――購入の直接的な動機となるプロダクトデザインに比べると、画面デザインはともすれば軽視されがちな印象を受ける。独自の画面デザインを施すためには、それ相応の人材と労力を要すると思うが?

カシオのケータイデザインの陣頭指揮を執る井戸氏

井戸氏 アニメーションを使った画面デザインは、まずストーリーを考えて、それをケータイの機能に結びつけてデザインしているので、従来の何倍も手間はかかります。例えば、着信時の表示ですが、電話のハンドセットが点滅しながら「CALLING」などと表示する汎用的なデザインが1だとしたら、ペンギンのアニメーションには10倍以上の手間がかかっているんじゃないでしょうか。

辻村氏 GUIを担当するチームの中でも、それぞれ専門が分かれていて、ペンギンのデザインについてもそれに適したデザイナーでチームを組んでいます。ただし、ペンギンにどういった動きをさせるかといったネタ出しの段階では、プロダクトデザインのチームにもアイデアを募りました。毎回何百種類もの提案が出ますよ。

――「ハート・クラフト」というコンセプトを、マーケティング的に打ち出したのは2006年秋に発売したW43CAからだ。その世界観を伝える書籍を出版したり、東京・青山に期間限定で、カシオ端末のキャラクターをモチーフにしたグッズを販売する「Heart Craft Atelier(ハートクラフトアトリエ)」をオープンするなど、カシオケータイのデザイン観を伝えるプロモーションを展開した。

辻村氏 W43CAはどちらかと言えば女性をメインターゲットにしたモデルで、画面デザインにも温かみのある絵柄を採り入れました。ケータイ画面上に町を再現し、そこでいろんな出来事が起こる――といった内容です。時間と同期するイベントなども盛り込んであります。

W43CAの待受画面。フラッシュのアニメーションにより絵本のような世界が展開された

W43CA

井戸氏 「ハート・クラフト」の「クラフト」は「手作り」という意味です。手作りに近い気持ちで作ったものとして、その名前を採用しました。画面デザインだけではなく、端末の開きやすさやキーの押しやすさなど、プロダクトを含めた物づくりのコンセプトの総称として、われわれの考え方をアピールさせていただきました。

「ハート・クラフト」の世界観を伝える書籍も出版されて話題を呼んだ。カシオ端末のキャラクターたちが繰り広げるストーリーとデザイナーがケータイに注いだ思いが込められている

――W43CAによって"カシオケータイ=使いやすい"という定評が確立し、民間団体のユーザー満足度調査でも上位の常連となった。画面デザインに注力したことにより、ユーザー層にも変化は見られたのだろうか?

井戸氏 端末のウリとなる機能や価格によって購入層は変わりますので、画面デザインがとくにどういった層に支持されたということはわかりません。男女年齢を問わずに、幅広い人に気に入っていただいたと認識しています。実は、顔をデザインしたA5512CAは、G'z One TYPE-Rと同時期の発売だったんです。A5512CAは女性寄り、TYPE-Rは男性寄りという位置づけで、A5512CAの画面デザインは「まずデザインに目の肥えた女性たちに喜んでもらいたい」みたいな気持ちもありました。しかし、開発段階でauの全国の支社の方々などに見ていただくと、役職者などの男性にも評判がよかったんです。われわれとしては予想外の反響だったのですが、「かわいい」「楽しい」と思う感覚にはさほど男女差はないことがわかり、それがW41CAやW43CAにつながったとも言えます。