インターネットがメディアとして利便性とともにその影響力を拡大させる流れのなか、既存のメディアの中で抜きん出て強力なテレビとインターネットとの「相性」は如何か、との考えが浮かぶのは自然な流れだ。「通信と放送の融合」との表現でここ数年、この問題は脚光を浴びてきた。テレビ事業者はそれぞれ自社のWebサイトの充実化を図り、さまざまに活用している。過去の番組をWebサイトで無料視聴できるなど、施策はいくつかあるが、各社とも依然、ネットを十分に駆使しているというような状況だとは思われない。また、ライブドアがニッポン放送を傘下に収めようとした一件で放送事業者側は身構え、インターネットそのものへの視線が冷え、テレビとネットの世界との距離がまた長くなってしまった観もある。

とはいえ、ライブドア事件から一年、テレビとネットの係わり合いは少しずつ動き出し、新たな方向に進もうかとの兆しもみえはじめている。フジテレビの試みもそのひとつだ。テレビとインターネットの関係はどう変わるのか。同社編成制作局 バラエティー制作センターの吉田正樹部長に聞く。

吉田正樹氏

吉田部長は「放送と通信の融合という論議では、インターネット事業者がテレビのコンテンツをどう利用できるか、ということが主として語られ、テレビ側の視点はあまりなかった」と指摘する。同社ではあえて「放送と通信の連携」を進める、としているのだ。「融合でなく連携というのは、そもそもテレビとインターネットは異なるものであるから、融合しないはずではないのか」との思いがある。「インターネットはインフラであり、コンテンツそのものは変わらない。たとえば、GYAOはネット上で映画を配信しているが、テレビであれ、映画館であれ、ネットであれ、映画は映画ということになる」。重要なのはやはりコンテンツだ。

「われわれが考えている放送とインターネットの連携は、単に過去の資産を活用しようというのでない。未来に向かって、放送と通信が両輪のようになって、新しいものをつくり、何か活用できないか――そこが出発点となる。ライブドアの騒動で、2005年から2006にかけて、テレビとインターネットの連携はやりづらくなってしまった面があるが、やるべきことをやろうと、フジテレビでは2006年から、放送、通信の連携プロジェクトを始め、前へ進んでいる。大きな意味を持つのは、編成制作局のバラエティー制作センターとデジタルコンテンツ局が手を携えて、社内に大きな渦を作っていること。フジらしいアプローチの仕方だ」という。制作の現場と、デジタルコンテンツを考える部署とは、従来、別々に動いていた。

「強調しておきたいのは、コンテンツの2次利用などではなく、放送のプロがインターネットというフィ-ルドで、いままで取り組んできたコンテンツ制作をどう応用していくかということだ」。自社のWebサイトに、従来の番組を部分的にを集めて配信したり、人気漫才師の作ったコンテンツを新たにサイトの目玉にしている例があるが、「フジがやるなら外部の力を借りるのではなく、自分たちで知恵とアイディアを出していかなければ、やる意味がない」と力を込める。