――画面デザインに「ハート・クラフト」のコンセプトを採り入れたのはいつからですか?

井戸氏 ケータイは多機能化が進み、非常に高価なブラックボックスになっていると感じていました。そこで、ユーザーの方々により楽しく快適に使っていただく方策はないかと考えたのが始まりです。

例えば、電話を発信するときやメールを送信するときなどに、わずかですが待ち時間が生じます。その待ち時間は本来楽しいものではないはずです。そのわずかな時間にリラックスしたり、笑っていただけたらいいなという発想でした。

辻村氏 この発想をとり入れたのが、2005年夏に発売した「A5512CA」です。精密機械であるケータイは、操作が難しいという印象を持つ人もいらっしゃるので、ケータイを開けるたびにほっとしたり、なごめたりするようにできないかと考え、画面をそのまま顔にするデザインを採用しました。線で顔のパーツを描いただけのシンプルなものですが、時間帯や電池残量などに連動させて数10種類の表情が楽しめるようになっています。

「ハート・クラフト」の原点はA5512CAの動く顔の待受画面。ケータイを開くたびに違う表情を楽しめた

ロシア土産でおなじみのマトリョーシカがモチーフとなったキャラクター。こちらもA5512CAにプリセットされているキャラクターだ

A5512CA

――カシオケータイの代名詞のひとつとも言える「ペンギン」が登場したのは、2006年春に発売したW41CA。端末を開くと「SPHENISCIDAE」(ペンギン科の学名)と記されたラベルが配置された待受画面が表示され、黒いシルエット状のアデリーペンギンが動くというデザインだった。

辻村氏 退屈なときにケータイを開いて見るのと、文庫本を読むという行為は似ているという意見から、海外の文庫本のデザインにヒントを得ました。最初に考えたデザインは、円で囲まれたペンギンが、その輪から飛びして、その輪を使って遊び始めるというものでした。ペンギンを採用した理由は、かわいいんだけどベタではなく、かといってクールすぎない、ちょうどいい温度感のキャラクターだったからです。ルックスも人の形に近いので、いろいろなことをさせやすいというグラフィック上の利点もありました。そもそもキャラクターを作ろうという発想ではなかったのでペンギンのシルエットを切り抜いたデザインを採用し、匿名性も持たせました。

井戸氏 キャラクターそのもののかわいらしさではなく、ストーリーや動きなどの世界観でユーザーを楽しませたいという狙いでした。ペンギンの動きはFlashで見せていますが、身体のパーツがそれぞれ個別のデータになっていて、それを動かすことで、さまざまな動作を表現しています。ペンギンは空を飛べないけど、風船をつかんで飛ぼうとしたり、空を飛ぶ夢を見たり、鳥を眺めて前足を(翼を)バタバタさせたり……。そういう世界観はユーザーに伝わったのではないかと思います。

大ヒットしたW41CAの待受画面

W41CAのメインメニュー画面

W41CA

――薄型ボディに2.6インチのワイドQVGA液晶を搭載したW41CAは、幅広い世代から人気を集める大ヒットモデルとなった。ペンギンを用いたGUIも大きな反響を呼び、インターネットの掲示板にスレッドが立つほどに人気を集めたという。

井戸氏 画面を顔にしたA5512Cも好評でしたが、広くユーザーに認知されたのはW41CAからでしょうね。「2ちゃんねる」などでは「カシオのペンギン」を略して「カシペン」って呼んでいただいているようです(笑)

辻村氏 ペンギンのために機種変更してくださる方もいたようです。それまでは画面デザインが購入動機になることは少なかったと思います。

W41CAの着信画面。ペンギンが受話器を運んでくるというアニメーションだった