太陽観測で分かってきたこと

ISAS 宇宙科学共通基礎研究系・SOLAR-Bプロジェクトチーム 准教授の清水敏文氏

実際の講演は、3部構成になっており、1部ではISAS 宇宙科学共通基礎研究系・SOLAR-Bプロジェクトチーム 准教授の清水敏文氏が「激しく活動する『太陽』~その素顔にせまる『ひので』~」と題して、太陽の謎と"ひので"の活用についての講演を行った。

"ひので"は2006年9月に打ち上げられた人工衛星で、可視光磁場望遠鏡 (SOT) 、極紫外線撮像分光装置 (EIS)、X線望遠鏡 (XRT) の3つの望遠鏡が搭載されている。SOTは可視光波長で太陽を観測し、その偏光を測定することで太陽表面の局所的な磁場ベクトルを調べるための望遠鏡。口径50cmのレンズを搭載し、波長によるが空間分解能0.2秒角で太陽表面を観察することが可能だ。この性能の説明として清水氏は「高度600kmで地上を見た際に、50cmのものを分解する能力を持っている」という例を提示、「米国ではHubble Space Telescope(HST)の太陽版との評価を受けている」(同)とその性能を語る。

"ひので"に搭載されている望遠鏡各種

また、太陽の一番外側の最も薄い大気層である「コロナ」に関しては軟X線を用いるXRTが観察を担当している。コロナは太陽表面の上空2,000~2,500km付近から太陽の半径の数倍以上外側へと広がっている層であり、その温度は100万℃を超え、熱いところでは200万~300万℃程度に達するという。ちなみに太陽の温度は、核融合反応が起きている中心部が1,500~1,600万℃、太陽表面(光球)部で6,000℃、コロナと光球の表面に挟まれた大気の下層部である"彩層"は1万℃程度となっており、表面よりもコロナの方が圧倒的に熱いことが分かっている。

軟X線で見たコロナ(左)と太陽の各部分の温度(右)

通常、熱は対流により温度の高いほうから低いほうに移動する。しかし、6,000℃の表面に対し、はるか上空のコロナの方が熱源よりも遠いにもかかわらず高温となっている。これは「コロナ加熱問題」と呼ばれているが、熱流以外に加熱要因があると考えられており、現在、多数の学説が発表されているという。その中でも磁力線を伝播する波(電磁流体的波)がコロナで放散する「波動加熱説」、ならびにコロナ中にできた多数の磁気的不連続点で極めて小規模なフレアが多数発生している「マイクロフレア加熱説」の2つが有力な説とされているという。ただし、どちらも観測で得られた事実を説明することができていないのが現実である。

"ひので"が見た太陽の本当の姿

"ひので"はこうした現象の解明をミッションの1つとしており、すでに「表面で磁力線に沿った波動を発見し、その"はけ状"の構造が揺らいでいるのが見られるため、"スピキュールの振動"と呼ばれるようになった」(同)とするほか、「プロミネンスの筋構造(スレッド)が波状に40km/sで動いているのを観測し、コロナ磁場中のアルヴェン波の発見に結びつけた」(同)という観測結果や、「"静穏"領域のコロナにおいて、従来のフレアのエネルギー規模(1029~1032erg)に比べて小さなエネルギー規模のマイクロフレア(1025~1029erg)よりもさらに小さなエネルギー規模(1020~1023erg)と見積もられる"ナノフレア"が確認されたほか、彩層においてナノフレア級の"爆発ジェット"が頻発していることも確認した」(同)とする。

磁力線に沿った波動を"ひので"が観測

分かりづらいと思うが、プロミネンスが水平方向と垂直方向(=波状)に揺れている様子

"静穏"領域のコロナでのナノフレアの発見(左)と彩層での"爆発ジェット"の発見(右)

「どの説が正しいかという答えはまだ出ていないが、2つの側面から知識を得ることができており、"ひので"が十分な役割を果たしてくれている」(同)と"ひので"の成果を強調する。

また、もう1つの成果として、新しい種類の磁場を太陽表面で発見したことを挙げた。これまで、太陽の縁はスピキュールのような立った状態の磁場がほとんどと考えられていた。"ひので"の観測により、表面に対して(粒状斑より小さい)"水平な磁場"が大量に点在していることが判明、その総量は立て磁場よりも5倍くらい多いと予測され、この解析を進めることがコロナ加熱の解明につながる可能性があるとした。

水平な磁場の発見(左)とそのメカニズムの創造図(右)

黒点の周期変化に注目

こうした太陽の磁場の影響を受けるのが「黒点」だが、黒点は約11年で増減する周期を繰り返している。これは400年前のガリレオ・ガリレイが太陽の観測を開始して以来、ほぼ変わらず続いてきている現象だが、「なぜ11年周期なのかは最大の謎」(同)とするように、どうしてそうなるのかは未だに不明。ただ、「最近、無黒点の期間が長く続き、次の活動サイクルの開始がやや遅れている状況」(同)であり、2009年4月11日の黒点数も0となっていた。「予測では、1年前あたりから黒点が増えてくるはずだったが、その予想が崩れた。理由は不明であり、研究者もこの動きに注目しているので、一般の皆様も注目してもらいたい」(同)とする。

黒点の400年間の推移(左)と、太陽のどの位置を動いたかの図(右)

2006年4月11日の太陽の黒点(左)と2009年4月11日の太陽の黒点(右)(2009年の方には黒点が見られない。出所:情報通信研究機構 宇宙天気情報センター)

折りしも2009年7月22日は日本で皆既日食を観察できる日。「コロナを見ることができるチャンス。この次に日本で見ることができるのは2035年なので、興味のある人はぜひ見てもらいたい」(同)とのことなので、皆既日食を見たい人はチェックしておくと良いだろう。

7月22日の皆既日食/部分日食の時間とポイント