連載『住まいと安全とお金』では、一級建築士とファイナンシャルプランナーの資格を持つ佐藤章子氏が、これまでの豊富な経験を生かして、住宅とお金や、住宅と災害対策などをテーマに、さまざまな解説・アドバイスを行なっていきます。


自然災害をチェック ~安全が第一! 災害の少ない街選び~

前掲コラム『住まいと防災(1)』で災害の種類を表にしてあります。どのような災害があるかを確認し、住みたい地域に当てはめてチェックしてみてください。今はネットで各地域のハザードマップが閲覧できますし、過去の災害なども検索すれば、事例がアップされているもの少なくありません。災害はゼロにはできませんが、わざわざリスクの大きいエリアを選択する必要はありません。ポイントは細々とした問題点ではなく、決定的に大きなリスクの有無をチェックすることです。

街選びのチェック項目 ~人生設計が大切! 街選びの優先順位~

下記の表に街選びのチェック項目をまとめてみました。まだまだ他にもあるかも知れませんし、それぞれの家族特有のチェック項目もあると思います。項目は多岐にわたり、全ての項目を満足する地域は存在しないでしょう。優先順位をつけて判断せざるを得ないでしょうが、自分たちが今後どう暮らしたいかが明確になっていないと、どれを優先するかの順位付けを行うことができません。また人生は変化の連続です。今は理想的な地域であっても、将来の生活に対しても理想的かどうかはわかりません。そのためにも街選びに際しては、将来も見据えた家族の人生設計が大切となります。

地域を選ぶポイント一覧

(C)佐藤章子

地域と犯罪 ~「ご近所の底力」を作れるか~

防災面の次に重要な治安について、少し考えてみましょう。自治体の県警(東京都の場合は警視庁)では管轄の各エリアの犯罪件数等を公表しています。各エリアはどのような種類の犯罪が多いか、件数はどの位かなどを検索することができます。ただし件数表記が多く、人口比率や面積比率等に置き換えて考える必要はあるでしょう。おおよその目安にはなりますが、ゼロにはできませんので、犯罪件数が少ないからと言って安心はできません。それよりも地域社会がどの程度成熟し機能しているかの方が、頼りになる指針のように思います。

以前「ご近所の底力」というテレビ番組がありました。ご近所仲間のいろいろな工夫による犯罪件数削減の実例が紹介されていました。街に花を植える活動だけで、犯罪を防止する効果があるようです。

私も印象的な経験が一つあります。ある夕方、仕事帰りに自宅近くの駅を降りて道路に出た途端、街が異様な雰囲気に包まれているのを感じました。道の角という角に5~6名の集団が待ち構えていて必死に訴えているのです。聞けばその日、区内で女児の誘拐事件が発生し、それが公開捜査になったそうです。後で分かったことは、写真を印刷したチラシを手に、協力を訴えていた集団は、商店街の組合、地区住民の組合、父兄会等々区内のありとあらゆる団体のメンバー達だったようで、あっという間に全く異なる組織が1つの目的のために集結し、分担して捜索活動の支援をしていたようです。

私が驚いたのは、どの角でも誰一人、ぶら下がっている人がいなかったことです。5~6人いればメインの活動は1~2人で、後は一緒にいるだけのことが多いのですが、そのような人は一人もいませんでした。おそらく区内の全ての駅の周辺は同様な光景だったのではないかと思います。翌日チラシを見た区民が犯人といた女児を発見して、無事保護され大きな成果を生みました。少し地域を誇りに感じたものです。

犯罪を完全に回避することはできません。住みたいと思っている街が、いざというときに大きな力を発揮できる地域であるかどうかは重要なポイントですが、新しく移り住む地域に対して、自分が底力の一助になれるかどうかも大切な点です。

街選びは一時の価値観で選ぶことはできません。子育て重視に選んでも、子供はあっという間に成長して街を出て行くかも知れません。反対に代々住み続けて故郷となる可能性もあります。人生のその時々の必要性に応じて、住み替えていく考え方もあります。優良な中古物件が正当な価格で取引される環境が整備されれば持ち家でも、住み替えが容易になる時代が来るかも知れませんが、地元を持つ幸せ感は捨てがたいものがあります。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。