続いて登壇した角谷氏によって行われた「陰の巻」の講演では、書籍の根底に流れる考え方である"ソフトウェア開発の中心は人"をいくつかの視点からあらためて見直す話となった。

角谷氏が要点として提示した内容は以下の4つである。

・"プロセス"は過程
・"アジャイル"は度合い
・"フィードバック"は学び
・人は学ぶ存在だということを信じられますか?

 "プロセス"は過程

永和システムマネジメント 角谷信太郎氏

まず角谷氏は、本のタイトルを構成する3つの言葉、「アジャイルな」「見積り」「計画づくり」の意味について言及した。

「アジャイルな見積りと計画づくり」の原著タイトルは「Agile Estimating and Planning」であるが、見積り(Estimating)も計画づくり(Planning)も「見積書」や「計画書」という成果物ではなく、人がそれを「行う」こと、つまりそのプロセスが大事であるという。

「アジャイルな」の意味については角谷氏は、「辞書をひくとAgileの意味は、"敏捷な、すばやい、はしこい"とありますが、これが一般的にアジャイルな開発の文脈で使われる意味です。2番目は"活発な、いきいきした"という意味。ここでは形容詞であることが重要です」と説明した。

この定義を元に、角谷氏は"アジャイルプロセス"は、ある決まったプロセスの形を指すものではなく、"どのくらいアジャイルか"という考え方をすべきだと提案している。

「アジャイルというのは、すでに存在しているソフトウェア開発のプロセスのアジャイルさがどのくらいかという度合いを形容するものです。気をつけないといけないのは、"アジャイルプロセス"というものはないのです。みなさんが日々行っているソフトウェア開発のプロセスが、どれだけアジャイルかという話をしているのであって、今やっているプロセスを全部捨ててアジャイルプロセスにするということではないのです」(角谷氏)

こういった意見の背景にあるのは、"すべて人が中心"という考え方だ。
「なぜならやるのはみなさんだし、みなさんの会社だし、みなさんのプロジェクトですよね。ここを絶対に間違えてはいけない」(角谷氏)

"フィードバック"は学び

ではプロセスがアジャイルであるというのはどのような状態なのだろうか? 角谷氏は、「開発がアジャイルであるということは、協調性を重んじる環境で、フィードバックに基づいた調整を行い続ける状態にあるということです」と説明する。

「フィードバックというのは、するものであり、されるものです。つまり人が行う行動であり、そこに"ある"ものではない。本に書いてない言葉でいうと、フィードバックは学びです」(角谷氏)

フィードバックが学びだとすると、何を学べばフィードバックしたといえるのだろうか。本書中では、ソフトウェア開発を通じて、2つの知識を獲得すべきとされている。1つ目は、プロダクトに関する知識、つまり「何をつくるのか?」に答える知識を得ること。2つ目は、プロジェクトに関する知識、つまり「どうやってつくるのか?」に答える知識を得ることだ。

また、角谷氏は、フィードバックや信頼できる計画の意義については、次のように述べた。

「目的やフィードバックのない無計画なやり方は、一貫性のない結果を招きがちです。安定したフィードバックを続けていくためには計画が必要で、計画に従って何かをやっていくときに、信頼できないシステムに基づいていたらそれは誰も守らない。そこに関わったことで自分が何も得をしないと感じてしまいます」

"信頼できる"計画とは、いつまでにどういうものができるかを見積もれる計画のことであり、信頼できる見積りを出すためには、2つの知識、プロダクトに関する知識とプロジェクトに関する知識を獲得できるようなフィードバックが欠かせないのだという。

「関将俊氏によると"見積もりのコツは、見積り続けること"。これがアジャイルなプロセスの中心にあるものです」(角谷氏)