市場の変化が激しい昨今では、データドリブン経営の必要性が叫ばれています。そのなかで、イノベーションやデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に寄与するデータ分析方法を確立することが求められます。将来的に、現在とは異なるデータ分析需要が発生しても、分析活動を支援できるシステムを構築することが、さらなるビジネス拡大のカギとなります。

前回のコラムで解説した通り、データ分析基盤を正しく構築することで、質の高いデータ分析を高速かつ継続的に実施できます。では、データドリブン経営に必須となるデータ分析基盤を、どのような環境で構築すれば良いのでしょうか?

今回は、オンプレミスやクラウドといったITインフラの視点からデータ分析基盤の構築方法について解説していきます。

オンプレミスとクラウドのデータ分析基盤構築の違い

前回のコラムでは、データ分析基盤の構築手順を次のように説明しました。

1. データアセスメントの実施:
蓄積してきたデータを客観的に評価する。
2. データベースのスキーマの定義:
現在どのようにデータを処理しているのか調査して、データ構造を定義する。
3. データの流れを整理する:
データの流れが正しく設計される(途中で前の段階に戻らない)ように調整する。

ここまで進んだら、次に行うべきはITプラットフォームの選定です。どんな製品を選定するのかという観点のほか、重要になるのはデータの置き場所です。ここではオンプレミスクラウドの2種類の環境について比較してみましょう。

●オンプレミスでの構築によるメリット・デメリット

オンプレミスでは、ハードウェアやソフトウェアといったIT資産を、自社で保有するサーバールームやデータセンターなどを活用して運用管理します。オンプレミス環境でデータ分析基盤を構築する場合は、次のような事項を検討する必要があります。

・蓄積しているデータ量の確認
・調達するネットワーク、ソフトウェア、ハードウェア
・初期投資額と費用対効果の照らし合わせ
・セキュリティ対策の検討とセキュリティ担当者の選定
・保守体制の構築と保守担当者の選定

オンプレミス環境でデータ分析基盤を構築するメリットは、大きく分けて2つあります。1つ目は、全てのリソースを自社内でまかなっているため、製品やサービスを自由に選んだりシステム構成をカスタマイズしたりできること。2つ目は、データが第三者ではなく自社の管理下にあるという安心感を得られるということです。デメリットは、システムの構築に時間と費用がかかってしまうこと、運用にそれなりの人手がかかってしまうことです。

ハードウェアやソフトウェアを選定して納品を待ち、実際に構築する時間はもちろん、個人情報や顧客データを蓄積している場合、そのための堅牢なセキュリティ対策も施さなければならず、そのための時間も要してしまいます。オンプレミスはシステム構成を自社で自由に管理できる分、中身を熟知している運用担当者が退職しても、代わりの人材がしっかり運用できるような情報共有の仕組みを構築することが重要です。

●クラウドでの構築によるメリット・デメリット

データ分析基盤をクラウドで構築する場合、考えるべき項目は次の通りです。

・蓄積しているまたは今後蓄積される予定のデータ量はプラン内に収まるか
・初期費用と月額費用は、サービス内容もしくは予算に見合っているか
・セキュリティをどのように担保するか
・IaaS(Infrastructure as a Service)あるいはPaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)のうち、どれを採用するか

メリットとしては、短時間でデータを統合できること、スモールスタートしても後から拡張しやすいこと、初期投資額が少なく済むことが挙げられるでしょう。デメリットは、クラウドサービスの事業者のポリシーに沿ってデータを管理しなければならない点ですが、自社のポリシーに近い事業者を選定すれば、その心配は基本的に不要です。

また、サイバー攻撃の激化が懸念されるなか、セキュリティの体制に不安のある企業の場合、インフラレイヤーのセキュリティ対策をクラウド事業者に任せられることも大きなメリットと言えるでしょう。

ここまで触れたように、オンプレミスとクラウド、2つの環境のメリットとデメリットを考えると、変化に柔軟に対応できる観点からクラウドでの構築を考える企業が多くなると考えられます。

経営上の観点から考えるクラウドのメリット

データ分析基盤をクラウドで構築するのが適当である理由は、経営上の側面にもあります。DXの取り組みが進む現代では、できるだけ早くビジネスを開始し、変動する市場に追随する必要があります。最新のデータを多角的に分析し、アイデアを出して、ビジネスへ落とし込むアプリケーションを構築する時に、サーバーやストレージの選定から始めていると他社に遅れを取ってしまいます。その他にも、クラウドなら運用にかかる人的リソースやコストを抑えながら、柔軟性に優れたデータ分析基盤を構築できます。

では、クラウド上で素早くデータ分析基盤を構築する際に、IaaS、PaaS、SaaSの複数の選択肢からはどの形態を利用するのが良いのでしょうか。データ分析基盤としても利用されるデータウェアハウスやデータレイクはSaaSとして提供されているため、これを利用すれば、最も手軽かつ少ない運用負荷で始めることができます。もちろんSaaSである分、システム構成の柔軟性は後述するPaaSやIaaSよりも限定的です。

PaaSの場合は事業者がITインフラやミドルウェアをすでに用意しており、ユーザーが管理するのはアプリケーションとデータ部分のみとなります。一方のIaaSはOSやミドルウェアもユーザーが管理しなければなりません。オンプレミス環境に構築済みの環境をそのままクラウドに移行させたい場合はIaaSを選ぶとよいでしょう。

データ分析基盤のクラウドシフトにおける現状

データ分析基盤のクラウド化には既に多くの企業が着手し、成果をあげています。たとえば、国際金融サービスを手掛けるウエスタンユニオンは、データウェアハウジングコストを50%削減しました。※1 ニュージーランドに本拠を置く金融融資企業であるハーモニーは、クラウド化によって10倍高速なレポーティングを実現しています。※2

金融サービスは、特にクラウドシフトの機運が高まっている領域です。その背景には、既存システムの老朽化、セキュリティ面を重視したことによる外部システムとの連携の難しさ、厳格な規制のために、データへのアクセスと効果的な活用が難しいことがあります。

広告やメディア、エンタメ分野もクラウドシフトが盛んに行われている領域です。消費者の習慣が絶えず変化するなかで、カスタマーエクスペリエンス(CX)を高め続けていくためには、クラウド上にデータ分析基盤を構築し、需要を分析して素早く応えていく柔軟性が求められます。

では、日本企業のデータ分析基盤のクラウドシフトはどの程度進んでいるのでしょうか。総務省が2020年に公表した調査資料※3によると、データ収集、データ蓄積、データ処理(AIの適用を含む)の目的で製品・サービスを導入した日本企業はいずれも2割程度にとどまりました。その一方で、米国やドイツの企業は、日本企業の数値を大きく上回っています。

世界各国がデータ活用に取り組んでいる背景を考えると、今後日本でも、迅速な意思決定のために幅広い業界の企業にてデータ分析基盤のクラウド化が求められるでしょう。

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※出典:総務省「令和2年版情報通信白書」
(図表3-2-2-1 データ収集・蓄積・処理の導入状況)※引用日:2024年2月1日

「データ爆発」時代に求められるデータ分析基盤

データの量に関しては以前と比較できないほど膨大になっており、適切な管理体制の構築が企業にとっての課題となっています。前述した総務省の調査※4によると、アクセスログ、動画・映像視聴ログ、POSデータ、eコマースにおける販売記録データ、GPSデータ、RFIDデータの量が爆発的に増えていることが分かります。

  • 図版

※出典:総務省「令和2年版情報通信白書」
(図表3-2-1-1 分析に活用しているデータ)※引用日:2024年2月1日

今後は大量のデータを素早くかつ正確に分析し、イノベーションにつなげてDXを実現することが、現代企業におけるデータドリブン経営の基本形となるでしょう。経営に寄与できるデータ分析基盤を構築するには、スピード・ローコスト・スケーラビリティを主な特長とするクラウドをITインフラとして検討するべきです。すでにオンプレミス環境で構築している場合も、クラウドシフトを視野に入れることが求められます。

昨今ではAmazon Web Services(AWS)、Google Cloud Platform(GCP)、Microsoft Azure、IBM Cloudといった主なクラウドサービスが、クラウド上のデータ分析基盤の構築に役立つソリューションを提供しています。これらは主にIaaSやPaaSを提供する一方、「Snowflake」のように、きめ細かなデータ分析が可能なSaaSベースのデータプラットフォームソリューションも存在します。次回のコラムではSnowflakeを活用したデータ分析基盤のメリットや特長を詳しく解説します。


※1 出典:
Snowflake ケーススタディ「Harmoney: 顧客のバンキング体験から摩擦を取り除く」
https://resources.snowflake.com/case-study/harmoney-case-study-removing-friction-from-the-customer-banking-experience
(参考日:2024年2月1日)

※2 出典:
Snowflake ケーススタディ「ウエスタン ユニオンはコストを50%削減し、Snowflakeでマルチクラウド戦略を実現」
https://resources.snowflake.com/case-study/western-union-reduces-costs-50-and-achieves-multi-cloud-strategy-with-snowflake
(参考日:2024年2月1日)

※3、4 出典:
総務省「令和2年版情報通信白書」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/pdf/n3200000.pdf
(参考日:2024年2月1日)


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