計測器メーカーのAgilent Technologiesの日本法人であるアジレント・テクノロジーは3月28日、科学技術者の認知や振興・促進を目的としたイベント「National Engineers Week」の一環として本社・八王子事業所にて女子中高生を対象とした「ひらめき工房アジレント 未来の女性科学者/エンジニアのための科学実験教室・交流会」を開催した。

東京都八王子市にあるアジレント・テクノロジー本社

同社では、女子生徒向け科学実験教室のパイオニア・プログラムとして同実験教室を2005年より開催してきた。5回目の開催となった今回は、合計4校の学校から約30名の女子中高生が参加、初めての参加となる生徒達の組と、2回目以上の参加となる生徒達の組に分かれ、実験を行った。

ゲルマニウムラジオを製作

初参加となった生徒達の組が行ったのは電池なしで放送を聞く事ができるゲルマニウムラジオの製作。製作に入る前に、同社の社員である藤木千香氏から、ラジオがどうやってできているのか、直流と交流の違い、コイルやコンデンサなどの各素子の効果といったラジオの基礎部分の説明が行われた。

"時間的領域"と"周波数領域"の違いを説明するアジレント・テクノロジーの藤木千香氏

この基礎部分を踏まえてゲルマニウムラジオの製作を開始。用意された穴の空いた弁当箱にエナメル線をコイル状に巻きつけることから始まり、巻きつけ終えたらAgilentの提供するLCRメータにてコイルや弁当箱に付けられているバリアブルコンデンサ(バリコン)の容量をチェック。中にはコイルを巻く段階で絡まってしまいやり直しという失敗もあったが、その後は比較的順調に、クリスタル・イヤホン、アンテナ線、グランド線を弁当箱のフタに取り付け、それぞれの部品の接続、ならびにゲルマニウム・ダイオードの接続を行った。

4人分のゲルマニウムラジオを製作するのに使用したもの(左)。コイルは紙コップを台として弁当箱に巻きつけていった(右)

左はLCRメータで計測しているところ(装置のロゴが同社の前身であるHewlett Packardのは御愛嬌)、右は弁当箱のフタにアンテナ線などを接続しているところ

引率してきた教師陣も一緒にラジオ作りに挑んでいた

ちなみに文章で書くとアッという間のことに感じるが、実際の作業は、およそ2時間ほどかけてじっくりと行われている。この後、完成したラジオは、擬似放送局(信号源)から出ているアンテナ線とアースに接続。ダイアルを調整してラジオ放送が聞こえるかどうかの確認が行われた。

信号源からの確認ができた後は実際に外に出てのAM放送の受信実験。はじめは「聞こえない」という声があちこちで聞かれたが、アンテナ線を高く持ち上げたり、方向を変えたりすることで、徐々に「聞こえた!!」という声へと変化。横田基地の米軍施設から発信されるAFN(American Forces Network:米軍放送)を受信すると、「英語が聞こえる」といった驚きの声も挙がった。

ラジオの電波を受信しようと試行錯誤

また、金属がアンテナの代わりになるということに気がついた生徒も居り、門の柵や旗ポールにアンテナ線をつけて、感度を増す、といった様子も見受けられた。

AMラジオを製作

一方、2回目以上の参加となる生徒達の組が行ったのは、市販のキットを用いたAMラジオの製作。市販キットのため、はんだごてを用いた作業となった。

イーケイジャパンより発売されている「らじおくん(TK-728)」を使用してAMラジオを作製する

一人に1つずつはんだごてが与えられる

こちらは、講師の説明を受けながら、はんだを用いて同調回路、電源部、オーディオアンプ部用のポリバリコンやコンデンサ、抵抗、アンテナ、ボリュームの取り付け、ならびに復調(検波)回路用のアンプICのはんだ付けを順を追って実施、最後にスピーカーと電池ボックスの取り付けを行い、電池を入れて実際に聞けるかどうかを試した。

はんだ付けをして、各種部品を次々と基板に取り付けていく

室内でのAM波の受信が大半だったが、それでもNHKラジオ第2放送のお昼のラジオ体操やAFNの放送がクリアに入ってきて、こちらもゲルマニウムラジオの生徒達同様びっくりの様子。同社の広報担当者も「コンクリートの建物の中でこれだけクリアに聞こえるとは予想していなかった」とコメントしていた。

AMラジオが完成した状態(左が表面、右が裏面)

ただし、はんだとはんだごてを使用した作業のため、火傷の危険などがあったことは確かで、実際に作業を終えた生徒に話を聞くと、「髪の毛を焦がしました」というコメントも。また、別の生徒からも「楽しかったことは楽しかったが、はんだはもう使いたくない」という同社の開催目的である、"科学に関する疑問、エンジニアとして働く不安などを解消し、理解と期待を深めることを目指す"という理念とはうらはらな理系(電子工作)に対するネガティブな反応が返ってきてしまったのが、いささか残念ではあった。

しかし、ラジオ製作に関する説明や各テーブルを見るヘルプ要員のほか、実験前の基礎説明に用いられる"時間的領域"と"周波数領域"の違いを見せる小道具などについても同社の女性スタッフが考案するなど、基本的には女性スタッフがあらゆる面で関与しており、こうした取り組みを通して理系女性の姿を見せたこと、ならびに両組ともに実験を終えた後に開催された交流会において、ラジオに対する興味を覚えた生徒がスタッフと意見を取り交わすといった姿も見受けられていたこともあり、理科に関して一定の興味を引き出すことに成功したことが窺えた。

交流会後もラジオについて、スタッフに質問を投げかける姿も見受けられた