一方、2007年5月末、テレワーク推進に関する関係省庁連絡会議において「テレワーク人口倍増アクションプラン」を策定し、就労人口におけるテレワーク人口比率を現在の約10%から2010年までに20%に倍増する計画を掲げている政府。今回のシンポジウムでは、国土交通省の都市・地域整備局大都市整備課の松井洋介氏から「国土交通省におけるテレワーク関係事業の取り組み」と題して、同省によるテレワークの取り組み事例が紹介された。
主催者を代表して挨拶する国土交通省都市地域整備局・大都市圏整備課長 西尾信次氏 |
国土交通省 松井洋介氏 |
国土交通省では、2005年度と2006年度に同省職員を対象としたテレワークの実証実験を試行している。その結果、参加者からは「電話や不意の来客による中断がなくなるので、集中力が高まった」「通勤負担の低減」「自分の仕事のスタイルを見直すにはよい機会」といった、概ね肯定的な意見が寄せられたという。しかし、その一方で「テレワークをするには、ある程度居住環境の質が確保されることが必要」「常に目の前に仕事がある状態になり、かえってつらかった」「家にはいるけど、仕事に集中せねばならないことを事前に家族とよく話し合っておくことが重要」など、テレワークが抱える課題が挙げられたという。
国土交通省では、こうした声を「自宅以外でもテレワークのできる環境に対するニーズ」と受け止め、2007年10月から2008年1月の間、神奈川県横浜市と埼玉県鶴ヶ島市に「テレワークセンター」を設置し、実証実験を行った。テレワークセンターとは、自宅や職場以外に共用のワークスペースを設置した公共施設で、今回の実証実験では都心まで約1時間程度の鉄道沿線で駅から近いことを条件に2カ所が設置された。テレワークセンターで期待される効果は、個人にとってはワークライフバランスの向上や、能力開発の機会、企業側には業務の効率化、従業員の自立性、創造性向上、優秀な労働者の雇用継続、災害時における危機対応能力の向上などのメリットが挙げられる。そのほか、交通混雑の緩和や職住近接型町づくり、雇用の増加や地域の活性化など、地域や社会への貢献も期待されている。
日本テレワーク協会 田代務氏 |
今回の実験では、テレワークセンター設置に適する立地や周辺環境、執務環境、必要な情報インフラや機器、利用者の利用実態や課題を把握することを目的に行われた。シンポジウムには、日本テレワーク協会の客員研究員の田代務氏が出席し、「平成19年度国土交通省事業 テレワークセンター実証実験概要と結果速報」と題して、実験結果が報告された。
今回の実験では、センターの利用者は、横浜では管理・経営者や人事・総務・経理、企画などのスタッフ職が57%と最も多く、鶴ヶ島では70%が研究開発やSE、営業など外勤の多い職種が多くを占めたという。また、利用目的は横浜では「オフィスより業務に集中」(39%)、「在宅勤務よりよい」(13%)、「移動時間の節約」(17%)の順に多かったのに対して、鶴ヶ島では「移動時間の節約」が32%でもっとも多く、以下「オフィスより業務に集中」(28%)、「在宅勤務よりよい」(28%)と続いた。また今回、テレワークセンターは、横浜市は住宅展示場内のライブラリー内、鶴ヶ島市は市民センター内に設置された。これに対し、実験後のアンケートでは併設施設としてもっとも適当な場所について「図書館」(41%)がトップで、「ショッピングセンター」(21%)が続き、首都圏でのテレワークセンターの設置数については「10カ所以上」を望む人が69%を占めた。
一方、実証実験の参加者のうち、14%が勤務先でテレワークが認められていないと回答した。その理由として「情報セキュリティ」が11%と最も多かった。しかし、利用者のうち78%はテレワークセンターを「必要」と回答しており、田代氏は「テレワークセンターへの一定のニーズがあることは確認できた。立地場所では、自宅近くの駅、または通勤途中の駅付近を希望する人が多く、駅から施設までの道順のわかりやすさや所要時間の短さも重要だとわかった。執務環境では、施錠ができる、画面を覗き見されないなどの物理的セキュリティの確保が必要だという意見が多い。PCの社外持ち出し禁止のため、実証実験に参加できない企業も複数見られた」とまとめ、今回利用することのできなかった企業にもヒアリングを実施するなど、本格運用に向けて今後も調査を続けていく意向が明らかにされた。
一方、国土交通省の松井氏からは「2008年度は地方における政策に力を入れていく」と述べ、今後は大都市での業務を地方で受け入れるためのワークショップを実施するなど、"地域活性化"の観点に注力し、政府としてテレワークを後押ししていく方針が語られた。