先にα700のインプレッションを行なったが、そのきれいな絵がどうやって可能になったか、カメラを触っているだけではわからない。そこで開発者にお会いし、話を伺うことにした。取材を行なったのは昨年の11月末。掲載が遅くなってまことに申し訳ない。

意図をもって撮影するユーザーのためのカメラ

-- まず、このカメラの狙いから聞かせていただけますか。

竹倉 α700はソニーαシリーズの中級機という位置づけです。α100はエントリー向けの機種でしたが、初心者の方だけでなくハイアマチュアの方々も含め、いろいろな方に買っていただきました。そういう方々からスペック的にもうワンランク上のものが欲しいというご要望を多くいただきまして、α700の発売に至りました。

-- ハイアマチュアというとどういう方々でしょうか?

竹倉 実はターゲットという意味ではそんなに絞ってなくて、幅広く、趣味で作品として写真を撮るという方々を想定しています。そういう方は画質や操作性、スピードなどにこだわられます。そういった方にご満足いただけるようなスペックにしました。絵づくりの面では今回「クリエイティブスタイル」という新しい機能を付けまして、自分の意図に合わせた仕上がりになるようにしました。

-- α100のダイヤルを使った操作性もけっこう好きだったんですが、α700ではモニターを使った「クイックナビゲーション」に移行しましたね。

竹倉 作画意図を反映しやすいように、よく変える設定はなるべくダイレクトに変える、直感的に素早く変えるというところにポイントを置きました。ダイヤルが分かりやすいというお客様もたくさんいらっしゃいましたが、ここを1回押してからとなると、やはり手間がかかる感じがあります。よく使うISOやホワイトバランスは独立ボタンを設けて、なおかつクイックナビはファンクションボタンを押すだけで、どういう設定になっているか全体を見ながら設定できますから。

-- 老舗のカメラメーカーですと、画面を見ながら行なう操作は初心者さん向きカメラに搭載して、マニアの方はダイヤルやボタンにしがちですが、ソニーさんが逆に上級機にこれを持ってきたのがおもしろいと思います。

竹倉 初心者のお客様は設定を変えずにそのまま撮られる方が多くて、ほとんどいじられないですね。設定を変える人こそ分かりやすく簡単な操作性にするべきだと思いますし、せっかく3インチのこれだけきれいな液晶モニターがありますから、やっぱりこれを使ったほうがいいと。

-- そうなんです。液晶モニターがすごくきれいなんですよ。

竹倉 ありがとうございます。自信の液晶です(笑)。

-- ハイアマというとボタンの操作感などにもこだわりますが、α100よりはるかによくなったと思います。

竹倉 はい、押し心地とか、感触も含めて完成度が高くないと満足していただけないだろうと。レイアウトなども寒いところで手袋をしていても操作がしやすいようにと、デザイナーがこだわった部分です。

写真では少々堅苦しく見えるが、インタビューはとても穏やかで楽しいものだった

ソニー デジタルイメージング事業本部 AMC事業部 商品企画部 商品企画課 竹倉千保さん

2/3段広がったダイナミックレンジ

-- 絵づくりもα100とは作り方やコンセプトを変えているのですか?

左中 α100をベースにはしていますが、ハイアマチュアやプロに近い方は、自然な色を再現することを期待されるので、少し落ち着いた雰囲気を出すように心がけました。

-- それはたんに地味とかじゃないですよね。

関根 単純に忠実にするとちょっと淋しい感じになりますので、臨場感や、印象に残るけどリアル過ぎない。自然さを残したところを狙っています。結果としてエントリー機に比べると落ち着いた感じに仕上げています。

-- α100でもハマるとすごくリアリティが高いんですが、ただ、ハマらないことがたまにありました(笑)。それがα700ではそういったことはほとんどなくて、さらにリアリティが高くなっている。

左中 まずα100よりはダイナミックレンジが2/3段ほど広くなっています。

-- 簡単に言うと飛ばない潰れないっていうことですよね。

関根 そうです。その上で一枚の絵に入れ込むところでいろいろ工夫しています。その技術のひとつが「Dレンジオプティマイザー」(以下、D-R)ですね。

-- 今度のD-Rでは「アドバンスレベル設定」で指定ができるようになりました。「Lv1~5」というのはオートで変わる範囲を固定するものですか?

左中 いえ、オートの範囲はもう少し狭くて、Lv1~3相当です。画質レベルを保つ設定になっています。それ以上は意図的に効果を出すことをねらって使ってほしいということで、かなり強く効くようになっています。

-- 逆にいえば、Lv4やLv5では破綻することもあると?

左中 シーンによってはあるかもしれません。だから明らかな意図をもって絵を作り込んでいただく時に使ってほしいです。

関根 やり過ぎるとノイズが目立つ場合もありますが、絵づくりなどをわかっていらっしゃる方を想定していますので、思い切った効果が出るようにしています。

-- 標準でもD-Rが効いた状態になっていますよね。

関根 はい。それでもD-Rは補正機能なので、ベースの状態できちんとした絵が作れてないとプラスアルファが出せませんから、オフの状態で作り込んで、なおかつD-Rでも活きるようにしています。人間の目では明るいところも暗いところも見えているのに、写真にすると暗い部分が沈んでいるのはある意味不自然かもしれない。D-Rではそういった意味も含めて、広いダイナミックレンジを1枚にはめ込むような処理をしています。

-- 広いダイナミックレンジをそのまま絵にするとゆるい絵になりませんか?

関根 そうですね。そのままだと印象と違ってしまいます。それをゆるくしないで見せるようにしています。

-- マクベスのチャートを露出変えて撮影するというテストをいつも行なっているのですが、α700はほかとぜんぜん違うグラフになりました。これはなぜでしょう?

左中 モードはどうなっていますか?

-- 標準状態です。露出はシャッター速度で変更しています。

左中 大きく他機種と違うということはないと思います。

関根 D-Rだと思います。D-Rが入っていると変わってきますから。

ソニー デジタルイメージング事業本部 AMC事業部 開発部 5課 左中由美さん

ソニー デジタルイメージング事業本部 AMC事業部 開発部 担当部長 関根義之氏