携帯電話を構成する半導体の主なものとしては、ベースバンドプロセッサ、アプリケーションプロセッサ、LCDドライバ、メモリ、電源などのアナログ半導体などが挙げられるが、こうした機能はもはや携帯電話では当たり前の機能となっている。そのため差別化要因として、アプリケーションプロセッサ上でさまざまなアプリを処理する必要が生じてくる。

シーエスアールの社長である横山崇幸氏(同社入社以前はインフィニオン テクノロジーズ ジャパンにおいてコミュニケーション事業本部長として、コミュニケーション関連製品の営業、マーケティング、アプリケーションエンジニアリングの統括を行っていた)

英CSRの日本法人であるシーエスアールの社長である横山崇幸氏は、こうして搭載されるアプリについて「"GPS"や"音楽"、"カメラ"などを用いたものであり、活用するためにはネットワークへの接続性(Connectivity)が重要なポイントになる」と語る。例えば、音楽再生で言えば、自動車の運転中はFM波を用いてカーステレオに携帯音楽プレーヤから音楽を転送することが求められるし、GPSを用いれば、「Google Latitude」のような友人と現在位置情報を共有するサービスや、カメラの写真データなどと連動させることで位置情報を付与する「ジオタギング」といったことが可能になるが、これらを活用するためにはやはりネットワークにつながっていなければならない。つまり、Connectivityは携帯機器の差別化を実現する鍵となるというのがCSRの考えるところであり、Connectivity全般を扱うメーカーを目指すというコンセプトが同社の標榜する「Connectivity Center」という戦略となる。

「Connectivity Center」により、携帯機器はあらゆる無線接続が可能になるという

CSRを知らない人に簡単に同社の説明をしておくと、同社は1998年に技術コンサルタント会社の英Cambridge Consultantsから分離したファブレスメーカーで、元々はBluetoothやIEEE 802.11といった無線ネットワーク系の半導体の設計開発を行っていた。「以前はBluetoothチップを中心にビジネスを展開していたが、今は"Connectivity Center"のコンセプトの下、必要とされるすべてのConnectivityを1ストップショッピングで提供することで、カスタマのワイヤレスで接続したいという要求のほとんどに応えられるようになった」と横山氏は現状を語る。

同社がBluetooth中心のビジネスから転換を図ったのには、携帯機器に使われるワイヤレス規格の数が年々増加してきていることが挙げられる。「現在、Connectivity Centerとして対応している通信規格は"Bluetooth"のほか、"Wi-Fi""GPS""FM""NFC""UWB""Bluetooth Low Energy"などで、これがカスタマの差別化要因となる」(同)という。同Centerは、これらの各技術を1つのパッケージにまとめていることに特長がある。このパッケージは、ハードウェア的にまとめているだけでなく、各規格に対するソフトウェアの対応をフレームワークとして一元化し、相互運用性と開発効率の向上が図れるように構成されている。

また、提供するデバイスについても、基本はすべてをチップ内に内蔵することを目指している。ただし、アタッチレートの面を加味して、需要の高い規格を組み合わせて提供することを優先しているという。2008年6月に発表した同社第7世代品「BlueCore 7」では、Bluetooth v2.1+EDRとFM送受信機能などを1チップ化、2009年のラインナップとしてはBluetoothとFMの送受信を1チップ化した「BC7820」ならびに7820にGPS機能を追加した「BC7830」を用意。このほか、IEEE 802.11abgn対応チップを単体デバイス「UniFi UF6026」として提供するほか、BlueCoreをオーディオDSPとして活用することで、Bluetoothにハードウェア音楽再生機能を追加した「MusiCore MC601」も提供する。さらに2009年3月29日にはBluetooth、FM、GPSのコンボチップとIEEE 802.11abgnチップのコンボソリューション「CSR 9000」を発表している。

CSRの製品展開の考え方(市場での統合要求が高い無線規格から統合を進めていく)

CSRの2009年のポートフォリオ(この内「Synergy」は各種の製品を扱うためのソフトウェアとなっている)

なお、CSR 9000で実現しているソリューション(Bluetooth+FM+GPS+Wi-Fi)については、現在のアタッチレートが10%程度のほか、Wi-Fiの仕様が固まりきっていないことから、技術的にもう一段進歩した後に1チップ化するとのこと。ただし、「CSRは設計初期段階から1チップで活用することを念頭においてデバイスの設計を行っているため、チップを小型化してもノイズなどの問題についても他社と比べて干渉を抑えることができる」(同)であり、BlueCore 7シリーズなどすでに1チップ化したデバイスについてもかなり良好な接続が可能であることを強調する。

CSR9000のリファレンスモジュール(左)とベンダによるモジュール(右)