長期低落傾向にある日本のスパコン
日本国内のシステムとしては、31位のJAMSTECのシステムの122.4TFLOPSが最高で、36位にJAXAの110.6TFLOPS、41位に101.7TFLOPSの東京大学のT2Kシステムが登場するという悲しい状況である。
TOP500に入ったシステムとしては米国が55%と過半数を占め、英国、ドイツ、フランスと続くのは変わらないが、今回のTOP500では中国の21システムに比べて、日本は19システムであり、FLOPS性能値の合計でも、中国が全体の4.2%を占めたのに対して日本は3.2%である。また、次の図のTOP500にランクインしたシステム数の年次推移をみると、日本のスパコン投資の不足による長期低落傾向は明白である。
さらに、中国と日本の上位3システムを比較すると、中国は5位、19位、43位であるのに対して、日本は31位、36位、45位であり、一面的なLINPACKによるランキングではあるが、スパコンでは質、量ともに中国に抜かれたと言える。
TOP500の表彰においても、中国の天河一号はCPU-GPUの大規模複合システムを構築し、このヘテロシステムでLINPACKを動作させたということは高い技術力を示しており、驚異的という称賛の声が相次いだ。一方、日本は逆転を目指した次世代スパコンの開発凍結が報じられ、今後、中国との差が開くのではないかとのコメントが述べられた。
なお、天河一号は国防科学技術大学校の開発となっており、大学でこのような大規模なシステムが作れるのかと思い、表彰を受けたWong氏にインタビューを申し込んだのであるが、国防科学技術大学校の人はSC09に出席しておらず、同氏は米国在住であるので授賞式への出席を依頼されたが、このシステムの詳細については知らないということで空振りに終わってしまった。
HPC Challenge(HPCC)の表彰も開催
また、SC09では、HPC Challenge(HPCC)の表彰が行われた。TOP500が巨大連立一次方程式を解くLINPACK性能だけの評価であるのに対して、より多面的にスパコンの性能比較を行うために開発されたのがHPC Challengeである。HPCCには多くの測定項目があるが、その中で、LINPACKとほぼ同様の測定を行うG-HPL、メモリバンド幅を図るG-Stream、ノード間インタコネクトの性能が鍵となるG-RandomAccess、そして多面的な性能が影響するG-FFTの4項目についてそれぞれ3位までのシステムの表彰が行われた。
G-HPLのトップはTOP500の首位のオークリッジ国立研究所のJaguarシステムで、スコアは1.533PFLOPS、2位は763TFLOPSでTOP500 3位のKrakenが獲得した。そして3位はローレンスリバモア国立研究所のBG/Lシステムの368TFLOPSである。
G-Streamでは、1位はJaguar、2位はリバモアのBG/Lが占めたが、JAMSTECのNEC製のSX-9システムが3位に入り、関係者が表彰を受けた。また、JAMSTECのシステムはG-FFTでもJaguarとKrakenシステムに次いで3位に入った。これまでNECは、HPCCの多くの項目で世界一を達成したという発表を行ったが、これらは表彰対象の主要4項目以外の項目でのトップ性能であり、今回の2つの表彰対象項目での入賞は画期的である。
そして、HPCCでは解法のエレガントさやプログラム開発効率の観点での言語や開発に対しての表彰があり、エレガントさは10人の審査員の合議で判定される。今回のエントリはCrayのChapel言語でのエントリ、IBMのUPCとX10言語でのエントリと筑波大学のXcalableMP言語によるエントリがあり、解法のエレガントさの観点では、G-Streamを65行で記述し、最長のG-HPLでも176行で超並列処理を記述したCrayのエントリが表彰された。また、筑波大のエントリはエレガントさの点で、Honorable Mentionを獲得した。一方、簡易な記述で高性能達成の観点からは、IBMのエントリが表彰された。