歯周病が原因で全身疾患のリスクが高まったり、症状が悪化したりするケースもある

歯周病は歯の疾患として広く知られているが、心臓疾患などのリスクを高め、命の危険がある病気と関わりがあることはあまり知られていないのではないだろうか。

本稿では、M.I.H.O.矯正歯科クリニック院長の今村美穂医師の解説をもとに、歯周病が引き起こす全身疾患などを紹介していこう。

歯周病が引き起こす全身疾患

歯垢(プラーク)内の細菌によって引き起こされる炎症性疾患である歯周病。感染経路は歯周病菌による接触感染で、人から人へと移る感染症だ。感染リスクは、「遺伝的要因」と「環境要因」があり、今村医師によると環境要因には「歯垢がたまりやすい不均一な歯並び」「縁が合っていない歯の詰め物・かぶせ物」「歯周組織に過度な力を負担させる噛み合わせ」「ストレス」「喫煙」などがあるという。

虫歯の数は減ってきているが、歯並びの悪化や異常な噛み合わせなど、日本では以前よりも歯周病になりやすい環境が整ってきている。そんな中、近年では高齢化も進んでいることから、歯周病菌が全身疾患に大きく関与している点も問題視されている。今村医師は歯周病を患っていると、「糖尿病」「心疾患」「低体重児」のリスクが悪化することがエビデンス(科学的根拠)によって証明されていると話す。

例えば心疾患。わずかでも口の中で出血すれば、歯周病菌を取り込んだ血が血管内に入ってしまい心臓で炎症を起こすため、歯周病患者が心筋梗塞などの心疾患を起こす確率は2~3倍も高くなると言われている。また、動脈硬化も引き起こしやすくなるとされている。歯周病菌の刺激によって動脈硬化を誘発する物質が排出され、血管が通る道が細くなることが原因だという。

糖尿病も歯周病と密接な関係があり、慢性炎症としての歯周炎をコントロールすれば糖尿病の状態も改善することが示唆されている。その一方で、糖尿病があると歯周炎が重症化しやすく、結果として歯周病になりやすいことから、この2つの疾患には双方向性があると言える。

「さらに、低胎児出産も問題となってきています。妊婦が歯周病にかかってしまっている場合、低体重児や早産のリスクが7倍も高まると言われています。妊娠中はホルモンバランスが崩れるため、歯周病につながる歯肉炎にどうしてもなりやすく、それを放置したまま出産するとなると、やはりリスクが高まってしまいます。ましてや、近年は高齢出産される方も増えてきていますから、なおさらではないでしょうか」。

進化している歯周病治療

口臭や抜歯、さらには糖尿病などの全身疾患などにつながる歯周病は、まさに「すべてのトラブルの元凶」とも呼べる存在と言っていいだろう。それだけに、再生医療で喪失した骨レベルを回復させたりレーザーで歯周ポケットを殺菌したりするなど、歯周病を治療するための技術も進歩している。

「今は歯周外科医師といって、歯周病などで歯がなくなったところに骨を再建してインプラントや歯の移植などをする医師もいます。再生医療に近いイメージですね。これまでの歯周病治療では、『歯を守っていく』という現状維持が限界でしたが、今はより進歩していますので積極的に治療していただければと思います」。

※写真と本文は関係ありません

記事監修: 今村美穂(いまむら みほ)

M.I.H.O.矯正歯科クリニック院長、MIHO歯科予防研究所 代表。日本歯科大学卒業、日本大学矯正科研修、DMACC大学(米アイオワ州)にて予防歯科プログラム作成のため渡米、研究を行う。1996年にDMACC大学卒業。日本矯正歯科学会認定医、日本成人矯正歯科学会認定医・専門医。研究内容は歯科予防・口腔機能と形態 及び顎関節を含む口腔顔面の機能障害。MOSセミナー(歯科矯正セミナー、MFT口腔筋機能療法セミナー)主宰。