--世界的に経済環境が停滞していることをどうみるか。
今年は、グローバルの製造業、特に自動車や電気部品などは厳しい。だが、金融、通信、官公庁を含めた公益関連部門は、必ずしも悪くはない。日本の企業もすべてが悪くなっているとは思わない。経済環境があまり良くないと、企業はコストについて、より厳格にみるようになる。当社の製品はTCO(Total Cost of Ownership:システムの導入、維持/管理にかかる費用の総額)が他社よりはるかに低い。TCOの観点で社内システムを見直し、TCOが低くてすむなら、変えてしまおうという動きが出くるかもしれない。好況時よりは、乗り換えの機会は大きくなる。
--日本法人の現況はどうか。
日本法人の2008年売上高は対前年比で50%ほど伸長した。さらに、2009年1月 - 3月期の決算は、日本法人としては最高だった。経済環境悪化のインパクトをそれほど受けているとは思わない。最近の契約例としては、通信事業者、グローバル製造業、半官半民の企業体などがある。また、情報提供サービスの企業では、事業の中核である、情報を提供するための媒体のフォーマットをBIに置き換えた。自社製品を外部に配信するときのプラットフォームとしてMicroStrategyを選んでもらったわけで、たいへん勇気づけられる出来事だった。
単に独立性だけが重要なのではない。我々にとっての強みは、機動的に戦略を変えることで、小さな規模であっても、大きく狙えるポジションにいるということだ。大手ベンダは買収により、BIを入手しているが、これら各社の事業規模から見れば、BIの占める比率は非常に小さい。大手の場合、BIエンドユーザーの生の声が本当に製品開発に生かされるのかどうか疑問が残る。
市場の情勢を見ると、これまでのBI専業ベンダが大手に次々買収され、これら各社に囲い込まれているため、最近では、数少ない独立系である我々に、心情的支援の機運もあるのを感じている。それでなくとも、たとえば1つの企業が、販売管理、在庫管理など、すべて特定のベンダの製品だけしか使わないということはおそらくほとんどないのではないか。
--この3月に、主力製品の最新版となる「MicroStrategy 9」が発表されたが。
MicroStrategy 9、3年ぶりの新版になるが、8,000項目の改良が図られている。改良といっても、ベンダの都合による改変ではなく、エンドユーザーの声を吸い上げ、ユーザーが真に必要としていることを盛り込んでいる。他社を買収することでBIを手に入れているベンダは、既存の自社製品との整合性を確立するために、製品に手を入れる必要がある。だがそれはベンダ側の都合だ。大手のベンダで、研究/開発費が100あったとしても、そのような部分にかかる費用が多くなると、本来の研究/開発にかける費用が10しか残らないようなことも起こりうる。大手のベンダは、研究/開発費全体の額は大きくなるが、コアの領域に対する開発費は、我々の方がかえって多くなるということもある。
--今後、SaaS型のビジネスには、どう対処していくのか。
当社のBIは、SaaSモデルに向いている。それは、100%、Webテクノロジを採用しているからだ。他社の場合、Webを使用してはいても、クライアント側に特定のモジュールが必要であったりする例があるなど、実際はクライアント/サーバー型であることが少なくない。我々の製品は、まったくのシンクライアントですむし、どんなOSでもかわまわない。また、SaaSモデルでは、セキュリティ面が特に重要になるわけだが、当社の製品は暗号化にも注力しており、鍵のビット長が長い。この点でも優位にある。ただし、SaaSの領域は重視しているが、Salesforce.comのように、自社が主体となってSaaS型事業を展開していくということは考えていない。一方、SaaS型のビジネスを志向する、いわゆるASP(Application Service Provider)事業者に対しては、積極支援していきたい。
インタビューを終えて - 深い知識と豊富な経験にあふれるBI業界屈指のリーダー
いま、マイクロストラテジー・ジャパンを率いる印藤公洋プレジデントは、かつて、日本アイ・ビー・エムに29年間在籍、ERP/SCMシステムなどを手がけた後、アジア太平洋/日本地域でのeビジネス・ソリューションズを担当していた。2003年7月には、コンサルティング会社、キャップジェミニの日本法人(現:サガティーコンサルティング株式会社)の社長に就任、2006年2月からは、BIの有力ベンダ、BusinessObjectsの日本法人である日本ビジネスオブジェクツの社長を務めていた。
周知のように、BusinessObjectsはSAPに統合された。企業の最高首脳が、自社製品に絶対の自信を持っていると述べるのはごく当たり前だが、印藤氏は躊躇することなく「自社の弱点」も指摘する。BI、企業向けアプリケーションに留まらず、国内外のIT産業の浮沈、競合同士の攻防をつぶさに見てきた印藤氏。自社の長所、欠点、いずれを語る言葉にも、重みが感じられたインタビューだった。