「Acrobat 9 Proの特徴としては、『Adobe PDF Print Engine』 のバージョンが2.0に上がったことがあげられます。このPrint EngineはRIPに搭載するテクノロジーで、従来は解像度が1200dpi以上のハイエンドのオフセットなどに搭載されていたものです。今回のバージョンアップで、600~1000dpiの解像度にも対応し、ミッドレンジ、ローエンドのカラープリンタ、オンデマンド印刷機などのハードウェアにも搭載可能になりました。これによりPDFの一般化、オンデマンド化がいっそう普及すると予想されます」

すでに雑誌広告デジタル送稿推進協議会では5月に送稿用のPDFフォーマット仕様が策定されている。また今回のバージョン9では、プリフライトの中身は将来のX5等への対応もすでに用意されているという。PDF/Xファイルは外部参照が認められており、完全原稿で変更は一切できないというPDFのイメージが大きく変わる変革期を迎えたとも言える。たとえばリーフレットの一部分のみ差し替えて印刷する場合、PDFファイルから変更部分だけを差し替えてラスタライズする機能が、環境設定に外部参照する項目を追加する形で用意されているという。

また、オーバープリントの機能も改善されている。今までのPDFではオーバープリント設定がオフのまま入稿されてしまうというトラブルがあった。今回のバージョンアップでは、PDF/X形式ではデフォルトでオーバープリントがオンになっているため、こうしたトラブルはなくなるものと岩本氏は期待している。

オブジェクトインスペクタ機能も見逃せない新機能だ。従来はPDF化された後のデータ確認は難しかったため、元データを開いて、作成したアプリケーションに戻る必要があった。この問題もオブジェクトインスペクタを搭載することで、PDFの中でメタデータやフォント情報を確認できるようになったという。このほか、Acrobat上で用紙の色シミュレーションが簡単に行える出力プレビュー、PDFの書き出しでPDFのX1a、X4 に書き出しができる出力インテント、印刷会社がオリジナルで設定を保存できるプリフライトなどがきめ細かな機能の追加がある。

校正の業務プロセスを改善するAcrobat 9の活用法

「従来の校正作業では、バイク便、宅配便などで校正紙をやり取りしていました。PDF入稿が多くなってきた現在、校正はPDFファイルのやり取りで行えるようになりました。しかしPDFファイルをメールで校正者に送っても、その戻しになると修正を書き加えたプリントアウトを手渡されたり、FAXでの返信になったりと伝達方法は従来のままという経験のある方も多いと思います。こうした時間のかかる校正作業をWeb化するのが注釈機能です。Acrobat側の設定で注釈を有効にしてPDFを出力すれば、Adobe Readerでも注釈を書き込めるようになります。すでにバージョン7からこの注釈機能がついています」

注釈ファイルのFDFファイルのサイズは数キロバイト。これをメールで戻して複数の人が訂正を重ねて1ファイルにすることができる。もちろん注釈はいつ誰が書いたのか記録されるので無用なトラブルを未然に防ぐことも期待できる。

また、今バージョンからWebサイトの書き出し精度が上がり、Webページの校正作業にも使えるようになったという。さらにFlash Playerのランタイムを実装したことにより、Flashで作成されたアプリケーションやFlashビデオなどのコンテンツをそのままPDF化して再生することが可能になった。 

「従来はWebサイトの校正といえば仮サイトなどへアクセスする方法がとられていたと思いますが、今後はWeb制作についてもPDFドキュメントやFDFデータをやり取りする校正方法に変わっていくと思います」

Mac版とWindows版の機能差について

Mac版ではAcrobat 9 Proのみの提供だが、Windows版では「Acrobat9 Standard」、「Acrobat 9 Pro」、「Acrobat 9 Pro Extended」となっている。クリエイティブ業界ではMacが主流の現場も多く、Acrobat 9 Proの機能差は気になるところだ。同じPro版でWindows版との機能差はあるのだろうか。岩本氏は機能差をこう語った。

「Officeからワンクリックで書き出せる機能がMac版にはありません。またWebキャプチャにおいてエリアを指定したキャプチャはMac版ではできずページ全体のキャプチャとなります。印刷に関する機能には差はありません」

Acrobatはバージョン9での機能強化を受けて幅広いデータへの対応を成し遂げた。さらにWeb時代のグループワークを強力にアシストする機能を備えた。これからもAcrobat、Adobe Readerはクリエイティブワークの現場でもデフェクトスタンダードとして利用されていくことに間違いはなさそうだ。