華街道などの工場がそれだ。工場が林立する商業特別区という背景もあるが、中でもこれら工場は特別なルールを持つ特異な存在のようだ。

Reutersではまず、Appleの秘密主義に関して触れている。製品リークに関して厳格な同社は、漏洩元となった同社関係者の解雇、また情報を入手した個人やジャーナリストらへの訴訟も辞さないことで知られている。同様に、同社に部品や完成品を納入するサプライヤらにも秘密主義を厳格に運用するよう依頼しており、もし破った場合は膨大な賠償金などのペナルティを科す契約を結んでいるといわれる。そのためサプライヤらは情報流出に神経質になっている。

Reutersでは竜華街道工場を例に、ICカードによる入退場ゲートはもちろんのこと、金属探知機や身体検査も実施されており、一切情報の持ち出しは行えないよう予防線が張られていることを挙げている。セキュリティゲートで囲まれた同拠点は一種の要塞となっており、工場の敷地内には寮や食堂、銀行、郵便局、レクリエーション施設、パン屋までありとあらゆる設備を備え、従業員が外に出る必要がないよう配慮されている。配慮されているというよりむしろ、極力従業員を外に出さないことで情報リークを防いでいるといえるかもしれない。実際、ペナルティを覚悟してまで外出する従業員は少ないようだ。

またAppleでは、1つの部品の入手に複数のサプライヤを使い分けている。サプライヤ同士を競争させて低コストを実現する理由のほかに、特定サプライヤに依存しないことでリスクを分散させる意味があるようだ。また工場内のラインは互いに独立しており、同じサプライヤの従業員でも互いがどの部分を担当し、何の製品を製造しているのかさえわからないようになっているという。最終工程に近いわずか一握りの工員のみが完成品の姿を知っている状態のようだ。

ゆえに、製品に関するすべての情報を把握しているのはApple関係者だけといわれており、さらにApple内部でも部署ごとにセキュリティエリアで完全に区分けされているため、従業員同士が互いにどのプロジェクトに所属しているのかわからないほどだ。Reutersは元従業員の声として「秘密主義が徹底しており、妻にさえ仕事内容を話したことがない。だが"それが普通"という空気なので気にならない」といったコメントを紹介している。

他に興味深い話としては、複数の契約サプライヤらに対してわざと異なる製品を渡すことで、情報のリーク元を特定するテクニックを用いることもある。これなら流出元が明白だからだ。一種の"あぶり出し"だといえるだろう。