今回の発表では、いくつかの分野における同社のグリーンIT施策が発表された。以下、主立った部分についてまとめてみたい。

国内における取り組み

1970年代に日本全土を襲った2度の石油ショック以来、"省エネルギー"というメッセージは世代を超えて日本人のDNAに受け継がれてきたように思える。だがしかし「日本は世界第4位のCO2排出国(2004年統計)。とくにオフィスフロアやデータセンターから排出されるCO2は増加傾向にある」(日本ヒューレット・パッカード テクノロジーソリューション事業統括 マーケティング統括本部 Adaptive Infrastructure ビジネス本部 担当マネージャ 高原明彦氏)という事実の前には愕然とせざるを得ない。とくに排出量が増えているのが業務部門、すなわちオフィスビルやデータセンターによるもので、1990年比で37.6%という高い増加傾向を示している。その原因とされるのが「IT機器の高密度化」だ。

日本HPはこの問題に対し、現在2つのソリューションを提示している。1つはパートナーであるNTTファシリティーズと提携し、電源/空調/建築の面からデータセンターの省電力化に取り組むこと。もう1つは同社のブレードサーバ(HP BladeSystem c-Class)の省電力機能活用で得られた電力削減分をCO2換算し、顧客のサーバ利用料金(リース料)を減額するプログラムである。

ブレードシステムの積極導入

周知の通り、HPはここ数年、ブレードシステムを強く推進しており、グリーンITへの取り組みにおいても、その中核ソリューションとして位置づけられている。「省電力、低発熱、軽量化」を実現すると言われるブレードだが、実際の効果はいかほどなのか。高原氏によれば「たとえば1Uサーバ×16台と16枚のブレードで構成された1ラックサーバシステムを比較した場合、30%の省電力効果と20%の軽量化が期待できる」という。

また、新開発&特注のブレード専用"超高性能ファン"の採用や、排熱エアフローの最適化、シャーシなども含めた機器の直流電源対応、2.5インチディスクなど省電力部品の早期採用など、省電力/低発熱に関するあらゆるテクノロジをブレードにつぎ込んでいる同社の戦略が見て取れる。

x86サーバからテープドライブまで、あらゆるブレードに省電力テクノロジが詰まっている

データセンターの省電力化

おそらく、データセンターの省電力化は関連するすべての企業にとって現在最も頭が痛い課題ではないだろうか。データセンターにおける「最大の問題点はサーバの過密化、そして電源不足」(松本氏)と言われる。また、データセンターの電力密度はこの10年で5倍以上に増加し、「1Uサーバのエネルギーコストは購入額の約2倍、サーバを冷却する空調コストはサーバが消費する電力と同等」(同氏)だという。発熱するサーバを冷やすためのコストが莫大になり、電力量が追いつかなくなっているのだ。

データセンターの消費電力量は限界点に近づきつつあり、早急な対策が迫られている

これに対するHPのソリューションはいくつかあるが、注目すべき取り組みとして「ダイナミックスマートクーリング(DSC)」が挙げられる。各ラックの前面に温度センサーパネルを設置し、"Cool Isle(温度が低いところ)"と"Hot Isle(温度が高いところ)"をリアルタイムに把握、ムダにデータセンター全体を冷やすのではなく、"いま"冷やすべきところを冷やす空調システムである。これにより空調機の稼動を極限にまで抑えることが可能になる。同社の試算ではDSCにより、20 - 40%の空調コスト低減が実現するという。

もう1つ、空調の最適化をも含めた、データセンター全体の稼動を支える自動化ソフトウェアについても触れておきたい。HPは2007年7月にデータセンター管理ソフトウェアの開発ベンダOpswareを買収したが、同社のすぐれたポートフォリオを手にできたことは大きい。Opswareの製品をベースにした、データセンターの管理業務をすべて自動化/可視化してくれるBusiness Service Automation(BSA)はソフトウェア面からHPのデータセンター省電力化を支えるキーテクノロジと言える。

そのほかにもチップレベルの取り組みとして、Intelと共同開発する、省電力効果の高い"Itanium"への投資、PCやサーバへの省電力CPUの採用、新しいチップの冷却方式の研究投資("Spray Cooling")などが紹介された

仮想化、"ヒトとモノの移動"の最適化

HPが最も力を入れているエンタープライズソリューションのひとつ"仮想化"は、ブレードシステムとの関連もあり、グリーンITにおいても重要な役割を果たすことは疑いない。仮想化により、サーバやストレージの物理的な台数を減らすことで「30 - 40%の電力コスト削減」(同社)が期待できるという。

また、ヒトやモノの移動時に発生するCO2の量を減らすべく、生産管理システムや物流管理システムを活用しモノの移動を最適化する"SCMソリューション"や、テレビ会議システム"HP Halo studio"などを活用し、フェイス・トゥ・フェイスの環境を実現しながらヒトの移動を最小化する"テレプレゼンス"などのアプローチも紹介された。

グローバル企業として、そして業界リーダーとして「世界で最も幅広いグリーンITソリューションをもつ企業」(同社)としてのプレゼンスを維持し続けるには、絶え間なく具体的なメッセージを発信していく必要がある。極端に言えば、今後同社が発表する製品やサービスのすべてが"省電力"や"CO2削減"をベースにしていることが望ましい。"グリーンIT"を単なる流行り言葉に終わらせないためにも、同社の果たすべき役割は大きく、責任は重い。