台湾は年末からの商用WiMAXサービスの開始に向け、官民あげて実用化に取り組んでいる。台湾のWiMAXは現在どこまで開発が進んでいるのか、また今後の取り組みはどうなっているのか? 業界関係者による講演会が6月、台湾・台北市で行われた。

台湾を世界のWiMAXの実験場に - MIC張氏

「台湾は世界No.1のWiMAX大国を目指している」と語るMICの張奇氏

台湾のシンクタンク・Market Intelligence Center(MIC)のシニア・インダストリー・アナリスト、張奇氏からは、台湾政府が音頭を取って取り組んでいる「M-Taiwan」プロジェクトと台湾のWiMAX産業の発展状況についての説明があった。MICは台湾の情報関連産業の発展強化を目指し、台湾政府と台湾の大手企業の共同出資により設立された、Institute for Information Industry(III)に属するシンクタンク。台湾IT業界の情報データベースの作成などを行っている。

張氏ははじめに「台湾は2002年から開始したe-Taiwanプロジェクトにより、全土がブロードバンドで結ばた。またPCや携帯電話の普及率も高い、アジアでも最も情報インフラの整った"e-カントリー"になった」と説明。M-Taiwan(Mobile-Taiwan)はこのe-Taiwanの次のフレーズであり、台湾全土をWiMAXでカバーするとともに、台湾が世界のWiMAX産業の発展を後押しするまでに育て上げるというプロジェクトである。M-Taiwanには「M-Life」「M-Service」など25のプロジェクトがあり、このうちすでに開始されている「M-School」ではWiMAX(802.16d)を使った学校内でのフィールドテストを開始しており、学生向けには100万の無料アカウントが発行されているとのこと。今年からモバイルWiMAX(802.16e)を使ったテストも提供予定とのことだ。

e-TaiwanからM-Taiwanへ。台湾はモバイルWiMAXなどモバイル技術の底上げに政府主導で取り組もうとしている

また商用サービスについては2007年7月に事業者免許を6社に交付済みとのこと。この6社の内訳は既存の携帯電話事業者が1社のみであり、他はPHS事業者、ケーブルTV事業者、そして新たに事業に参入する4社に免許が割り当てられている。これは携帯電話事業とは異なる企業を参入させることで、WiMAXの開発強化と普及を促したいという意向だろう。また6社のサービスエリアは台湾全土ではなくそれぞれ3社ずつが南北2つの地域に分かれて事業展開を行う予定だ。現在各社は基地局の設置を進めており、早い事業者は年末にもサービスを開始予定とのこと。

こちらはWiMAX事業者「Global Mobile」が考えるWiMAX普及のための4つのキーポイント。ハードウェアだけではなくアプリケーションやコンテンツなどすべてが揃うことが鍵だという

Global Mobileの事業モデル。基本料金で利用できる無料コンテンツと追加料金を払うリッチなコンテンツ、そして広告収入で十分収益を上げることが可能と考えている

台湾は無線関係の技術に強く、出荷台数では台湾企業のワイヤレスモジュール関係だけで世界の80%のシェアを握っているとのこと。WiMAX/モバイルWiMAXのチップセットや端末、基地局などの開発も政府によるM-Taiwanプロジェクトの後押しもあり順調に進んでいるとのことだ。MICによれば2012年にはWiMAXの市場規模は270億米ドルに達するだろうとのことで、台湾企業がその中心に位置することも十分可能性はありそうだ。

台湾の大手通信機器メーカーZyXELはこれからのプロダクトデザインの説明を行った。インテリアもになるデザインを持たせることが、消費者に新しい技術を利用する動機付けになるだろうとのこと

ZyXELのコンシューマー向けWiMAXルーター製品。まるでコーヒーメーカーのようなデザインは、あえてこの製品がハイテク機器であることをイメージさせていないわけだ

張氏は「WiMAXが携帯電話の3Gを置き換えるとか、より優れた技術になる、と考えているのではない。新しい技術にチャレンジすることで、業界、国全体の技術レベルそのものが大きく底上げされることに大きな意義がある」と語った。台湾は世界に先駆けてWiMAXの商業実用化を進めることで「世界一のWiMAX国家」化を図り、これにより業界から注目される存在になることを目指している。「世界中のWiMAX関連企業が台湾を実験場にしてもよい。台湾が世界のWiMAXを牽引する国家になることがM-Taiwanの目標でもある」と張氏はまとめた。携帯電話では日本の技術が世界を牽引したが、WiMAXでは台湾がその座に位置する可能性が高いことを感じさせた講演会の内容であった。