その2 - 法人向け市場の動向

――以前お聞きしたビジネス向けの展開では、業務専用端末として使っていたPocket PCなどをスマートフォンに置き換えるという需要と、社外でもメールをはじめとするさまざまな社内データにアクセスできるメッセージングの需要がある、ということでした。

岡田 海外では従来からモバイルメッセージングのほうが主流で、現地のマイクロソフトでは「今後Windows Mobileを業務アプリケーションへ拡大しよう」と言っているくらいなんですが、日本ではやはりメッセージングよりも専用の業務アプリを利用するために導入いただくことが多いです。業務アプリはいままで使っていたものを置き換えることになるので、「前のに比べて便利になったね」といった形で導入効果を見やすいのですが、モバイルメッセージングのほうは、外でメールが見られることがなぜ便利なのか、それをお伝えするところから始めています。

中島 ただ、モバイルメッセージング中心に採用いただけるお客様も次第に増えてはいます。日本の場合、携帯電話で電子メールを送受信することが既に当たり前ですので、外でメールが見られるということだけでWindows Mobileと一般の携帯電話を比較すると、なかなかメリットが見いだせなかったのかもしれません。

――メッセージングのために導入する企業は、単にメールを送受信する以上のどのような点に魅力を感じているのでしょうか。

中島 Officeのファイルが見られるとか、ひとつひとつのデータに対するライツマネジメント(コピーや改変の権限を管理する機能)ですとか、他のアプリケーションとの連携の部分ですね。ライツマネジメントのような機能は、当初は導入しなくても「将来的にこれは使えそうだ」という、将来性の部分も含めて評価いただくケースが出てきています。法人市場での我々の強みはサーバー製品との連携にありますが、Windows Mobileに対する評価は、Exchange Server 2007の普及度合いと、ある程度連動していますね。デバイス単体でなく、サーバーと連携すると本当に便利に使えるという意味を含ませるため、あえて「メール」でなく「メッセージング」という言葉を使っています。この言葉が少しずつ理解されるようになってきている、というように思っています。

岡田 また、もちろん我々としてはExchangeとの連携を強く打ち出していますが、最近ではそれ以外のサーバーをお使いのお客様に導入いただく事例も増えています。弊社の製品だけでない広い意味でのサーバー連携によって、Windows Mobileの真価が発揮されるということが伝わるようになってきました。

――導入するのは、IT予算の大きい大企業が中心なのでしょうか。

中島 (数千人以上の)大企業のお客様に導入いただくのは、どちらかというともう少し後になるのではないかと考えています。というのは、その組織に属する方のできるだけ多くに端末を使っていただかないと、Windows Mobile導入の効果を出しにくいからです。現在は、情報システム部門が現場に近い中堅企業で、効率化を急がれている方の導入が中心です。現場のニーズを情報システム部門が把握していて、今度Exchange Serverをバージョンアップする予定があるので、そのタイミングにあわせて導入を決定いただく、という例もいくつかいただいています。

――2008年の法人向け新施策は。

岡田 春以降に「System Center Mobile Device Manager(SCMDM)」という新製品を投入する予定です。現在は「System Center」というIT資産管理ソリューションでPCなどの一括管理が行えますが、これをWindows Mobile端末に広げたのがSCMDMです。

中島 海外ではもともと、Exchangeを中心としたメッセージングソリューションとしてWindows Mobileを導入いただいているので、Exchangeの機能である程度は端末管理が行えていました。しかし、先ほど申し上げました通り日本の場合、業務アプリ端末として導入いただくことが主流なので、端末をExchangeと接続しない使い方も多いのです。SCMDMはExchangeがなくても使える端末管理ソリューションで、Exchangeよりも強力な管理機能をご利用いただけます。今後は、業務端末として使っている全国数万台のWindows Mobileデバイスを遠隔管理したい、といった需要も生まれてくると考えられます。

――その遠隔管理というのは、携帯電話のネットワークを使って行うことを初めから想定しているということでしょうか。

中島 そうです。"Over The Air(OTA)"と呼ばれていますが、アプリケーションを導入したり、端末の稼働状況を吸い上げたりといったことが、電話のネットワーク越しに行えます。そういった意味では、Windows MobileがPDAの延長線上から抜け出たひとつの形とも言えますね。携帯電話だからこそ行えるデバイス管理の新しい形態です。また、2007年はさまざまな形状の端末が登場したというお話をしましたが、これは個人市場だけでなく法人市場にも有利なことなのです。例えば、電車で移動することの多い営業職の方には、スライドキーボード型よりも「X02HT」のような片手でも操作しやすい端末のほうが向いているといったように、同じシステムでも端末によって使い勝手は大きく変わってきますからね。