アナログ地上放送を来年7月で停波することで生まれる「電波の空き」。このようなホワイトスペースをどう活用するのか、調べていたところ、どうもおかしなことになっているという話を前回した。今回は、その続きだ。

総務省では、昨年12月から「新たな電波の活用ビジョンに関する検討チーム」を開催し、今年8月に、その議論をまとめた報告書を公表した。この検討チームの会議の中では、3回にわたって公開ヒアリングが行われた。これはさまざまな自治体、民間企業から「ホワイトスペースをこう活用したい」という提案を募り、その中で有望なものを選んで、検討チームと提案者で実現性を意見交換するというものだ。

その中から、実現性が高いものをさらに選んで、「ホワイトスペース特区」の先行モデルとして、早い段階に実施するということになった。

この内容が問題なのだ。この中で、唯一理解できるのが新技術開発だ。NHKがスーパーハイビジョンの放送実験をNHK放送技術研究所がある世田谷区砧付近で行う。スーパーハイビジョンは、現在のハイビジョン放送の解像度をさらに高めた「次世代ハイビジョン」だ。実験放送が2015年、本放送が2025年に予定されていたから、かなりの前倒しになる。いち早く、技術を確立して、世界標準化し、技術立国日本の武器のひとつとすべきで、こういう試みは歓迎されるだろう。

もうひとつは、NTTドコモや九州工業大学などがコグニティブ無線通信の実験を行う。コグニティブ通信とは、自動的に空いている周波数を選んで通信ができる方式で、ホワイトスペースのような飛び飛びの空きスペースを極めて有効に活用して通信が行えるようになる。これも納得できるホワイトスペースの活用法だろう。

しかし、それ以外はどうしてしまったのだろうか。表を見ていただければわかるが、すべてが「ワンセグ携帯電話、サイネージ」と判を押したような具合になっている。アナログテレビをやめて、空いたスペースで、今度はワンセグテレビ放送をしようというのだ。

なお、「サイネージ」というのは電子看板のことだ。要は、大型の薄型テレビをあちこちにおいて、それでワンセグ放送を受信するという話。街頭テレビと同じことで、今、あちこちで期待されているデジタルサイネージとは異なる。デジタルサイネージは、液晶モニターを利用した電子看板だが、人感センサーを内蔵し、人が近寄ってくると広告内容を切り替えるとか、あるいは顔認識機能を内蔵し、近寄ってきた人の性別や年齢を推測し、広告内容を切り替えるというものだ。静止画だった紙のポスターが、動画で動くようになりましたという話ではなく、よりきめ細かいマーケティングが行える。ここにポイントがある。しかし、ワンセグ放送を流すだけのサイネージでは、あまり意味があるとは思えない。

交通機関内放送もよくわからない。運行情報や緊急情報などを、駅構内、空港内あるいは電車内、飛行機内で放送するというものだ。地下鉄や私鉄の車両内には、すでに液晶テレビが取りつけられていて、路線図や運休情報が表示されているし、空いた時間には企業のCMが流れている。これらを、ワンセグに変えて、意味があるのだろうか。

さらに災害放送というのも、よく分からない。特に個人の安否情報だ。大きな災害の場合、その地に住んでいる親戚や知人の安否はだれでも気にかかる。このような個人の安否情報に関しては、インターネットの掲示板などを使い、氏名で検索をして、本人がコメントを残したり、安否を確認したい人がそのコメントを読める仕組みを作っておくのが賢い。そして、こういった仕組みは、携帯電話キャリアや地方自治体などによって着々とできつつあるのだ。

ここがいちばんよくわからないのだが、このワンセグを使った災害放送では、このようなインターネットに寄せられた安否情報を編集して、避難所などに設置したテレビにワンセグ放送で流すというのだ。

もちろん、災害時にインターネット回線が生きているかどうかという問題はある。しかし、WiMAXや3G Wi-Fiなど、広域の無線インターネット機器も、近くの電器屋で買える時代である。災害となれば、このような機器メーカーは、大量の機器を支援物資として喜んで送ってくれるだろう。

いちばん問題なのは、双方向性だ。たとえば、災害が起きた地域に、「山田太郎」という名の知人がいて、彼の安否が知りたいとする。インターネットの安否確認であれば、専用のサイトにアクセスして、名前で検索すれば結果がわかる。

しかし、テレビではこうはいかない。テロップで氏名を放送するにしても、1分間に100名程度が限界だろう。しかも、ワンセグ放送であれば、携帯電話で見る人もいて、流れているテロップ文字は見づらく、見逃してしまうこともあるだろう。さらに、エリア外の人はその放送を見ることができない。

私がいちばん理解できないのは、インターネットという双方向メディアがほぼ普及している時代にあって、なぜわざわざ一方通行のワンセグ放送を導入しなければならないのかということなのだ。

たとえば、商店街などの地域密着放送、大学の構内放送、観光地の観光情報放送なども、ワンセグ放送ではなく、インターネットでやってはいけないのだろうか。商店街でお買い得情報が表示されて、それをタッチすれば、クーポンが表示され、お店の場所が表示される。大学の中で授業の時間割がでて、タッチすれば、教室の場所や授業内容のシラバスが表示される。出席ができなければ、映像で遠隔授業を受けられる。このようなことは、スマートフォンであれば実に簡単に実現できるし、ガラケーといわれている国産携帯電話でも簡単にできる。それをわざわざ一方通行メディアであるワンセグテレビ放送にこだわる理由ってなんなのだろう。

まったく裏づけがないので、話半分のあてずっぽうな推測だが、「テレビはテレビ、通信は通信」という、どこかで縄張り争いのようなものが行われているような気がしてならないのだ。

このコラムでは、地デジにまつわるみなさまの疑問を解決していきます。深刻な疑問からくだらない疑問まで、ぜひお寄せください。(なお、いただいた疑問に個々にお答えすることはできませんので、ご了承ください)。

本文で触れた検討チームの報告書より転載。一部改変してある。注目してほしいのは、メディアで、ほとんどすべてが「ワンセグ携帯」「サイネージ」なのだ。サイネージとは、液晶モニタを置いて、そこに映像を映しだすというもので、電子ポスターのようなもの。ここでは、たぶんワンセグ放送をそのまま屋外テレビなどに映しだすことを想定しているのだろう