また、アプリケーションの開発も行っており、事業者向けには課金やメッセージングといった基本的なサービスだけでなく、音楽・映像配信やIPテレビなどマルチメディアサービスのシステムも提供している。ユニークなものとしては、電話を呼び出し中、電話をかけた側に聞こえる発信音を好きな音楽に変更できるシステムを提供しているが、このシステムでは電話会社が用意した音楽に加えて、自分が歌った歌を聞かせることもできるという。これは一例だが、ネットワーク設備とソフトウェアの両方を自社で開発できる華為ならではのアプローチといえる。

華為が事業者向けに用意する位置情報サービスのイメージ

香港の携帯電話事業者・PCCW Mobileに提供されている電話機型の華為製端末

2006年よりPCCW Mobileは、華為が開発したCMB(Cell Multimedia Broadcast)と呼ばれる携帯端末向けマルチキャスト技術でIPテレビ放送サービスを提供している。CNBCのニュース番組を見ることができた

同社は、固定通信、光・IPネットワーク、携帯電話基地局などの無線ネットワーク、ソフトウェア、そして一般消費者が利用する端末までをすべて自社で提供できることを強みとしており、FMC(固定通信と移動体通信の融合)やオールIP化が今後のトレンドとされている通信業界で、幅広い製品・サービスを提供できるとアピールしている。

同社で広報を統括するコーポレート・ブランディング/コミュニケーション部門担当副社長の胡勇氏

今回、日本の報道陣の取材に応じた同社コーポレート・ブランディング/コミュニケーション部門担当副社長の胡勇(Johnson Hu)氏は、同社が欧米の通信ベンダーにも肩を並べる規模まで成長できた理由のひとつに、優秀な人材を安く獲得することのできる中国の"地の利"を挙げる。人件費は欧米に比べおよそ3分の1で、しかも「東洋の人材は勤勉」(胡氏)なため、「当社が研究開発に1億ドルを投入するならば、それは欧米メーカーが6億ドルを投入するのに等しい成果を得られる」(同)と話す。2007年の研究開発費は15~16億ドルに上る見込みだが、開発者のおよそ9割はソフトウェア技術者のため、研究開発費のほとんどは人件費という。

華為の競合にあたる企業としては、Ericsson、Nokia Siemens、Alcatel-Lucent、Ciscoなどを挙げる。こういったライバル社はこれまで、例えばEricssonは端末事業をSony Ericssonとして切り離し、Nokiaも端末に集中しネットワーク設備事業はNokia Siemensに移してきた過去がある。このように分業が主流となってきた通信業界において、華為は逆に全方位の製品展開を志向している。

これについて胡氏は「いわゆるITバブルより前、通信ベンダーは全分野を自社でまかなっていたが、ITバブル以降は無線ネットワークのような特定分野のみに力を入れるようになった。しかし、最近になってまたEricssonはMarconiを買収して固定通信や光ネットワークの事業を強化したし、元々固定通信で強かったベンダーのAlcatelはLucentとの合併後、無線にも注力するようになった。華為が変わらずにいられたのは、ITバブル崩壊後も年率30~40%の売上増を達成できていたからだ」「今後、固定通信と移動体通信のコア・ネットワークはオールIP化され共通になっていくが、FMCに関しては、華為はCiscoなどよりもノウハウがある」と述べ、本来は全方位展開こそが強い通信ベンダーの姿であり、中国国内や新興市場でシェアを拡大できた同社は会社をシュリンクする必要がなかったと分析する。

同社は、無線ネットワークの分野で今年、EricssonとNokia Siemensに次ぐ世界第3位のシェアを獲得できると予想している。また、3Gの設備についてだけ見れば、年間の受注事業者数で既に1位、受注金額でも2位につけているという。新興市場だけでなく、他社が先行していた地域でも攻勢を強めており、今年は欧州市場での受注が20億ドルを超える見込みとしている。

胡氏は華為の今後の目標について「通信業界のトヨタを目指す」と表現した。かつて限られた工業力しかなかった日本が自動車で世界市場を席巻し、その中でもトヨタは今や世界一のメーカーになろうとしているわけだが、華為は通信という産業において同じ地位を目指すというのだ。それは決して誇大な目標ではなく、新興市場を堅実に確保し、欧米でも確実に存在感を増したこれまでの実績を見る限り、彼らの中では世界一に向けた現実的なロードマップが描かれているに違いない。