• 認定特定非営利活動法人フローレンス 働き方革命事業部 人事 サブマネージャー 清野 友花 氏

ビジネスや生活にITが浸透し、人々の生き方・働き方が多様化したことで、企業における人事労務業務のあり方も変化が求められています。本連載は「新しい人事労務のあり方」をテーマに、人事労務の仕事を最前線で支えるキーマンにインタビューを実施。人事労務の可能性を広げる経験や考え・ビジョンを聞いていきます。第1回となる本稿では、 認定特定非営利活動法人フローレンス 働き方革命事業部 人事 サブマネージャーの清野 友花 氏に話を伺い、社会をより良くするための活動を支える、同社の人事労務のあり方やビジョンについて語っていただきました。

社会問題解決集団であるフローレンスの活動を支える「働き方革命事業部」

──はじめに、認定特定非営利活動法人フローレンスの事業内容とビジョンについてお聞かせください。

『みんなで子どもたちを抱きしめ、子育てとともに何でも挑戦でき、いろんな家族の笑顔があふれる社会』が、私たちの目指すビジョンです。NPO法人として2004年に設立され、訪問型の病児保育をはじめ、障害児家庭支援事業、小規模保育事業など、親子の笑顔をさまたげる社会問題を解決するための活動を行っています。固定概念にとらわれず、今までなかったことや新しいことに取り組んでおり、事業の推進だけでなく、社会をより良くするための政策提言・ソーシャルアクションも積極的に展開しています。

もともとNPO法人としては規模の大きな組織でしたが、ここ数年でさらに事業を拡大し、現在は保育士や看護士などの現場スタッフを含め、800名弱のメンバーで活動しています。

──数多くの事業を展開するフローレンスですが、その活動を支えるバックオフィス(人事・総務・経理・法務・システム)業務は、清野さんが所属する「働き方革命事業部」という組織が担っていると伺っています。名称の由来とバックオフィスとして掲げられているミッションについてお話しください。

フローレンスでは、”働き方改革”というキーワードが社会に浸透する以前から、新しい働き方の推進や全てのスタッフが生き生きと働ける環境作りに注力してきました。そういった活動を推進するための部門として、「働き方革命事業部」という部署名が付けられました。働き方革命事業部全体では、マネージャーを含めて約50名が在籍していて、人事労務をはじめバックオフィス業務全般を担っています。

働き方革命事業部としてのビジョンは、『持続可能性を考えながら、フローレンスの“やりたい”を叶え、社会的インパクトを生み出す』ことで、それに連なるミッションとして「日本一多様で働き甲斐のある組織作り」「経営とともに走る、良きパートナー」「他の組織、世界を前進させる」の3つを掲げています。フローレンスは、社会課題の解決という極めて難易度の高い目標に向かって活動を続けており、働き方革命事業部が掲げるミッションには、最高難度の山に挑むチームを支える“登山ガイド”でありたいという思いが集約されています。

私は、働き方革命事業部の人事(HR)チームに所属しています。人事労務の仕事に加えて企画系の仕事や採用業務にも携わっており、実務をやりつつサブマネージャーとしてチームのマネジメントも行っています。

シビアで職人的な仕事だが、一歩踏み出せばクリエイティブな仕事に変わる

──人事労務担当者は、一般的に「事務的な作業をする人」というイメージがありますが、こうしたイメージに対してどのように感じておられますか。

給与計算や社会保険の手続きなどをしていると、地味な仕事と感じるときはあります。ただ、1つ1つのオペレーションの背後には、社員それぞれの自己決定や人生のイベントがあるため、こうした業務を通して、間接的に社員の生き方や生き様といったものに伴走し支援していける、非常にやりがいのある仕事だと思います。とはいえ、ミスは許されず“正しいこと”が当たり前のため、シビアで職人的な仕事であるのも事実ですね。

──清野さんが思い描く「新しい人事労務のあり方」や、これからの人事労務に求められていることは何だとお考えでしょうか。

「ミスなく滞りなく業務を行う」ことは当たり前に、そこにとどまらず、「もう一歩先に進もうと考え続ける」ことが大切だと考えています。私自身が人事労務の仕事をおもしろいと感じている理由もそこにあります。

たとえば各種手続きを処理していると、「何故こうなっているのか」「こういうやり方ではダメなのか」といった相談をいただきます。それに対して「ルールだからできません」と返すのは簡単です。確かにそれも管理部門として正しいあり方ですが、そこから視野を広げ、どうすれば社員や事業部の抱える課題や悩みを解決できるのかを考えていくと、事務的だった人事労務の仕事は一気にクリエイティブなものに変わります。

もしかしたら、新しい手当を作ることで解消できる課題があるかもしれないし、新しい職種・新しい枠組みのなかで管理すれば効率化できるかもしれない。「ダメ」で終わらせずに、現状の仕組みをどうアップデートすれば解決できるのかを一緒に考え、みんなが納得できる着地点を見出していく。そこまで踏み込んでいけば、人事労務の仕事にやりがいを感じられると思います。

──今までなかったこと、新しいことに取り組むフローレンスのビジョンは、お話しいただいた「新しい人事労務のあり方」にマッチするとお考えですか。

そうですね。先に述べた「日本一多様で働きがいのある組織作り」「経営とともに走る、良きパートナー」というミッションを掲げていることもあり、社員や事業部の思い、人事労務領域における相談に対して、積極的に対応できていると思います。800名弱という規模感もそうですが、他の企業や組織に比べて職種が多く、手当の種類もたくさんあります。病児保育、障害児保育、保育園事業など、現場を持つ事業が複数あり、それぞれ専門職のスタッフが在籍しています。月給制や時給制など給与形態もさまざまで、さらに週4日勤務で働きたいというスタッフもいるなど、膨大なパターンがあります。職種によって人事制度、給与体系、評価制度が変わってくるので、私たち人事労務の業務は非常に複雑化しています。

1つの枠組みに統一してシンプル化する方法もありますが、「日本一多様で働きがいのある組織作り」を目指すフローレンスとしては、そこに舵は切りません。そういった意味でも、みんなが納得できる着地点を見出していくという新しい人事労務のアプローチには大きな効果があると考えています。

システム投資は「人への投資」。ITの活用でコア業務に注力できる体制を構築

──昨今、あらゆる企業でクラウドやモバイルをはじめ、ITツールの導入・活用がトレンドとなっています。フローレンスにおけるシステム投資の考えについてお聞かせください。

フローレンスは、新しいことへの挑戦、いわゆる前進力・突破力はあるのですが、その一方で作り出したものを整備し定着させる、すなわち土台を作る部分は、まだまだ課題があると感じています。フローレンスのミッションは『親子の笑顔をさまたげる社会課題を解決する』ことで、そこが揺るぎないコア領域になります。そこに集中するために、それ以外の仕事や土台となる部分はできるだけシステムに任せていく。これが、フローレンスが考えるシステム投資のスタンスです。システムの導入にお金を使うというより、人がコア業務に注力できる環境を整える、「人への投資」といえます。

昨今のコロナ禍を経て社会全体がデジタル化にシフトしていますが、フローレンスでは、それ以前からデジタル化・ペーパーレス化に積極的に取り組んでいます。もちろん、 自治体との手続きや社会保険の申請など紙から脱却できない業務もありますが、組織内の各種申請・承認はすべてワークフローでシステム化され、紙の承認はほとんどありません。現場のスタッフも、スマホやタブレットで勤怠の打刻や各種申請を行えるようになっており、現場の業務に注力してもらえる体制を構築できています。

──そうしたシステム投資の一環として、現在はバックオフィスSaaS『マネーフォワード クラウド』(給与・社会保険・年末調整)の導入を進められていると伺っています。

フローレンスでは、人事労務制度は複雑化していて、汎用的なパッケージ製品では対応できない状況です。細かな変更や手当の追加を行うだけでもベンダーさんにお願いして、時間をかけて改修する必要がありました。

マネーフォワード クラウドは、設定は大変ですが細かなカスタマイズを実務担当者レベルで行えるのが大きな魅力で、簡単なものなら5分もあれば私でも変更できます。そこが採用の決め手となりました。まだ実務レベルでの稼働には至っていませんが、しっかりと設定を行えば、人事労務の仕事を自動化・効率化できるという手応えを感じています。

データ・数値の処理だけでなく、その先にある社員の人生に伴走するのが「新しい人事労務のあり方」

──人事労務の仕事もアップデートされていくなか、フローレンスでは今後どのような社会貢献を目指していくのでしょうか。人事労務部門の目指すビジョンも含めて、今後の展望をお聞かせください。

親子に関わる社会課題はいまだに山積みです。その解決に向けて新しい事業を作り、力強く前進していくというスタンスはそのままに、法律を変えるための政策提言など、前提となるルールを変える取り組みも拡大していく必要があると思います。具体的なアプローチはまだ模索中ですが、将来的には世の人々の価値観や文化までを、より良い方向に変えていける団体にしていきたいと考えています。

人事労務としても、その実現に向けた前進は止めず、現場のスタッフと一緒に社会をより良くするための支援をしていく、という方向を目指しています。私個人の意見としては、システムの導入も含め、これまで培ってきた複雑化した人事労務制度の管理手法を、同じ悩みを持つ企業・組織に対して発信し、「他の組織、世界を前進させる」という働き方革命事業部のミッションを達成するような取り組みにチャレンジしてみたいですね。

──最後に「新しい人事労務のあり方」を模索している企業・組織の担当者や、これから人事労務に携わりたいと考えている人にメッセージをお願いします。

人事労務の仕事は、データ・数値を処理するだけで終わらせることもできます。ただ、そこから一歩踏み込んで、その先にある社員の人生にまで思いを馳せることで、やりがいを感じられる仕事になるはずです。

もちろん、人事労務の仕事は管理すること、ルールを守ってもらう働きかけをすることが基本ですが、ルールの遵守を意識しすぎると、そこで思考停止してしまいます。ルールを破るのを是とするわけではありませんが、ルールをどうアップデートすれば、より良い仕組みになるのかを考え続けることで、人事労務のおもしろさを実感できると思います。嫌われ役になることもある仕事ですが、ステークホルダーと一緒に解決方法を考えている「チーム感」を大切にすれば、全員がハッピーになれるのではないでしょうか。

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