"引きこもり"から一転、仲間5人とチームラボを起業

――東京大学入学後はどのようにすごされましたか?

猪子氏は、「幸せになるのは簡単。自分が好きな人と目的とプロセス、結果を共有すること」と話す。

東京大学はブランド志向が強い人が多く、あまり面白くなかったので、翌年、情報化に関する教育と研究を積極的に行っているという慶応大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)のある学部を受験することにしました。面接にも合格しましたが、面接終了後、面接を担当した教官から、「慶応大学もブランド志向で入ってくる学生は多い。面白くないのを周りの環境のせいにしてはいけない」と言われました。そのアドバイスを聞いて、東大に残ることにしました。

その後は、今で言う「引きこもり」に近い状態でしたが(笑)、仲の良い友人はいました。彼と遊んでいて、「何か面白いことをしたいなぁ」という話をしていたんです。そこでベンチャーを起業しようという話になった。元々起業するなら、仲間と一緒に始めたいと思っていたので、その友人や東京工業大学に行った中高時代の友人ら5人で、大学卒業後、チームラボを設立したんです。

――いよいよ、起業に乗り出したわけですね。

幸せになるのは簡単です。自分が好きな人と目的とプロセス、結果を共有することが幸せなのです。何らかのゴールが幸せをもたらすわけではありません。結果はどうあれ、そこに至るプロセスが幸せをもたらすのです。

先進国より発展途上国のほうが幸福度が高いといわれるのは、共に生きなければ生きていけない環境にあるからです。チームラボという社名は、仲間と共に新しいものを作りたい、新しい価値を見続けたいという思いで名付けました。自分でもダサイとは思いますが(笑)

情報化社会は、あふれる大量の情報を社会がどう扱えるかが問われる。新しく作った会社では、情報と情報をマッチングさせるレコメンデーションエンジン※を開発しようと思いました。

※購買履歴やアクセスログから、顧客1人1人へ適する商品、情報を勧めるエンジン

批判するより、進んだほうがはるかに楽

――レコメンデーションエンジンの開発が最初の事業だったわけですね。

作ったんだけど、最初は全く売れなかった(笑)。そこで、企業としての力を付けるため、ホームページの制作なども行うようになりました。だんだん面白くなってきて、まずいいサイトを作って、その裏側にさまざまなエンジンがあればいい、と思うようになりました。

Webの世界は誰でも情報を発信することができるので、その分、どこで発信するかという場所が重要になります。発信者を多く集めることが、発信する場となるプラットフォームであるWebサイトにとって大切な要素となるのです。

――そうした事業を展開しつつ、検索エンジン「サグール(SAGOOL)」も開発したわけですね。

「こうあったらいい」と人を批判するのは耐えられないので、「自ら進んだほうがいい」と思ったのです。「サグール(SAGOOL)」を開発したのもそうした考えがあったからです。輸入してもしょうがない、自分で作ったほうがいいと。

チームラボの社内には、社員一人一人の写真をモチーフにデザインされたCDジャケットが全員分飾られている

テレビのコメンテーターらにはよく「こうあったらいい」と批判する人がいますが、もしこうあったらいいということがあったら、成功しようがしまいが、進んだほうがはるかに楽です。

日本が情報産業の優位性を保つためには、コア技術が必要です。検索エンジンも、先進国としての豊かさを維持するために、持たなければならないコア技術だと思います。産業の中心が情報産業に移行する中、現在のような豊かさを維持するためには、そうしたコア技術は絶対必要なのです。