経営の考え方を理解していくことが大切


――御社の情報システム部門で、必要とされる人物像というのはありますか。

川畑氏: 前にも述べましたが、SAP R/3の導入で、情報システム部門としてのコンセプトは全く変わりました。したがって、そこで求められる人物像というのも当然変わってきます。

SAP R/3の導入以降、レガシーとSAP R/3というように、担当分野がはっきり分かれました。後者ではオープン化の波もきましたし、次々と変化していくわけです。アウトソーシング志向で進めていますから、これまでは当たり前としていたプログラミングなどの仕事もなくなりました。「システム企画」に特化しようという方針を出しましたから、求める人物像も同様の方向に変わってきました。

――プログラムを書くことと、「システム企画」とは大きく違うと思います。「システム企画」をするために、必要なスキルや必要な能力というのは、教育されたりしたのですか。

川畑氏: もちろん、教育は大切ですが、それよりも大切なのは、経験を積ませるということでしょうね。最初から企画ができるという人はいません。方向性をはっきりさせて、トライアンドエラーで、経営に企画を提案し、そこで叩かれながら、経営の考え方を理解していく。それはどこかのトレーニングに行かせて分かるということではないですね。

――経験は確かに重要です。御社の場合は、密にシステムが統合している代表的なお客様だと認識しているのですが、データのつながりまで考えたシステムを企画していくためには、一部だけ見ていく従来の縦割りのやり方では、本当に必要な企画を上げることはできません。それは経験だけで出てくるようになるのでしょうか。個別の研修はなさっていないのですか。

川畑氏: 弊社の環境で弊社に合った研修が存在するのであれば参加させますが無理でしょうね。答えは経験の中にしかないのです。時間はかかりますが。

――ところで、導入期のユーザー教育はどのようにされたのですか。

参天製薬では、オペレーションマニュアルやユーザー教育のメニューも情報システム部で作成したという

川畑氏: ユーザー教育も自前で日本総研さんと一緒にトレーニングメニューを考え、作りましたし、オペレーションマニュアルも自前で作りました。

経営からのメッセージは、「システムは道具、主役はそれを使う人たち」ということでユーザー部門には行きわたっています。インプリメンテーションの時も、ユーザー部門が一緒になって、混成チームであたりました。そのような意味では、最初から自覚ができて、それが一挙に広がった感じです。

導入後の業務運用やバージョンアップの時でも、困りません。なぜなら社内ユーザーのほとんどが専任化されていますから、皆さんR/3のベテランです。バージョンアップでメニューが変わっても、どう変わったか説明をすれば、それでOKです。

――アウトソーシングは当初から日本総研さんでされているわけですが、フレームワークは変わっていかないのでしょうか。

川畑氏: ハード運用はほかのシステムとの統合などがありましたのでデータセンターは日立製作所さんに変えましたが、問合せや、新しいアドオン帳票を作る、メニューを変えるというアプリケーションの運用については、ずっと日本総研さんでやっています。運用を当社が持つ意義があまりないと思っているのです。

――最近は内製化というキーワードが流行していて、アウトソースされている会社が今度は内製化を進めていくという逆流現象が起こっていますが、御社ではいかがでしょうか。

川畑氏: 弊社での逆流現象はないですね。弊社には、システム化のノウハウや、企画という部分しかないので、それを強化することしか考えていません。内製化に戻るつもりも全くありません。品質面や効率面で外部に任せた方が良いところは、任せるという考え方です。

後継者を育てて継続させていく仕組みを作る


――御社の「人材育成」に対する特色や考え方をお聞かせください。

川畑氏: ITスキルでいえば、パッケージの構造がわかっている、プログラミングができるというようなことでありません。ビジネス部門と会話ができ、それを理解でき、業務要件に落とせ、改革・改善ポイントを明確にする、そしてシステム要件の定義までできる。そのような「システム企画」としての実力を着けていくことが大切です。

しかも、それは企業資産として継続していかなければ意味がありません。私もいずれ定年を迎えます。また、次の人もいずれ退職します。「システム企画」というのは、人の能力に依存しますから、これをいかに継続させていくかは大きな課題です。

そのためには、人員構成、年代構成を、どのように考え、準備しておくかです。たとえば、私の次の年代をある程度間隔をあけて配置しておく、その人の中から後継者を決める。そして、その次はまたある程度間隔をあけて複数人配置するなど、常に部下を見て、コアの人材をどう育てていくかを考えています。そこで不足する部分があれば、そこを補強する。それを考えるのが、私の仕事だと思っています。

――私もコンサルティング部隊を編成した時には、ツーマンセルといって、二人一組で必ず人材を育てることを常にしていました。同じような感じで、コアの人材を育てているのですね。人材は育っていますか。

川畑氏: 当社の情報システムは、少数精鋭で業務にあたっています。他社さんのようにたくさんの人材がいるわけではないので、次につなげる人、その次につなげる人の素養をよく観察しておかないと難しいものがあります。日々、常に取り組んでいるというところでしょうか。

――御社は、私が知っているお客様のなかでも一番未来志向の会社です。

川畑氏: 人材の育成は大変といえば、大変ですが、絶対にやるべきことです。どこにでも通用するような人材に育ってほしいと思っていますし、また、成長したことを認識できたことにより、個人の楽しみが増し、幸せにつながり、会社としてもハッピーになる。そのような理想形を考え、追い求めています。

ただ、まだ完成形ではありません。続けていくことが大切です。まだ道半ば。常に将来像を描き、常に書き換えながら進めています。私自身もポジションが上がるにつれて、見えてくる世界が広がってきました。情報システムだけ見ていた時と、業務改革を行った時とでは、視点は上がっています。より経営に近くなってくると言えるかもしれません。人は変わっていかないと駄目です。そのためには世間の動向も常に勉強し続ける必要がある。ユーザー会の常任理事などの活動を行っているのもそのためだと認識しています。先頭に立って、新しい情報を取り入れ、弊社にとって活用できる情報へ変換し、「システム企画」する。そういう意味で私は、自身で動き、努力して、背中を見せて、ついてこいというタイプだと思っています。

仕事を楽しむための施策を次々と考える


――長くお仕事をされてきて、自分の芯として、これだけは大切にしてきたというものはありますか。

川畑氏: それは年齢とともに変わってきていますね。入社前に私が描いていたのは、係長になることでした。課長以上は経営側で、係長が従業員側のトップで、みんなの意見を集約し、会社側に提案していけたらというのが夢でした。会社組織もよく知らないでなぜこのように考えていたかまでは覚えていませんが。

このような考え方は入社後も、ずっと続いていました。とにかくピラミッドをいかに形成するかを考え、仕事をしてきました。歳とともにピラミッドが大きくなっていって、自分の直接の部下、またその次の階層の者が順々にピラミッドを形成すれば、組織として裾野がしっかりして、本当に頑丈な造りになると思ったのです。

今では、実際、ピラミッドができ自分の部下がたくさんいる。そのような状態になってからは、どうしたらこの人たちが幸せになるのかと考えるようになっていました。ポジションが上になるほど、視野が広がり、それにつれて考え方も変わってきます。自分の考え方が変わるにつれ、部下の人たちも一緒になって変わって行けたらいいなあと思うようになったのです。

私の座右の銘は「楽」です。これは仕事を楽しめるようになりたい、それにともなって人生も楽しもうという意味です。私の組織にはさまざまな経歴の人たちが集まっています。その人たちに「仕事を楽しもうよ」とよく言っています。そして仕事を楽しめるような仕組みを施策として次々と考え出しては実施しています。勘違いされては困りますので言っておきますが、「楽しい仕事」ではなく「仕事を楽しむ」です。あくまでも仕事を進める上での仕組みです。それを今は少しずつ広めている段階です。将来像を描きながら人を育てる。「継続は力なり」です。

※ 本稿は、SAPジャパン発行の『SAP CERTIFICATION VOL.7』に掲載された記事『EXECUTIVE INTERVIEW』を一部加筆/編集のうえ転載したものです。