大型衛星の問題点

人工衛星は今や、巨大なシステムになっている。2006年に打ち上げられた宇宙航空研究開発機構(JAXA)の陸域観測技術衛星「だいち(ALOS)」の重量は約4トン。マイクロバスと同じくらいと考えると分かりやすい。

黎明期、その大きさは、今よりもずっと小さなものだった。日本初の人工衛星である「おおすみ」(1970年打ち上げ)は、全長わずかに1mで、重量はたったの24kgだった。それが、ロケットの能力向上に伴い、より高機能化、多機能化、複雑化の方向に進み、どんどん大きくなっていったのだ。

しかし近年は、大型化による"弊害"も指摘されている。まずプロジェクトの費用が膨大になり、極端にリスクを恐れるようになった。信頼性を重視するために、いわゆる"枯れた"技術が採用されるようになり、先端技術を試すことが難しくなっている。

また巨大プロジェクトでは、開発期間が非常に長くなる。前述の「だいち」では、概念設計が始まったのが1994年で、打ち上げまでに10年以上かかってしまっている。科学ミッションでは、"旬"を逃してしまう恐れもある。

結果として、プロジェクトの数自体が少なくなっている。また複雑になりすぎ、分業化が進んでしまい、全体を見渡せるエンジニアが育ちにくい環境になってしまった。

超小型衛星の考え方は、大型衛星とは全く逆になる。安いので、もし壊れても、また作り直すことができる。高価な宇宙用部品ではなく、安くて性能の良い民生品を積極的に利用する。早く開発できるので、いち早く成果も出せる。

衛星の企画から運用まで、全てのプロセスを比較的短期間で経験できるということで、大学などの教育現場では、早くから注目されてきた。日本では2003年に、東京大学と東京工業大学がそれぞれ一辺10cmのキューブサットを開発し、ロシアで打ち上げている。

このうちの東大チームを率いていたのが、中須賀教授だった。

超小型衛星の10年

中須賀教授はこの頃を振り返り、「まさに"炎上"でした」と述べる。

当時も宇宙分野で研究をしていたのだが、「それはそれで面白いんですが、実際に宇宙で使われることがほとんどないのが不満でした」と中須賀教授。あくまでも机上の実験であり、「悶々としていた」という。

ところが1998年に、米国スタンフォード大学のTwiggs教授が「カンサット」というものを提唱。350ml缶を使って模擬衛星を作ろうというプロジェクトで、そのときは「できるわけないと思った」そうだが、1999年9月にアマチュアロケットで打ち上げることが決まってしまった。

1999年4月から開発を開始。学生も「電子回路の設計なんて知らないし、はんだごても握ったことがない」状態だったが、「ほかの研究を全て捨てて没頭した」という。「本当にあのときは燃えました。東工大というライバルも参加していたのが大きかったですね。もし我々だけだったら、ここまで燃えたかどうかわからない」と笑う。

3機のカンサットを米国ネバダ州の砂漠に持ち込み、良好な成果を得ることができた東大チーム。「これは面白い。こんな感動はない」と、このときの成功が全てを決めた。熱気を引きずったまま、次の年からは実際に宇宙に打ち上げるキューブサットの計画が始まった。

そして開発したのが、前述の「XI-IV」(サイ・フォー)。これを皮切りに、2005年には 同型の「XI-V」(サイ・ファイブ)、2008年にはリモートセンシング衛星「PRISM(ひとみ)」が打ち上げられ、今も運用を続けている。PRISMは、重量10kg以下という小さな衛星ながら、伸展式の望遠鏡を持ち、30mという高分解能を狙ったユニークな衛星だ。続いて、現在は天文観測を行う「Nano-JASMINE」という衛星の開発も進めている。

大学で衛星を開発する意義については、「プロジェクトが小さいうちに失敗を経験しておくべきなんですよ」と中須賀教授。大型衛星のコストは数百億円で、失敗したら取り返しが付かない。それに比べ、超小型衛星はケタがいくつも小さく、ダメージは少ない。将来、学生が大型衛星の開発に関わるエンジニアになったとき、失敗から学んだ経験は必ず役に立つはずだ。

またマネジメント能力も身に付くという。「大学でも教えてはいますが、これは実際にやってみないと分からない。日本の会議は大体"発表会"的。決めようと思ったら、もう時間がなくなっている場合が多い。でも段々と、効率的に会議を進めるようになり、当日は議論に専念するようになる。学生は、知らない間にそれを習得しています。そうしないと、スケジュール通りにいかないからです」

「"本物"をやらせることに意味があるんです。機会を与えれば、学生達は必ず反応してくれる」という中須賀教授だが、今どきの学生には1つ苦言も。「学生主導で企画や計画が出てくるともっといい。UNISECの中でも、まだ教員がお膳立てしている感じがあるんですよ。例えばこの前のワークショップで、プレゼンの最後に学生が『UNITEC-1(後述)をもう1回やってくれ』と言っていたのが気に入らない。自分たちでやるから手伝ってくれ、と言って欲しい」

「宇宙というのは、じつは企画を立てる部分が一番大事なんですよ。衛星やロケットを作ることも技術的には重要なんですが、その前に、宇宙で何をするのか、ということを良く考えないと、実際に上がったものの、役に立たない衛星になってしまう。"仕掛け屋"のような人を育てることも、宇宙工学の中では重要なんです」