スマートグリッドは何をもたらすのか

アクセンチュアは8月27日、企業のマネジメント層に向け「スマートグリッドがもたらす新しい世界 ~ 北米、欧州の最新事例から検証するその技術と市場 ~ 」と題したセミナーを開催した。その前日である26日には報道陣向けにスマートグリッドの世界の動向と日本における可能性についての説明会が開催されたので、その模様をお伝えする。

アクセンチュアの経営コンサルティング統括本部長 兼 戦略グループ統括 マネージング・パートナーである西村裕二氏

冒頭、アクセンチュアの経営コンサルティング統括本部長 兼 戦略グループ統括 マネージング・パートナーである西村裕二氏が、低炭素社会はビジネスにどのようなインパクトを与えるかについて説明を行った。CO2の排出量は先進国、新興国ともに伸びており2010年には先進国の排出量と新興国の排出量がほぼ同じとなり、その後新興国の排出量が拡大していくという予測がある。「今のままの勢いでCO2が増え続けることを考えると地球に何が起きるかということを想像してみると、劇的なCO2の削減が人類に求められていることとなる」(西村氏)であり、それは日本のメーカーにとっては「チャンスともなるし脅威ともなる。今が丁度、カオスの縁にいる状態」(同)と状況を説明する。

先進国、新興国ともにこのまま行けばCO2は増え続けていくこととなる

かつて、オイルショックが起きた時、低炭素社会に向けた動きはあったものの、代替エネルギーの供給インフラが未整備であったため、その流れは一時的なもので終わってしまった。しかし、近年の動きは違うと西村氏は語る。「現在、代替エネルギーの低コスト化が進み、プラグインハイブリッドカーといったアプリケーションも登場してきた。そして"スマートグリッド"というインフラの整備が生み出され、こうしたものが絡み合い、ITなどを巻き込む形で加速度的に変化してきており、大きな社会の変化が生み出されようとしている」(同)という。

現在の低炭素化の動きはさまざまな要素が絡み合っている

スマートグリッドは一般的にはITの活用による電力の安定的な伝送の実現というイメージがあるが、それだけではなく太陽光発電や風力発電など、自宅で発電した電力を電力を売る(売電)ことができるような現在、そうした分散電源を意識し、発電所から一方的な送電ではなく、電力の送受を家庭と発電所の双方向で行える情報通信と考えるべきだと西村氏は主張する。

スマートグリッドはユーザーと電力会社を双方向通信でつなぐ

この"細かな情報のやり取りが可能な"スマートグリッドというものを意識すると、それは単なる電力の安定送電だけではとどまらず、都市全域にその影響を及ぼす存在となると指摘する。そうした観点から考えた場合、スマートグリッドという概念は単一的なものではなく、その都市ごとに適したモデルを考える必要があるという。「日本はそういった意味では既存の電力網が高品質で安定しており全世界で見てもベストなインフラとなっている。そのため、今更スマートグリッドという言葉を出す必要がなく、ニッチな存在になる可能性がある」と指摘、「都市ごとの特性を意識し、その多様性に対応しなければ日本版スマートグリッドと言えば聞こえが良いが、画一的になり、この分野でも"ガラパゴス化"する危険性がある」(同)という。

さまざまな形態が存在するスマートグリッド

とはいえ、スマートグリッドという概念に共通性が無いわけではない。米National Institute of Standards and Technology(NIST:米国立標準技術研究所)は、United States Department of Energy(DOE:米国エネルギー省)の要請に応じ、2009年9月末までに消費電力の効率化や広範囲な状況モニタリング、電動輸送、AMI(スマートメータ)、配電・グリッド制御などの機能に対し標準規格を策定する予定となっているほか、IEEEでの部会の設立、欧州でのテクノロジープラットフォーム(European Technology Platform Smart Grids)の設立など、各地で標準化に向けた動きが起こっている。

こうした取り組みによりスマートグリッドが整備されることで、何が社会にもたらされるかというと、「まずはエネルギー産業の再編。石油業界が太陽電池などにも参入し総合エネルギー産業化が起こる可能性があるほか、電気とガスの融合やサハラ砂漠に設置した太陽光パネルで発電した電力を欧州に送電するエネルギー供給計画『DESERTE』といった送電のグローバル化などの動きがある」(同)とするほか、「建設業界が、住宅やビル、家電などを"独立"したものという考えから、省エネを軸とした"双方向システム"の構築に向けた産業へと変化する可能性があるほか、IT業界の社会インフラへの進出や農業へのバイオテクノロジーの活用促進、環境関連金融ビジネスの発展」(同)などが考えられるという。

そして、一番重要なことは、「自動車産業の再編が生じる可能性が高い。Tata MotorsのNanoはモジュールを組み合わせて完成する水平分業モデル。そして、電子部品の塊である電気自動車(EV)の普及で、自動車製造は垂直統合型(IDM)から水平分業型へと一気に加速する可能性が高い」(同)という点にある。この流れは、かつて日本の半導体産業がすでに通ってきた道であり、現在の日本の半導体産業の様相を鑑みれば、自動車も上流の機械産業まで含めて同様の流れになる可能性があると西村氏は指摘する。しかし、その一方で、「多様化したスマートグリッドなど、新しい環境に対応できれば、逆に今までの知見がある分、大きなアドバンテージとなる」(同)としており、チャンスにするか、ピンチにするかはメーカーの考え方1つとする。

スマートグリッドにより社会変化が生じ、その結果、産業界にも改変の波を引き起こす