トムソン・カノープスより、東芝が開発したSpursEngineを搭載するコーデックアクセラレーター「FIRECODER Blu」が49,800円で発売されている。PlayStation 3にも搭載されているCellの技術を応用した画像処理エンジンということで注目している方は多いだろう。FIRECODER Bluの実力を確認しつつ、SpursEngineの将来を考えてみたい。
CellのSPEは画像処理に特化した割り切り設計~SpursEngine
Cellを応用した画像処理技術といえばPlaySation 3に実装されているSD→HDのアップスケールコンバージョンを思い浮かべる人は多いだろう。その画質が高く評価されており、実際に筆者も利用しているが元がDVDビデオとは思えない映像が得られる素晴らしい機能である。
もっとも、SpursEngineはPlayStation 3に搭載されているCellとはかなり構成が異なる製品だ。すでに何度か報じられているので簡潔にまとめてしまうが、SpursEngineでは、PlayStation 3のCellでメインプロセッサと機能しているPowerPC互換コアPPEを搭載せず、その代りにごくシンプルな32ビットCPUコア(SPCと呼ぶ)が使用されている。SpursEngineが使用される環境には十分に高速なホストプロセッサ(PCではx86)があるという想定だろう。したがって、PPEレベルのプロセッサを集積する必要ないという判断と思われる。
また、高速なベクタ演算コアSPE(Synergistic Processor Element)は4つ(PlayStation 3は7つ)に抑えられ、その代りにH.264/MPEG-2のハードウェアデコーダ/エンコーダが搭載されている。このハードウェアエンコーダ/デコーダはフルHDに対応しており、SPEに頼ることなく高速なエンコード/デコードが可能とされている。
また、SPEの動作周波数もPlaySation 3の3GHzに対して、SpursEngineでは1.5GHzに抑えら、カタログスペック的には48Gflopsとされる。メモリはPlayStation 3と同じくXDR DRAMを採用、容量は筆者が試用したFIRECODER Bluは128MBを搭載している。
以上のような構成を持つSpursEngineだが、SPEをエンコードやデコードの負担から開放し、SPEにはあくまで画像処理エンジンとして働いてもらおうという割りきった設計と考えて良さそうだ。SPEの動作クロックを落とし、さらにPPEよりも規模の小さいコントローラを集積したことが低消費電力にもつながっているようで「気軽に映像処理の手足に使ってください」というのがSpursEngine開発陣のメッセージであるように思える。
とはいえ、対応したソフトウェアがなければ宝の持ち腐れになるのは確実で、メーカー側もSDKの無料配布を行うなどソフトウェア開発者の掘り起こしに本気になっていることが伺える。
もっとも、SpursEngineに対応するフリーソフトウェアが出てくるまでには、まだしばらくかかるだろうから、とりあえずは製品に付属するソフトウェアの魅力度がSpursEngine搭載カードの命運を左右しそうだ。というわけで、FIRECODER Bluに付属するFIRECODER WRITERの機能や実力を重点的に紹介していくことにしたい。