今回は、「夫婦で会社経営」「個人事業」「それぞれ自由業」「夫が独立すると言った場合」のそれぞれのケースについてみていきます。

夫婦で会社経営 - ともに成長する醍醐味を満喫できるが…

このケースは会社の規模や業種の社会環境等で、千差万別です。したがって、一般的な回答はありません。友人は結婚とともに小料理屋を経営し、やがて仕出し弁当に進出し、今ではその地方のその業界では最大手の企業に成長しています。ともに栄養士であり、協力しながら会社を成長させていく事ができ、妻独自の不動産も所有し、充分に蓄財できています。妻の蓄財術の一つではありますが、大切なことは自分を信じて存分に働くこことではないかと、友人を見ていて感じます。

個人事業 - 夫だけの個人事業はリスクが高い?

夫婦で店舗を営んだり、夫のみが個人事業を営んだりと形は様々です。家内事業や店舗の場合は夫婦で営む事が多いと思います。その場合、事業ノウハウは夫婦間で共有でき、片方が働けなくなっても事業を継続できる可能性はあります。しかし、例えば個人タクシーのようなケースは同じ個人経営でも、ノウハウは共有できず、万一の場合のリスクは高くなりがちです。

それぞれ自由業 - 建築士はリスクに敏感?

建築設計業界はこのケースが多くあります。ともに設計を仕事にする場合でも、夫婦で同じ事務所を経営するのではなく、別々に事務所を運営するケースの方が多いように思います。いろいろ聞くと、それぞれの夫婦で様々で実に面白いものです。2人とも第一線でバリバリ働く場合もあり、妻がサブ的に仕事をしているケースもあります。

夫婦でサイフは完全に別々というケースや、いつでも離婚して良いように常に考えているという人もいます。夫婦仲が悪いという意味ではなく、考え方のスタンスです。ファイナンシャルプランナーの業界は別として、他の職種と比較すると、建築士の社会は意外とリスクに敏感だという印象です。いろいろな夫婦や家庭環境を知る機会が多く、また幅広く様々な分野を見わたす教育のためなのかとも思います。ただし、厚生年金でない場合は、老後の年金が少なくなります。自営業はいつまでも働けますが、働けなくなった時の対策は考えておきましょう。

夫が独立すると言ったら - 夫が起業する前に妻は自分の財産の確保を

会社員で安定していたと思ったら、夫に突然「退社して起業したい」と言われ、あわてる妻は多いと思います。妻は日頃から夫を見ているはずです。今の仕事に一定の満足を得ているのか、不満だらけで、転職や独立したいと考えているのか、あるいは夫に経営の能力が備わっているのか…等、妻は観察可能なはずです。

あまりにも身近すぎて見えにくい部分もあると思いますが、本来女性は男性の能力を見分ける達人です。建設会社で働いている時の若い女性達の会話では、400人を超える設計部員の中から、将来の設計部長、取締役となるであろう20代の男性を正確に選び出していました。実際にそれは数十年先に実現しています。妻は夫を冷静に観察しましょう。起業して成功する比率はかなり低いのです。

私は東京都の支援を受けて独立し、その後インキュベーションオフィスを利用していました。ベンチャー企業や地方の企業が東京進出の拠点として計画されたものですが、関係者も驚いたことに、サラリーマンの入居率が20%もあったそうです。つまり、ゆくゆくは独立するために勤務しながら助走期間として利用するニーズが高いということではないかと思います。起業には周到な準備が必要ですが、助走期間を設けることはリスクを少なくできそうです。

起業には周到な準備が必要ですが、助走期間を設けることはリスクを少なくできそうです

では、実際に夫が独立したいと言った時、妻は今までの財産をどのように守れば良いでしょうか。夫が負債をかぶれば、財産を失いかねません。

連帯保証人にならない

夫婦共同で事業を目ざす場合は別として、夫の経歴を生かして夫が起業する場合は、妻が関与して事業に貢献できる確率は大きくないでしょう。これからの時代、妻も働いていたりして、妻独自の財産も確保されていくと思います。最低限どちらか片方の財産を守るように心がけましょう。実際に全ての財産を失い、夫に先立たれ、70歳過ぎても働いているケースの相談もあります。

自分の資産を確保する

婚姻期間20年を経過した夫婦の場合、居住用財産又は居住用財産取得の為の金銭を夫婦間で贈与した場合は基礎控除額110万円+2,000万円までは贈与税がかかりません。住まいが全て夫の名義になっている場合、持分の半分を妻に移行したり、住まいを守るために全額妻に贈与したりしても、特例の範囲内であれば贈与税はかかりません。夫が独立して、万一うまくゆかなかった場合、住まいを失うリスクをこの方法で防ぐ事ができます。専業主婦だった母は、父が定年退職して起業するときにこの制度を利用しました。

妻の寄与分を確保

配偶者が死亡した場合、残された配偶者が受取る財産に関する相続税に関しては、大幅な特典があり、一般的な日本人の場合はほとんど相続税を支払う必要がありません。しかし、本来寄与分は日々発生しているはずです。起業する場合は、リスクを考えて創業資金のほかに、数年間の生活費をプールしておく方が懸命です。しかし、これを夫の預貯金のままにしておくと、経営資金に消えてしまいかねません。そもそも創業の年から生活できるだけの充分な実績を上げることは難しいはずです。

贈与税の基礎控除は受取る人毎に毎年110万円ずつあります。思い立った明日から創業とはならないはずですので、2年間くらいは基礎控除の範囲で贈与を受けておくと良いと思います。妻だけでなく、子供も同様に基礎控除を受けられますので、かなりな金額になるでしょう。創業資金のほかにその程度の余力がなければ創業してはいけません。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。